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わが国のインフレ予想形成の不確実性
― マクロ経済モデルQ-JEMを用いた予想形成メカニズムの分析 ―

2024年11月29日
喜舎場唯*1
柴田菜緒*2
福永一郎*3
米山俊一*4

要旨

本稿では、わが国の中長期インフレ予想の形成メカニズムについて、日本銀行の大型マクロ経済モデルQ-JEM(Quarterly Japanese Economic Model)を用いて、過去の予測精度や先行きの不確実性などの観点から分析する。各種のインフレ予想関数の2013年以降の平均的な予測精度を比べると、物価上昇率の過去の実績値の影響を受ける適合的期待のメカニズムを考慮した関数の予測精度が相対的に高かった。但し、関数の定式化の違いによる予測精度の優劣は局面によっても異なり、わが国のインフレ予想の形成メカニズム自体の不確実性の高さが示唆された。次に、適合的期待のメカニズムを前提に、過去の予測誤差に基づく先行きのインフレ予想の不確実性を評価すると、直近の物価上昇率の実績が高い時期の方がインフレ予想は上昇する可能性が高いことが示された。

JEL 分類番号
C53、E31、E37、E52

キーワード
インフレ予想、金融政策、大型マクロ経済モデル

本稿の作成に当たり、青木浩介氏、代田豊一郎氏、陣内了氏、および日本銀行のスタッフから有益なコメントを頂いた。稲次春彦氏、古川角歩氏、高橋悠輔氏、井澤公彦氏、萩原佳奈氏には、初期の分析や先行研究の調査等でご協力頂いた。武藤一郎氏と高橋耕史氏には、過去のQ-JEMの再現等に際してご協力頂いた。また、欧州中央銀行(ECB)のOscar Arce氏、Chiara Osbat氏、Matthieu Darracq Paries氏、連邦準備制度理事会(FRB)のWilliam Wascher氏とは、マクロ経済モデルにおけるインフレ予想形成の定式化や物価予測への含意等に関して議論させて頂いた。ここに記して感謝したい。ただし、残された誤りは筆者らに帰する。なお、本稿の内容や意見は、筆者ら個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行調査統計局 E-mail : yui.kishaba@boj.or.jp
  2. *2日本銀行調査統計局 E-mail : nao.shibata@boj.or.jp
  3. *3日本銀行調査統計局 E-mail : ichirou.fukunaga@boj.or.jp
  4. *4日本銀行調査統計局 E-mail : shunichi.yoneyama@boj.or.jp

日本銀行から

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