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「点検」補足ペーパーシリーズ(3)マクロ経済モデルを用いたオーバーシュート型コミットメントの分析

2021年5月31日
川本卓司*1
中島上智*2
三上朝晃*3

要旨

日本銀行は、金融政策運営において、消費者物価上昇率(除く生鮮食品)の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続することを約束している。この「オーバーシュート型コミットメント」は、インフレ率が景気の変動などを均してみて平均的に2%となることを目指す観点から、インフレ率の実績について目標値からの下振れが続いた場合には、その一部をインフレ率の実績の目標値からの上振れによって相殺することを予め約束する、いわゆる「埋め合わせ戦略」の考え方を実践したものと言える。本稿では、予想物価上昇率について適合的期待形成の要素が強いわが国においても、米国経済を対象とした先行研究と同様、こうした「埋め合わせ戦略」が、物価目標の早期実現と社会厚生上のコストを勘案したうえで望ましいかどうか、小型のマクロ経済モデルを用いたシミュレーション分析により検証する。分析の結果、(1)実績のインフレ率が目標値を下回っている場合には、一定期間の過去のインフレ率の低さも考慮して緩和的な金融政策運営を行うことが、社会厚生上のコストを勘案しても望ましいこと、また、(2)自然利子率が低いほど、低金利政策の景気刺激効果は低下するため、より長い期間の過去のインフレ率を参照する政策運営が望ましくなること、が示された。

JEL 分類番号
C53、E31、E47、E52、E58

キーワード
金融政策、オーバーシュート型コミットメント、埋め合わせ戦略、平均インフレ目標政策、確率的シミュレーション

本稿は、2021年3月に日本銀行より公表された「より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検」の内容を補足するものである。
本稿の作成に当たり、日本銀行のスタッフから有益なコメントを頂いた。奥田達志氏、北村冨行氏には、モデルの開発や分析の初期段階で多くの助言を頂いた。ここに記して感謝したい。

  1. *1日本銀行調査統計局 E-mail : takuji.kawamoto@boj.or.jp
  2. *2日本銀行調査統計局 E-mail : jouchi.nakajima@boj.or.jp
  3. *3日本銀行調査統計局 E-mail : tomoaki.mikami@boj.or.jp

日本銀行から

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