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「日本銀行の対政府取引」について

2004年5月12日
日本銀行企画室

1.はじめに

日本銀行は、「政府の銀行」として国庫金の出納事務を行うため、政府預金の受入・払出を行うほか、政府との間で様々な取引を行っている。
実施した対政府取引の内容については、これまでも、「マネタリーベースと日本銀行の取引」等において公表を行ってきたが、今般、日本銀行では、業務運営の透明性の一層の向上を図る観点から、これらの取引内容を取り纏めた「日本銀行の対政府取引」を作成し、毎月公表することとした。

本稿では、「日本銀行の対政府取引」の公表の開始に当って、日本銀行が実施している対政府取引の概要を簡単に整理するとともに、公表する「日本銀行の対政府取引」の内容を概説することとしたい。

2.日本銀行が行う対政府取引の位置付け

日本銀行は、我が国の中央銀行として、法令で定めるところにより国庫金を取扱うこととなっており、その取扱いに必要な業務として、政府預金(無利子の「当座預金」および利子が付される「国内指定預金」)の受入・払出を行っている1ほか、3.に掲げるような取引を実施している。
これらの取引は、会計法などの国庫金に関する法令や、日本銀行法に基づいて実施されている。
また、日本銀行では、政策委員会において、取引が満たすべき条件などを定めた「対政府取引に関する基本要領」を制定し、公表している(1999年3月26日政策委員会決定)。

  1. 日本銀行法では、第35条第1項において、「日本銀行は、我が国の中央銀行として、法令で定めるところにより、国庫金を取り扱わなければならない」と定められており、同条第2項「日本銀行は、前項の規定により国庫金を取り扱う場合には、第33条第1項に規定する業務のほか、その取扱いに必要な業務を行うことができる」とされている。
    なお、政府預金の残高については、旬次で公表を行っている「営業毎旬報告」を参照されたい。

3.日本銀行の行う対政府取引の概要

(1)政府余裕金の運用

(a)日本銀行が保有する長期国債の買戻条件付売却(2004/4月末残高:対国債整理基金104,293億円、対財政融資資金41,972億円)

日本銀行は、国債整理基金および財政融資資金の資金繰りにおいて余裕金が発生している場合に、国債整理基金および財政融資資金に対する長期国債の買戻条件付売却を実施し得る扱いとしている。

(b)日本銀行が保有する政府短期証券および割引短期国債の売却(2004/4月末残高:ゼロ)

日本銀行は、国債整理基金および財政融資資金に対し、日本銀行が保有する政府短期証券および割引短期国債の(アウトライトによる)売却を実施し得る扱いとしている。

(2)政府の一時的な資金需要への対応等

(a)政府短期証券の引受け(2004/4月末残高:36,147億円)

日本銀行による公債の引受けは、財政法により原則として禁止されている(財政法第5条2本文)が、政府の一時的な資金需要に対応するために発行される政府短期証券については、当該条項の適用を受けないと解されており、日本銀行法でも、日本銀行が政府短期証券の引受けを行うことができる旨の条項が設けられている(日本銀行法第34条第4号3)。

政府短期証券の発行に関しては、1998年度までは、日本銀行がその殆どを引き受ける扱いとなっていたが、1999年度以降、原則として市場における公募入札により発行する方式に改められた4
公募入札方式への移行後は、日本銀行が政府短期証券の引受けを行う場合は、政府からの要請に応じて例外的に行う臨時引受けと、日本銀行の業務運営上必要がある場合に自らが行う引受けに限られることとなった。

このうち、政府からの要請に応じて実施する臨時引受けは、(1)市場における公募入札において募集残額等が生じた場合、(2)為替介入の実施や国庫資金繰りの予想と実績との乖離の発生などにより、予期せざる資金需要が発生した場合に限定されている。また、臨時引受けを行った政府短期証券については、可及的速やかに償還を受ける扱いとなっている5。このように、臨時引受けについては、中央銀行による政府向け信用のあり方の観点も踏まえ、一時的な流動性の供給となるような明確な「歯止め」が設けられている。

