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企業のインフレ予想の形成メカニズムに関する考察 ―短観データによる実証分析―

English

2019年11月22日
稲次春彦*1
北村冨行*2
松田太一*3

要旨

本稿では、日本銀行が実施している「全国企業短期経済観測調査」(短観)のデータを用いて、日本の企業のインフレ予想形成における、完全情報下の合理的期待(Full-Information Rational Expectations: FIRE)、ノイズ情報仮説、粘着情報仮説の妥当性を検証した。主な分析結果は以下のとおりである。(1) 集計データを用いたパネルVARの分析結果によると、企業のインフレ予想は、FIREと整合的なフォワードルッキングな面を有すると同時に、インフレ率の実績値の変化が徐々に織り込まれていく傾向があるという、FIREでは説明できない面も有する。(2) 集計データでみたインフレ予想の予測誤差は、過去の予想改定幅と相関を持っており、全ての企業のインフレ予想形成にFIREが妥当するとは言えない。(3) 個票データを用いた動学的パネル回帰分析の結果によると、企業のインフレ予想は、ノイズ情報仮説や粘着情報仮説が示唆するとおり、過去の自身のインフレ予想に強く依存しているほか、中小企業の短期のインフレ予想は、ノイズ情報仮説、なかでも合理的無関心仮説が示唆するとおり、自社の経営環境に関する実感の影響を受けている。以上の結果は、企業のインフレ予想には単一の理論では説明できない複雑なメカニズムが働いていることを示唆している。

JEL 分類番号
D84、E31、E52

キーワード
企業のインフレ予想、サーベイ・データ、FIRE、ノイズ情報、粘着情報

本稿の作成に当たり、西崎健司氏、中島上智氏、奥田達志氏、稲村晃希氏、田中雅樹氏をはじめとする日本銀行スタッフから有益なコメントを頂戴した。記して感謝の意を表したい。もちろん、本稿のあり得べき誤りは、全て筆者たち個人に属する。なお、本稿に示される内容や意見は、筆者たち個人に属するものであり、日本銀行および企画局の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行企画局 E-mail : haruhiko.inatsugu@boj.or.jp
  2. *2日本銀行企画局 E-mail : tomiyuki.kitamura@boj.or.jp
  3. *3日本銀行企画局 E-mail : taichi.matsuda@boj.or.jp

日本銀行から

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