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中国地方政府債券の発行市場における市場メカニズム

2021年11月

  • 西村友作*1
  • 東善明*2
  • 坂下栄人*3

要旨

本稿では、中国で2017年~19年に発行された地方債の発行利回り(対国債スプレッド)を用い、地方政府のリスクがどのように評価されているのか、中央政府による発行総額の管理と地方政府の債務管理の間で、市場メカニズムがどこまで働いているのか、について分析した。分析の結果、地方債の発行利回りは、情報開示が不十分なこともあり個々のプロジェクトのリスクを反映しているとまでは言えないが、2018年8月頃までは、市場が意識する信用リスク(返済の安全性)を一定程度反映しており、これが地方政府間でのスプレッド格差に顕れていた。しかしながら、2018年9月以降は、地方債の発行が拡大するもとで中央政府が関与する形で発行利回りが抑制され、結果的にスプレッド格差が消失してしまったことが観察できた。これは、中央政府が地方債の総量をコントロールしつつ、個々のプライシングを市場メカニズムに任せるという当初の狙いが、地方債の発行規模が拡大するにつれて実現困難になってきたことを示唆している。今後、景気刺激策としての財政支出ニーズが更に強まる場合に、地方債の円滑な消化が優先され、中央政府によるプライシングへの関与が続くことで、市場メカニズムの回復が遅れる可能性もある。

JEL 分類番号
E61、G18、H72

キーワード
中国、地方債、発行利回り、信用リスク、暗黙の保証

本稿の作成に当たり、大阪経済大学の福本智之氏、日本銀行の上田達史氏、宇野洋輔氏、竹内淳氏、長野哲平氏、中村康治氏、濱田秀夫氏の各氏を始めとするスタッフから有益なコメントを頂いた。ただし、あり得べき誤りは筆者個人に属する。本稿で示されている見解は、日本銀行の公式見解を示すものではない。

  1. *1対外経済貿易大学国際経済研究院(中華人民共和国北京市) E-mail : xicun_youzuo@uibe.edu.cn
  2. *2日本銀行北京事務所(現・新潟支店) E-mail : yoshiaki.azuma@boj.or.jp
  3. *3日本銀行北京事務所 E-mail : hideto.sakashita@boj.or.jp

日本銀行から

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