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資金循環統計見直し案に対するコメントへの回答

資金循環統計見直しの最終案

1998年 9月29日
日本銀行調査統計局

はじめに

 日本銀行は、1958年以降(1954年計数より)、資金循環統計を作成しているが、1996年に本統計の抜本的な見直しに着手し、以来必要な作業・検討を進めてきた。1997年初には、それまでの検討の結果を踏まえ、「資金循環統計見直し案」を公表するとともに、見直し案に対する統計ユーザー等からのご意見、ご提案を広く求めた1ところである。本見直し案に対しては、統計ユーザー等から多くのコメントを頂戴しており、その主要点は97年央に公表済である2
 頂戴したコメントでは、総じて、資金循環統計見直しへの評価が示され、また、金融制度改革(いわゆる日本版ビッグバン)や金融の一層の国際化に伴う影響をみるツール等として、新資金循環統計に大きな期待が寄せられていた。一方、見直し案の内容については、日本銀行の示した案を支持するコメントとともに、部門分類や取引項目の枠組み、公表の形式・方法等について、代替案も提示された。
 この間、見直し案作成時点では必ずしも明らかでなかった、国民経済計算の細部の取り扱いや、データの入手可能性についても、[BOX1]にみる通り、大きな進捗がみられた。日本銀行は、昨年央以来、こうした進展を念頭に置きつつ、(1)統計上の取り扱いや計上方法の妥当性、および(2)統計としての有用性という観点から、頂いたコメントを検討するとともに、見直し案公表時には未決定であった事項に関しても、検討を重ねてきた。以下、こうして得られた最終案を別表の通り示すとともに、その背景となる考え方を説明する3
 今後、日本銀行は、1999年中の公表に向け、見直しの最終案に即して、新統計の作成作業を進める方針である。

  1. 詳細については、日本銀行月報1997年3月号「資金循環統計の見直しについて」参照。
  2. 詳細については、日本銀行月報1997年8月号「資金循環統計見直し案に対するご意見・ご提案について」参照。
  3. 本稿で説明する点以外にも、見直し案の修正を行ったところがあるが、その内容は、細部も含め多岐に亙っている。このため、部門、取引項目各々についての詳細な説明は別途行うこととし、本稿では、主要な点について説明する。

1.部門分類の見直しに関する論点

 部門分類の見直しに関する論点は、金融部門の内訳分類と非金融部門の部門別構成に分けられる。金融部門の内訳分類については、年金基金、ノンバンクといった非預金取扱金融機関について、多くのコメントが寄せられた。一方、非金融部門の部門別構成については、国民経済計算との接合という観点から、対家計民間非営利団体の独立部門化という課題が残されていた。
 以下では、これらの点等について、日本銀行の考え方を説明する。

(1)保険・年金基金

 保険・年金基金についてのコメント・論点は、多くが新設部門である年金基金の範囲や取り扱いに集中している。具体的な論点としては、厚生年金基金の代行部分、適格退職年金、退職給与引当金、年金資産の生命保険委託分の取り扱い、が挙げられる。

イ.厚生年金基金の代行部分の取り扱いについて

<コメントのポイント>

 見直し案では、厚生年金基金から代行部分のみを取り出すのは困難であることから、厚生年金基金全体を年金基金に分類することとした。これに対し、「厚生年金基金の代行部分を、一般政府の社会保障基金に分類すべき」とのコメントがあった。

<日本銀行の考え方>

 厚生年金基金の代行部分については、年金基金と社会保障基金とを区分するにあたっての93SNAの提言を十分に踏まえ4、また、これを受けた国民経済計算の改訂の方向性と整合性を保つという観点に立つと、見直し案通り、これを、年金基金に分類することが適当と考えられる。この点、見直し案で示したように、厚生年金基金の中で、代行部分と加算部分が各々勘定分離されておらず、代行部分が部門分類の基本単位とならないことも、こうした扱いを採る背景にある。

ロ.適格退職年金の取り扱いについて

<コメントのポイント>

 見直し案では、適格退職年金を、(1)外部拠出による積立方式で運営されていること、(2)厚生年金基金との代替・競合関係にあること、を理由に、「自律的年金」であり、独立した経済的単位として年金基金に含まれるべきものと位置付けた。これに対し、適格退職年金を、自律的な年金して扱うのは違和感がある、とのコメントがあった。

