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中長期インフレ予想の変動が経済・物価へ及ぼす影響

2024年11月1日
開発壮平*1
中野将吾*2
山本弘樹*3

要旨

本稿では、わが国において、中長期インフレ予想の変動が、経済・物価に及ぼした影響について、可変パラメータ多変量自己回帰(TVP-VAR)モデルを用いて分析する。分析の結果、わが国において、中長期インフレ予想を外生的に押し上げるショックは、需給ギャップを改善させ、インフレ率を上昇させる効果を持つことが確認された。これは、インフレ予想の上昇が実質資金調達コストの低下等を通じて、民間経済主体の支出を増加させる「期待チャネル」が、わが国において働きうることを示唆している。局面別にみると、2000年代のデフレ期において、中長期インフレ予想の低下が、物価を継続的に押し下げる方向に作用し、持続的なデフレから抜け出すことを困難にした一つの要因となっていた可能性が示唆されたが、2013年の「物価安定の目標」や量的・質的金融緩和の導入以降、その寄与は反転し、実績インフレ率を押し上げる方向に作用したことが窺われる。そうした意味で、この時期の金融政策運営で意図していた「期待への働きかけ」は、一定の効果を発揮したことが示唆された。もっとも、その後、インフレ率が実績として低下するもとで、インフレ予想によるインフレ率の押し上げ寄与は減衰し、物価安定の目標へアンカーさせるにはいたらなかった。このことは、中長期インフレ予想に持続的な影響を及ぼすことの難しさを示唆している。

JEL 分類番号
C32、E31、E52

キーワード
インフレ予想、インフレ率、TVP-VAR、金融政策

本稿の執筆に当たっては、伊藤雄一郎氏、塩路悦朗氏、竹田陽介氏、中島上智氏、中村康治氏、福永一郎氏、Sophocles Mavroeidis氏、「金融政策の多角的レビュー」に関するワークショップ第2回「過去25年間の経済・物価情勢と金融政策」の参加者、および日本銀行スタッフから有益なコメントを頂戴した。ただし、残された誤りは全て筆者らに帰する。なお、本稿の内容と意見は筆者ら個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行企画局 E-mail : souhei.kaihatu@boj.or.jp
  2. *2日本銀行企画局 E-mail : shougo.nakano@boj.or.jp
  3. *3日本銀行企画局(現・国際局) E-mail : hiroki.yamamoto@boj.or.jp

日本銀行から

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