日本の物価変動の背景:事実と論点の整理
2011年12月19日
西崎 健司*1
上野 陽一*2
田中 昌宏*3
要旨
本稿では、1990年代以降におけるわが国の物価変動の背景について、基本的な事実を確認するとともに、誘導型のフィリップス曲線の枠組みを用いて主要な論点を整理した。
第一の論点は、予想インフレ率は低下したのか、低下したとすればどの程度かという点である。これには、予想インフレ率の動きの背景は何かという点も付随する。
第二の論点は、何故、需給ギャップが長期間にわたってマイナスの領域にあったのかという点である。
第三の論点は、その他の要因として、為替動向やグローバル化の進展、規制緩和の影響などをどのように考えるかという点である。ただし、この論点には、本稿で取り上げなかった要因として、何か他に重要なものがあるかということも含まれる。
可変パラメータ・モデルを用いて、1990年度以降のインフレ率をフィリップス曲線の各要因(トレンド・インフレ率要因、需給ギャップ要因、その他要因、自己ラグ)に分解すると、1990年代以降のインフレ率低下には、トレンド・インフレ率要因、需給ギャップ要因、その他要因の3要因全てが寄与しているとの結果が得られる。しかし、こうした推計結果はあくまで誘導型のフィリップス曲線に基づくものであり、その背後にある構造に潜む本源的な理由は何かまでは識別できていない。当コンファレンスを含め今後のリサーチを通じて、そうしたことに関する理解が一層深まることが期待される。
本稿は、東京大学金融教育研究センター・日本銀行調査統計局による第4回コンファレンス「日本の物価変動とその背景:1990年代以降の経験を中心に」(2011年11月24日開催)の導入セッションにおける報告論文である。
本稿の作成に当たっては、岩崎雄斗、桜健一、鈴木淳子、原尚子の各氏から計表作成で助力いただいた。また、日本銀行のスタッフ各氏から有益なコメントをいただいた。残された誤りは全て筆者に帰する。なお、本稿中の意見・解釈に当たる部分は筆者達によるものであり、日本銀行あるいは調査統計局の公式見解を表すものではない。
- *1日本銀行調査統計局 E-mail : kenji.nishizaki@boj.or.jp
- *2日本銀行調査統計局 E-mail : youichi.ueno@boj.or.jp
- *3日本銀行調査統計局 E-mail : masahiro.tanaka@boj.or.jp
日本銀行から
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