<日本銀行の考え方>

 IMFマニュアルのほか、93SNAの提言に照らしても、外部拠出型の年金基金は自律的年金と位置付けられる。このため、見直し案通り、適格退職年金を年金基金として取り扱うこととしたい。なお、93SNAの記述をみると、非自律的年金に含まれるのは、内部積立型の年金であると考えられる(詳細については、[BOX2]参照)。
 また、適格退職年金を自律的年金と位置付けることにより、適格退職年金を厚生年金基金と合わせ、企業年金として表示することが可能になる。こうした計上方法は、統計の有用性という観点でみても、適当と思われる。

ハ.退職給与引当金の取り扱いについて

<コメントのポイント>

 見直し案では、他の引当金と同様、退職給与引当金を金融資産・負債として計上しないこととしている(現行通りの扱い)。この点に関し、退職給与引当金を企業の金融負債として計上すべきとのコメントがあった。

<日本銀行の考え方>

 退職給与引当金を企業の金融負債として計上することは、93SNAの提言に照らしても、考えられる選択肢である。しかし、実際のところ、退職金の支払いに係る費用を発生時点で把握するのは容易ではなく、改訂後の国民経済計算でも、退職金の支払いは、キャッシュの受渡時点で記録される方向である。したがって、今回の資金循環統計の見直しでは、代替案を採用しないこととする([BOX2]参照)。

ニ.生命保険会社に委託される年金資金の取り扱いについて

<見直し案での未決定事項>

 見直し案では、年金資産について、信託委託分の統合表示を行う一方、生保委託分については、統合表示を行うか否かを統計ユーザー等の検討に付した。

<最終案での決定事項>

 日本銀行では、上記の点について、さらなる検討を行った。この結果、(1)年金信託と生命保険会社の年金勘定を同等に扱うことが適当であること、(2)生命保険会社の年金勘定が開示されれば推計上の障害も解消されること等に鑑み、生命保険委託分も統合表示を行うこととした。

ホ.非生命保険の分類について

<最終案での修正事項>

 非生命保険については、格段のコメントはなかったが、日本銀行において、生命保険の取り扱いとの整合性や基礎データの制約等を勘案しつつ再検討した結果、以下のような修正を行った。

  1. (1)再保険の独立部門化を取り止め、非生命保険に含める。
  2. (2)民間損害保険会社を非生命保険会社の内訳項目とする。

(2)その他金融仲介機関

 その他金融仲介機関については、新たに金融部門に組み入れる機関の範囲や取り扱い、金融仲介機関と非仲介型金融機関の線引きが焦点となった。具体的な論点として、ノンバンク、ディーラー・ブローカー、資金運用事業主体の取り扱い、が挙げられる。

イ.ノンバンクの取り扱いについて

<コメントのポイント>

 見直し案では、新たに金融部門に組み入れ、ファイナンス会社部門として表示するノンバンクの範囲を、「貸金業者(貸金業規制法の対象業者、リース・クレジット会社を含む)」等とした。これに対し、貸金業を営んでいないリース会社をファイナンス会社から除くべき、とのコメントがあった。

<日本銀行の考え方>

 見直し案におけるファイナンス会社の範囲は、「リース・クレジット会社のうち、貸金業規制法の対象業者をファイナンス会社に分類する」ことを意味しており、最終案(当初見直し案通り)におけるファイナンス会社の範囲は、コメントの指摘と合致したものである。
 なお、この点に関しては、「貸金業を営んでいないリース会社もファイナンス会社に含める」といった修正を別途再検討したが、後述の取引項目の検討において、「ファイナンシャルリース」に関し、その一部のみを金融取引として扱うこととしたため、そうした修正は不要と考えられる5

ロ.ディーラー・ブローカーの取り扱いについて

<コメントのポイント>

 見直し案では、証券会社をその他金融仲介機関に分類する一方、短資会社を非仲介型金融機関に分類した。これに対し、(1)証券会社のディーリング、アンダーライティング業務を金融仲介活動と位置付ける理由を明確にすべき、(2)短資会社をその他金融仲介機関に分類すべき、とのコメントがあった。

