わが国における賃金変動の背景:年功賃金と労働者の高齢化の影響
2014年12月24日
永沼早央梨*1
西岡慎一*2
要旨
本稿では、わが国の賃金カーブと労働生産性カーブを計測し、その乖離が賃金の伸びに及ぼす影響を検証した。仮に、後払い賃金仮説で主張されるように、賃金カーブの傾きが労働生産性カーブの傾きよりも大きく、高齢者ほど賃金が割高に設定されているならば、労働者の高齢化は、企業の賃金負担を重くし、賃金上昇を抑制する方向に働き得る。1990年代後半以降のわが国を対象に、企業と労働者の個票をマッチングしたデータベースを作成して実証分析を行ったところ、以下の結論が得られた。第一に、大企業を中心に賃金カーブの傾きは労働生産性カーブの傾きよりも大きい。第二に、高年労働者の割合が高い大企業など、賃金負担が労働生産性と比べて相対的に大きい企業ほど、賃金上昇率が抑制される傾向にある。
近年のわが国賃金伸び悩みの背景については、様々な要因が指摘されている。その中でも、本稿の結果は、労働者の高齢化が、大企業を中心とする企業の賃金負担を労働生産性と比べて過大なものとし、これが1990年代後半以降の賃金の抑制につながった可能性があることを示唆している。
本稿の作成にあたっては、経済産業省「企業活動基本調査」、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」、総務省「事業所・企業統計調査」および「経済センサス」の調査票情報の提供を受けた。青木浩介准教授(東京大学)および前田栄治氏、肥後雅博氏、亀田制作氏、一瀬善孝氏はじめ日本銀行のスタッフから貴重なコメントを頂戴した。記して感謝の意を表したい。ただし、あり得べき誤りは全て筆者らに帰する。なお、本稿中の意見・解釈にあたる部分は筆者ら個人に属するものであり、日本銀行あるいは調査統計局の公式見解を示すものではない。
- *1日本銀行調査統計局 E-mail : saori.naganuma@boj.or.jp
- *2日本銀行調査統計局 E-mail : shinichi.nishioka@boj.or.jp
日本銀行から
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