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わが国の生産性動向―近年の事実整理とポストコロナに向けた展望―

2022年3月23日
八木智之*1
古川角歩*2
中島上智*3

要旨

労働生産性は、経済成長の源泉である。本稿では、バブル崩壊以降、わが国の労働生産性成長率が低位で推移していることを確認し、先行研究や本稿独自の分析をもとに、その背景や生産性改善に向けた論点を整理する。そのうえで、新型コロナウイルス感染症拡大下における労働生産性の動向を分析し、ウィズコロナ・ポストコロナにおける持続的な成長の実現にあたっての課題を考察する。

先行研究のサーベイを踏まえると、近年の労働生産性低迷の背景は次のとおり整理できる。第一に、資本蓄積ペースが総じて鈍化している。第二に、資本ストックの利活用に課題がある。研究開発等は増加しているものの、これらが生産性向上につながっていない。第三に、資源再配分に課題がある。この点、本稿における個別企業のデータを用いた分析では、低生産性企業が市場に長期滞留するなど、生産資源が効率的に配分されていないことが分かった。

こうしたわが国の抱える積年の課題は、感染症拡大下で改めて明らかになっている。すなわち、資本蓄積ペースはさらに鈍化しているほか、資源配分の効率化も進んでいない。この間、リモートワークやオンライン消費の拡大などIT資本の利活用の進展は生産性向上に向けた前向きな動きであるが、このような動きは諸外国対比でみれば限定的と言わざるを得ない。今後、労働生産性を改善させ、持続的な経済成長を実現するためには、こうした前向きな動きをさらに推進するとともに、わが国の抱える諸課題を着実に解決していくことが求められる。

JEL 分類番号
E20、E22、J24、O47

キーワード
生産性、無形資産、利用効率、再配分、新型コロナウイルス感染症

本稿の内容は、東京大学金融教育研究センター・日本銀行調査統計局第9回共催コンファレンス「ウィズコロナ・ポストコロナの日本経済」(2021年11月29日開催)の導入セッションにて報告された。本稿の作成にあたっては、青木浩介氏、岩崎雄斗氏、開発壮平氏、亀田制作氏、倉知善行氏、小林慶一郎氏、佐久田健司氏、桜健一氏、陣内了氏、長江真一郎氏、長野哲平氏、中村康治氏、宮川努氏および日本銀行のスタッフから有益なコメントを頂戴した。また、高橋優豊氏、箕浦征郎氏、望月めぐみ氏からは、本稿の作成過程において様々なご助力を頂いた。記して感謝の意を表したい。ただし、残された誤りは筆者らに帰する。なお、本稿の内容や意見は、筆者ら個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行調査統計局 E-mail : tomoyuki.yagi@boj.or.jp
  2. *2日本銀行調査統計局 E-mail : kakuho.furukawa@boj.or.jp
  3. *3日本銀行調査統計局 E-mail : jouchi.nakajima@boj.or.jp

日本銀行から

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