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近年における中小企業の設備投資:資金繰りや信用保証の視点から

2021年4月14日
土屋宰貴*

要旨

本稿では、中小企業に関する大規模データベースを用いて、資金繰りやバランスシート等の財務状況、信用保証の利用有無といった資金調達環境が、中小企業の設備投資行動に及ぼす影響を実証的に分析する。主たる分析結果は、以下の通りである。第1に、中小企業の資金繰りやバランスシートの変化は、設備投資に有意に影響を与える。とくに、大企業では、キャッシュフローが設備投資に重要な影響を及ぼすが、中小企業では、規模が小さくなるほど、ストックである現預金残高の重要性が高まる。これは、財務基盤が弱いサービス業を中心に、不確実性が高いフローよりも手元に現存する現預金を重視して投資の実行の有無やその金額を判断しているためと考えられる。第2に、信用保証制度については、その使途の大半は運転資金向けとみられるが、設備投資を相応に押し上げる効果も有している。第3に、負債比率の上昇が、設備投資を下押しする効果は、近年小さくなっている。以上の分析結果は、中小企業の設備投資行動は大企業と異なることを示しており、資金繰りや信用保証など資金のアベイラビリティの多寡は、中小企業の設備投資に対し重要な影響を及ぼすことを示唆している。

JEL 分類番号
D22、G21、G31

キーワード
設備投資、企業行動、中小企業、信用保証

本稿の作成過程では、青木浩介氏、飯田智之氏、亀田制作氏、川本卓司氏、佐久田健司氏、陣内了氏、須合智広氏、永幡崇氏および日本銀行の多くのスタッフから有益なコメントを頂いた。記して感謝の意を表したい。ただし、あり得べき誤りはすべて筆者個人に属する。本稿で示されている見解は、日本銀行の公式見解を示すものではない。

  1. *日本銀行調査統計局 E-mail : saiki.tsuchiya@boj.or.jp

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