日本銀行が自らの業務運営の必要性から実施する引受けは、現状においては、外国中央銀行等に対する買戻条件付売却の売却対象資産を確保する目的で実施している。

  1. 2 財政法第5条は「すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合においては、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。」と定めている。
  2. 3 日本銀行法第34条は、「日本銀行は、我が国の中央銀行として、前条第1項に規定する業務のほか、国との間で次に掲げる業務を行うことができる。(中略)第4号 財務省証券その他の融通証券の応募又は引受け」と定めている。
  3. 4 政府短期証券は、1998年度までは、予め金利を定めて市中公募を行い、応募額が発行額に満たない場合には日本銀行が残額を引き受ける「定率公募残額日銀引受方式」により発行されていた。この方式の下で、発行金利は市場実勢に比べて低いことが多かったため、日本銀行が発行額の殆どを引き受ける結果となっていた。大蔵省(当時)は、1998年12月22日に公表した「円の国際化の推進策について」において、政府短期証券の発行方式を原則として「公募入札方式」に改めることを公表し、1999年4月以降、1年程度を目途に、同方式に移行していくこととされた。
  4. 5 これらの臨時引受けに関する制限は、日本銀行の「対政府取引に関する基本要領」においても定められているほか、脚注4で述べた大蔵省(当時)公表の「円の国際化の推進策について」においても言及されている。

(b)償還期限が到来した国債等の借換えのための引受け6(2004/4月末残高:68,314億円)

前述のとおり、財政法においては、日本銀行が公債を引き受けることは原則として禁じられているが、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲で実施する引受けは、例外として許容されている(財政法第5条但書7)。
現在、この例外を定めた条項に基づいて国債の引受けを行っているのは、日本銀行が保有する国債のうち、償還期限が到来した国債等の借換えのための引受けのみである。

具体的には、日本銀行が保有する国債の償還および買入消却のための国債整理基金への売却に際し、その償還額ないしは売却額の限度内で、借換えのための引受けを行っている。この引受けについては、各年度の予算策定手続の中で国会の議決を経た上で行われており8、また、各年度毎の借換えのための引受額は、政策委員会で決定され、公表されている。

借換えのために引き受ける国債は、1998年度までは長期国債としていたが、1999年度以降は1年物割引短期国債を引き受けている。また、この割引短期国債の償還期限が到来した場合には、償還の都度、現金償還を受けるか再び割引短期国債を引き受けるかを日本銀行が判断することとしているが、2002年度以降は全額現金償還を受けている。

  1. 6 日本銀行法においても明文上定めが設けられている(第34条「日本銀行は、我が国の中央銀行として、前条第1項に規定する業務のほか、国との間で次に掲げる業務を行うことができる。(中略)第3号 財政法第5条ただし書の規定による国会の議決を経た金額の範囲内において行う国債の応募又は引受け」)。
  2. 7 前出脚注2参照。
  3. 8 具体的には、各年度の特別会計予算予算総則において、国債整理基金特別会計における日本銀行が引き受ける公債の限度額を、「同行の保有する公債の借換えのために必要な金額」と定めている。

(c)国債整理基金および財政融資資金が保有する政府短期証券の買入れ(2004/4月末残高:ゼロ)

日本銀行は、国債整理基金および財政融資資金の資金繰り上の必要に応じ、国債整理基金および財政融資資金が保有する政府短期証券の買入れを実施し得る扱いとしている。

4.「日本銀行の対政府取引」の概要

(1)ストック表とフロー表

「日本銀行の対政府取引」では、それぞれの対政府取引の月末の残高を示すストック表とともに、月中の取引額を示すフロー表を作成している。取引毎のストック表およびフロー表における記載項目はそれぞれ次のとおりである。

(a)政府短期証券の引受け

ストック表では、引受けにより取得した政府短期証券の各月末の残高を「政府短期証券引受残高」の項目に記載している。
フロー表では、各月中の政府短期証券の引受残高の増減額を「政府短期証券引受残高月中増減額」の項目に記載するとともに、その内訳として、残高の増加要因である政府短期証券の「引受額」と減少要因である引受けにより取得した政府短期証券の「償還額」(マイナス表示)を記載している。

(b)償還期限が到来した国債等の借換えのための引受け

ストック表では、借換引受けにより取得した割引短期国債の各月末の残高を「割引短期国債借換引受残高」の項目に記載している。
フロー表では、各月中の割引短期国債の借換引受残高の増減額を「割引短期国債借換引受残高月中増減額」の項目に記載するとともに、その内訳として、残高の増加要因である割引短期国債の「引受額」と減少要因である借換引受けにより取得した割引短期国債の「償還額」(マイナス表示)を記載している。

