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わが国の潜在成長率と物価・賃金の関係を巡る論点

English

2024年10月18日
福永一郎*1
法眼吉彦*2
伊藤洋二郎*3
金井健司*4
土田悟司*5

要旨

本稿では、1990年代以降の日本の潜在成長率や労働生産性の低迷の背景を振り返るとともに、これらの計測上・概念上の論点や、物価・賃金との関係を巡る論点を提示する。具体的には、(1)潜在成長率の推計にはアプローチの違いなどによる不確実性が大きいこと、(2)潜在成長率の低下とともに総需要がそれ以上に落ち込んで需給ギャップが悪化する場合もあること、(3)労働生産性の伸びの鈍化は労働分配率の低下や交易条件の悪化とも相まって実質賃金を下押ししてきたこと、(4)労働生産性の伸びの鈍化はユニット・レーバー・コストの上昇を通じて物価上昇圧力の高まりにもつながっていること、(5)デフレや低インフレが続いたこと自体が、設備投資需要の抑制などを通じて生産性にマイナスの影響を及ぼした可能性があることなどを指摘する。潜在成長率や労働生産性の低迷はそれ自体が重要な問題であるが、物価の安定を目的に金融政策を運営するうえでも、これらの動向を常に把握しておく必要がある。また、これらに推計誤差がつきものである点に留意しつつ、物価や賃金との関係についても多面的に検討することが重要である。

JEL 分類番号
E20、E30、J30、O47

キーワード
潜在成長率、労働生産性、物価、賃金、日本経済

本稿の作成にあたっては、青木浩介氏、代田豊一郎氏および日本銀行のスタッフから有益なコメントを頂戴した。また、図表作成等では、轟木亮太朗氏、柴﨑彩奈氏に助力を頂いた。記して感謝の意を表したい。ただし、残された誤りは筆者らに帰する。なお、本稿の内容や意見は、筆者ら個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行調査統計局 E-mail : ichirou.fukunaga@boj.or.jp
  2. *2日本銀行調査統計局 E-mail : yoshihiko.hougen@boj.or.jp
  3. *3日本銀行調査統計局(現・金融研究所)E-mail : youjirou.itou@boj.or.jp
  4. *4日本銀行調査統計局 E-mail : kenji.kanai@boj.or.jp
  5. *5日本銀行調査統計局(現・企画局)E-mail : satoshi.tsuchida@boj.or.jp

日本銀行から

日本銀行ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません。
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