高スキル労働者の転職行動
2014年2月19日
永沼早央梨*1
要旨
本稿では、高スキル労働者として「技術職」、「専門職」、「管理職」の3職種に着目し、近年の転職動向について事実整理を行った上で、転職パターンの違いや転職による賃金の変化について実証的に検証した。
本稿の分析の主な特徴は以下の2点である。まず、転職後の産業・職種の性質が転職前と比べて、どの程度近いか(「スキル距離」)を定量的に測定して転職パターンを検証した。また、高スキル労働者のうち、職務内容や属する産業が大きく異なる「技術職」と「専門職」を区別して転職パターンや転職前後の賃金変化の違いを分析した。
主な結果は以下のとおりである。第一に、高スキル労働者に対する企業の中途採用意欲は強いとみられる一方、高スキル労働者の転職率は他の職種と比べて低位にとどまっている。さらに、転職率は、学歴が高くなるほど、企業規模が大きくなるほど低下する傾向にある。第二に、高スキル労働者の中でも、職種によって転職パターンや転職前後の賃金の変化は異なる。「管理職」は前職と異なる(「スキル距離」が遠い)職種へ転職する傾向がある。一方、「技術職」と「専門職」は、前職と似かよった(「スキル距離」が近い)産業や職種へ転職する傾向が強い点で共通しているが、転職後の賃金については、「技術職」の方が高まる傾向がある。ただし、これらの職種に限らず、大企業から他企業へ転職する場合には転職後の賃金の低下は大きい。この点が、とりわけ大企業での就業率が高い「技術職」のマクロでみた転職率の低さに影響している可能性が窺われる。
本稿の作成にあたっては、東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターSSJ データアーカイブから「ワーキングパーソン調査,2006, 2008, 2010」(リクルートワークス研究所)の個票データの提供を受けた。青木浩介、一瀬善孝、開発壮平、加藤涼、鎌田康一郎、亀田制作、木下信行、桜健一、土田浩、敦賀智裕、西岡慎一、肥後雅博、平田渉、藤木裕、前田栄治の各氏及び日本銀行調査統計局のスタッフ各位から有益なコメントを頂いた。近藤絢子氏からは本稿の分析を行う上での重要な示唆を頂いた。ただし、残された誤りは全て筆者に帰する。なお、本稿中の意見・解釈にあたる部分は筆者に属するものであり、日本銀行あるいは調査統計局の公式見解を示すものではない。
- *1日本銀行調査統計局 E-mail : saori.naganuma@boj.or.jp
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