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日本の労働生産性に関するリアルタイムデータ分析

2010年3月
一上響 *1
原尚子 *2

要旨

本稿では、SNA統計を用いて算出した日本の労働生産性に対する統計の遡及改定の影響を分析する。主な結論は以下のとおりである。第1に、SNAの改定は、確報化、確々報化、1回目の基準改定だけでなく、2回目の基準改定以降でも大きい。こうした改定を経て、労働生産性の前年比の改定幅は、1%ポイント以上に達することも多い。第2に、労働生産性は過去平均的に上方改定されており、前年比の改定幅は平均0.4%ポイント程度である。ただし、過去の上方改定には、国勢調査における無回答者の増加に伴う統計精度の劣化も一部影響している。第3に、労働生産性の改定は、国勢調査や就業構造基本調査などの基礎統計の動きをみれば、ある程度予測できる。また、回帰分析の結果は、リアルタイム値が低いときや業況がよいときに、上方改定されやすいことを示唆している。以上の結果に基づくと、2000年代の労働生産性は、SNAのほとんどのデータが基準改定を高々1回しか経ていないこともあって、今後大きく遡及改定されていく可能性が高い。また、下方改定よりは上方改定される可能性の方が高い。

キーワード:
リアルタイム、生産性、SNA、金融政策、サーベイデータ

本稿の執筆にあたっては、稲葉圭一郎、神山一成、亀田制作、北村冨行、須合智広、関根敏隆、中村慎也、福永一郎、門間一夫をはじめ日本銀行の各氏から有益なコメントをいただいた。東京大学金融教育研究センター・日本銀行調査統計局第3回共催コンファレンス「2000年代のわが国生産性動向 — 計測・背景・含意 —」での報告にあたっては、指定討論者の小巻泰之氏をはじめ多くの方々からコメントをいただいた。また、内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部の方々には、SNA統計の作成方法に関する筆者らからの質問に対し、回答をいただいた。加えて、荒井千恵、田中智章、新田貴紀、宮島大輔の各氏には、リアルタイムデータベースの作成において、多大なる協力をいただいた。記して感謝の意を表したい。ただし、本稿の内容と意見は筆者ら個人に属するものであり、日本銀行および調査統計局の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行調査統計局 E-mail : hibiki.ichiue@boj.or.jp
  2. *2日本銀行調査統計局 E-mail : naoko.hara@boj.or.jp

日本銀行から

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