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日本のインフレ動学と労働投入調整の関係:ベイズ推計による考察

2008年9月
一上 響*1
黒住卓司*2
砂川武貴*3

要旨

 インフレ動学を分析した多くの研究では、異質な家計の存在に伴うモデルの複雑化を回避すべく、全ての家計が就業し、企業は労働時間の調整によって労働投入を調整することが仮定されている。これに対し、最近では、失業の存在を許容し、企業が雇用調整によって労働投入を調整するモデルが用いられるようになってきた。そこで、本稿では、(1)労働時間のみで調整するモデル、(2)雇用調整のみで調整するモデル、(3)労働時間と雇用の双方で調整するモデル、の3つをベイズ推計し、モデルの妥当性を統計的に比較した。同推計結果によれば、労働投入の調整が雇用のみで行われるモデルの方が、労働時間のみで行われるモデルよりも、周辺尤度の観点からデータとのフィットが遥かに良いことがわかった。この推計結果は、雇用調整が、日本のインフレ動学に対して重要な影響を与えていることを示唆している。また、本稿では、労働時間と雇用の双方で労働投入を調整するモデルの方が、限界尤度がさらに高くなることが示された。さらに、このモデルにおいて推計された限界費用が、日本銀行調査統計局推計のGDPギャップとは正の相関関係にあることが分かった。理論上、物価の重要な決定要因は、GDPギャップでなく実質限界費用であるが、本稿の結果は、調査統計局推計のGDPギャップが限界費用の代理変数として有用である可能性を示唆している。

  1. *1日本銀行調査統計局 E-mail: hibiki.ichiue@boj.or.jp
  2. *2日本銀行企画局 E-mail: takushi.kurozumi@boj.or.jp
  3. *3日本銀行調査統計局(オハイオ州立大学留学中)

日本銀行から

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