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経済危機下での経営再建:

2000年代前半の日本の経験

2009年4月
福田慎一*1
粕谷宗久*2

要旨

 2000年代前半から半ばにかけての日本経済では、かつて「問題企業」と呼ばれた企業の多くが業績を改善させた。この日本の経験は、いかにして危機から回復するかに関して有益な示唆をもつと考えられる。本稿の目的は、2000年代前半の景気回復過程において、なぜ「問題企業」の多くが復活したのかをイベント・スタディーで考察することにある。分析では、2001年当時に一定の客観基準で「問題企業」と分類されていた企業群について、イベント後、企業価値がどのように変化していったかを、株価の超過収益率(アブノーマル・リターン)を使って考察する。分析では、一般株主に対して減資が行われたかどうかによって企業を2つのグループに分け、それぞれのグループでイベントが株価にいかなる影響を与えたかを検証する。

 分析結果から、一般株主への減資が行われなかったグループ1では、他社との業務提携やスポンサー企業の金融支援が大きな影響を与えていた。一方、減資が行われたグループ2では、銀行の金融支援と他社との経営統合が大きな影響を与えていた。ただし、優良企業との提携・経営統合は復活に効果的であったが、「問題企業」同士の提携・経営統合は逆に復活を遅らせる傾向が観察された。さらに、金融機関やスポンサー企業による支援では、借り手側からの支援要請ではなく、貸し手側からの積極的な支援が復活を促進する傾向が観察された。本稿の結果から、日本経済が回復する過程で、幸運な外的要因だけでなく、企業の経営努力や政策対応が「問題企業」が復活する上で効果的であったといえる。ただし、危機からの回復には、必要なものと無駄なものを適切に選別する、メリハリのついたリストラが重要であったことも同時に示唆される。

本稿をまとめるにあたっては、統計研究会・釧路コンファレンスおよび日本銀行調査統計局における報告会の参加者から有益なコメントをいただいた。特に、指定討論者の細野薫氏(学習院大学)のコメントは有益であった。また、田陽介、野崎政樹、七宮圭の各氏には、資料やデータの整理および推計でお手伝いいただいた。ここに記してお礼を申し上げる。なお、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではない。

  1. *1東京大学大学院経済学研究科 E-mail: sfukuda@e.u-tokyo.ac.jp
  2. *2日本銀行調査統計局 E-mail: munehisa.kasuya@boj.or.jp

日本銀行から

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