(c)国債整理基金および財政融資資金が保有する政府短期証券の買入れ

ストック表では、国債整理基金および財政融資資金から買い入れた政府短期証券の各月末の残高を、「対国債整理基金 政府短期証券買入残高」および「対財政融資資金 政府短期証券買入残高」の項目に記載している。
フロー表では、各月中の国債整理基金および財政融資資金からの政府短期証券の買入残高の増減額を、「対国債整理基金 政府短期証券買入残高月中増減額」および「対財政融資資金 政府短期証券買入残高月中増減額」の項目に記載するとともに、その内訳として、残高の増加要因である政府短期証券の「買入額」と減少要因である買い入れた政府短期証券の「償還額」(マイナス表示)を記載している。

(d)日本銀行が保有する政府短期証券および割引短期国債の売却

ストック表では、国債整理基金および財政融資資金に対して売却した政府短期証券および割引短期国債の各月末の残高を、「対国債整理基金 政府短期証券売却残高」、「対財政融資資金 政府短期証券売却残高」、「対国債整理基金 割引短期国債売却残高」および「対財政融資資金 割引短期国債売却残高」の項目に記載している。
フロー表では、各月中の国債整理基金および財政融資資金に対する政府短期証券および割引短期国債の売却残高の増減額を、「対国債整理基金 政府短期証券売却残高月中増減額」、「対財政融資資金 政府短期証券売却残高月中増減額」、「対国債整理基金 割引短期国債売却残高月中増減額」および「対財政融資資金 割引短期国債売却残高月中増減額」の項目に記載するとともに、その内訳として、残高の増加要因である政府短期証券および割引短期国債の「売却額」と減少要因である売却した政府短期証券および割引短期国債の「償還額」(マイナス表示)を記載している。

(e)日本銀行が保有する長期国債の買戻条件付売却

ストック表では、国債整理基金および財政融資資金に対して買戻条件付で売却した長期国債の各月末の残高を、「対国債整理基金 長期国債売現先残高」および「対財政融資資金 長期国債売現先残高」の項目に記載している。
フロー表では、各月中の国債整理基金および財政融資資金に対する長期国債の買戻条件付売却残高の増減額を、「対国債整理基金 長期国債売現先残高月中増減額」および「対財政融資資金 長期国債売現先残高月中増減額」の項目に記載するとともに、その内訳として、残高の増加要因である長期国債の「買戻条件付売却額」と減少要因である「買戻額」(マイナス表示)を記載している。

(2)「マネタリーベースと日本銀行の取引」との関係

「マネタリーベースと日本銀行の取引」に記載されている対政府取引に関する計数と、「日本銀行の対政府取引」に記載されている計数とは、次のような関係にある。

「日本銀行の対政府取引」の「政府短期証券引受」および「割引短期国債借換引受」は、「マネタリーベースと日本銀行の取引」の「短期国債 引受」の内訳計数となっている。さらに、「日本銀行の対政府取引」の「対国債整理基金 政府短期証券買入」、「対財政融資資金 政府短期証券買入」、「対国債整理基金 政府短期証券売却」、「対財政融資資金 政府短期証券売却」、「対国債整理基金 割引短期国債売却」および「対財政融資資金 割引短期国債売却」は、「マネタリーベースと日本銀行の取引」の「短期国債 対政府ネット売却」の内訳計数となっており、「日本銀行の対政府取引」の「対国債整理基金 長期国債売現先」および「対財政融資資金 長期国債売現先」は、「マネタリーベースと日本銀行の取引」の「対政府 長期国債売現先」の内訳計数となっている。

また、「マネタリーベースと日本銀行の取引」では、マネタリーベースの増加・減少に対応したプラス・マイナス表示を行っているため、一部「日本銀行の対政府取引」で対応する計数とは正負符号が逆に表示されている9

  1. 9 具体的に、「マネタリーベースと日本銀行の取引」と正負の符号が逆になっているのは、「対国債整理基金 政府短期証券売却」、「対財政融資資金 政府短期証券売却」、「対国債整理基金 割引短期国債売却」、「対財政融資資金 割引短期国債売却」、「対国債整理基金 長期国債売現先」および「対財政融資資金 長期国債売現先」。