POSデータを用いた需要関数の市場横断的推定
2025年6月26日
轟木亮太朗*1
大高一樹*2
要旨
本稿では、高粒度のPOSデータに対し、ミクロ経済学における標準的な実証モデルと機械学習手法を用い、わが国における幅広い消費財について、需要関数を品目別に推定した。具体的には、需要の価格弾力性や曲率といった需要関数の形状を規定するパラメータを市場横断的に時系列で推計したほか、マークアップ等への影響を考察した。集計された推計結果をみると、需要の価格弾力性は、中央値には大きな変化がみられなかったが、仔細にみれば、近年にかけて絶対値が緩やかに低下(マークアップは緩やかに上昇)していることが分かった。需要関数の曲率は、2010年代半ばにかけ上昇し、その後は下落していたことが示された。最近の需要関数の決定要因について考察するため、推計された需要関数のパラメータを用いてパネル分析を行った結果、就業率や、市場集中度等が需要関数と関係している可能性が示唆された。特に、女性の就業率の上昇は、近年の価格弾力性の絶対値・曲率の低下に寄与したと考えられる。すなわち、この結果は、近年の労働参加の拡大により、家計の購買行動が変化している可能性を示している。
- JEL 分類番号
- C55、D12、D43、L11、L13、L16
- キーワード
- 消費行動、屈折需要曲線、マークアップ、機械学習
本稿の作成に当たっては、青木浩介氏、川田恵介氏、北村行伸氏、陣内了氏、若森直樹氏、および日本銀行のスタッフから有益なコメントを頂戴した。また、経済産業省から「企業活動基本調査」の調査票情報の提供を、慶應義塾大学経済学部附属経済研究所パネルデータ設計・解析センターから「日本家計パネル調査(JHPS/KHPS)」の個票データの提供を受けた。記して感謝の意を表したい。ただし、残された誤りは筆者らに帰する。なお、本稿の内容や意見は、筆者ら個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。
- *1日本銀行調査統計局 E-mail : ryoutarou.todoroki@boj.or.jp
- *2日本銀行調査統計局(現・金融研究所) E-mail : kazuki.ootaka@boj.or.jp
日本銀行から
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