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非上場企業における退出は効率的か―所有構造・事業承継との関係―

2010年3月
植杉威一郎 *1

要旨

本稿では、中小企業を中心とする非上場企業の存続と退出が効率的に行われているか、かつ、オーナー経営者が多く事業承継が困難という非上場中小企業の特徴が、存続・退出の過程にどう影響しているかについて、延べ約3万社の企業レベルデータを用いた分析を行う。その結果、非上場企業における存続・退出の過程は概ね効率的であるとの結果を得ている。第1に、大株主経営者のいる企業も含めた非上場企業の退出確率は、生産性などのパフォーマンスが悪化する場合に高くなる。第2に、非上場企業における社長交代確率は、パフォーマンスが悪化する場合に高まり、企業に対するガバナンスがある程度機能していることを示唆する。一方で、非効率な部分も存在する。第1に、大株主経営者のいる企業では、廃業等の確率が低く、かつ、企業のパフォーマンスが大幅に悪化しても廃業までに時間を要する傾向にある。企業の解散で損失を被る経営者が、業績の回復が見込めない場合でも企業を存続させるインセンティブを持つことを示唆する。第2に、後継者が見つかりにくい小規模企業や役員数の少ない企業では、存続企業の質と退出企業の質の差は小さい。こうした企業では、自然な淘汰の程度が弱いことを示唆する。

本稿は、第3回東京大学金融教育研究センター・日本銀行調査統計局共催コンファレンスで発表した論文を改訂したものである。討論者の蟻川靖浩氏(早稲田大学)ならびにコンファレンス参加者から有益なコメントを頂いたことに感謝する。なお、コンファレンス発表論文は"Top Executive Turnover in Japanese Non-listed Firms: Causes and Consequences" (一橋大学経済研究所PIE/CIS DP Series) をその内容を踏まえつつ全面的に改訂したものである。旧稿に対して、堀敬一氏(立命館大学)ならびに日本経済学会秋季大会、金融学会関西部会、経済産業研究所金融・産業ネットワーク研究会、法政大学新展開研究会の参加者から有益なコメントを頂いたことに感謝する。同論文の共著者である齊藤有希子氏(一橋大学経済研究所、富士通総研)に加えて、坂井功治氏(一橋大学経済研究所)との意見交換、内野泰助氏(一橋大学大学院)、篠塚友吾氏(一橋大学大学院(当時))によるリサーチアシスタントに感謝する。今回の研究には、社団法人日本内部監査協会の助成が与えられていることに感謝する。本稿のうち意見にわたる部分は全て筆者の個人的見解である。

  1. *1一橋大学経済研究所, 経済産業研究所 E-mail : iuesugi@ier.hit-u.ac.jp

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