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長期金利の変動要因:主要国のパネル分析と日米の要因分解

2012年5月30日
一上響*1
清水雄平*2

要旨

本稿は、日米を含む先進10か国のフォワードレートに関するパネル分析を通して、長期金利の変動要因について検証したものである。インフレ予想や自然利子率を左右する労働生産性の上昇率に加え、財政状況や対外ファイナンス、人口動態も長期金利に有意な影響を及ぼすことが確認された。主たる分析結果は、以下の通りである。第1に、財政指標としては、フロー変数(プライマリーバランス)よりもストック変数の説明力が高く、また、ストック変数としては、グロス政府債務よりもネット政府債務の方がフォワードレートに対する説明力が高い。第2に、対外ファイナンス指標としては、フロー変数の経常収支よりも、ストック変数のネット対外債務の説明力が高い。政府債務の増加のすべてを海外からの借り入れでファイナンスした場合には、国内からの借り入れに比べ、フォワードレートの上昇が約2倍となる。第3に、高齢化の進行は、金利の上昇要因ではなく下落要因として作用している。高齢層の金融資産需要、特に安全資産に対する需要の強さなどを反映しているとみられる。また、パネル分析で推計されたパラメータを用い、日米のフォワードレート変動の寄与度分解も行ったところ、日本では、政府債務の増加が金利上昇圧力として作用する一方、団塊世代の引退に伴う急速な高齢化の予想や、ネット対外債権の増加が金利低下を促してきた。米国では、2000年代入り後、ベビーブーマーの引退に伴う将来の高齢化が織り込まれ始めたことが、金利低下圧力となっている。

キーワード
長期金利、財政、対外ファイナンス、人口動態

本稿の内容と意見は筆者ら個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行企画局 E-mail : hibiki.ichiue@boj.or.jp
  2. *2日本銀行企画局 E-mail : yuuhei.shimizu@boj.or.jp

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