<日本銀行の考え方>

 IMFマニュアルでは、(1)仲介者が金融資産・負債を保有することで、様々なリスクを負担し、(2)金融フローの性格を変換するような取引を、金融仲介活動と位置付けている。ディーリング・アンダーライティング業務は、自らのポジションが信用リスクや価格変動リスクに晒されるほか、ポジションを形成する際にキャッシュが証券に変換される等、これらの要件を満たしている。したがって、両業務は、金融仲介活動と位置付けられる。
 日本銀行では、こうした整理の下、短資会社の分類について再検討を行った。この結果、短資会社が、現先取引、債券貸借取引といったディーリング業務のウェイトを高めていることに鑑み、その他金融仲介機関として分類するのが適当であると判断し、当初見直し案からの変更を行った。

ハ.資金運用事業主体の取り扱いについて

<見直し案での未決定事項>

 見直し案では、年金福祉事業団、簡易保険福祉事業団、郵便貯金特別会計の金融自由化対策資金特別勘定の取扱いについて、(1)政府関係金融機関に分類する方法、(2)運用原資の提供者別に預金取扱機関や保険・年金基金に分類する方法の両論を提示した。

<最終案での決定事項>

 日本銀行では、この点について、さらなる検討を行った。この結果、運用原資を提供する機関が実質的な運用主体であることに鑑みると、(2)の方法(上記事業団等に運用委託している資産を運用原資提供機関に合算ないし統合6)が適当であると判断した7

(3)非金融部門

 非金融部門の分類については、「国民経済計算との整合性向上」を評価するコメントが多くみられた。そうしたコメントを踏まえると、対家計民間非営利団体の取扱いが問題となる8

<見直し案での未決定事項>

 見直し案では、対家計民間非営利団体を家計に含める扱いを提示した。しかし、国民経済計算との整合性という観点からは、対家計民間非営利団体を家計から分離することが望ましいとの認識の下、基礎データの整備状況如何によって、再検討を行う余地があることを示唆した。

<最終案での決定事項>

 日本銀行では、「国民経済計算との整合性向上」を評価する声も踏まえ、対家計民間非営利団体に関する基礎データの整備に努めた。この結果、預金・貸出金統計の見直しや、債券保有者別データ等の整備によって、対家計民間非営利団体の主要な金融資産・負債を把握し得るとの展望を持つに至った。このため、新資金循環統計では、対家計民間非営利団体を家計から分離し、独立部門として表示することとする。

  1. 493SNAでは、(1)積立方式で運営されており、(2)強制加入を前提としない基金を年金基金に分類するよう提言すると同時に、社会保障基金の特徴として、拠出と給付がリンクしない点や、加入が強制される点を強調している。この点、「社会保障基金の中には自発的加入を認めているものがある」等とした68SNAに比べると、93SNAは、年金基金と社会保障基金の分類基準を明確化しているとみることができる。
  2. 5今回の見直しでは、企業において金融取引として会計処理されるファイナンシャルリースのみを、金融取引として取り扱うこととする。こうした取り扱いの下では、リース会社全体を金融部門に組み入れることは不適当であろう(後述2−(1)−ニ、[BOX3]参照)。ただ、ファイナンシャルリース全てを金融取引として扱う場合には、リース会社全体を金融部門に組み入れることも検討対象となり得るところである。
  3. 6具体的には、以下のように、運用原資を提供する機関に合算ないし統合する。
  • 郵便貯金特別会計・金融自由化対策資金特別勘定→預金取扱機関の郵便貯金
  • 簡易保険福祉事業団・運用事業特別勘定等→保険・年金基金の生命保険等
  • 年金福祉事業団・年金財源強化事業勘定→社会保障基金・公的年金
  1. 7政府関係金融機関については、国民経済計算との整合性を図るべく、上記事業団等の他にも、対象機関を若干変更している(部門名称は公的金融機関に変更)。
  2. 8公的機関の取扱い(公的非金融法人、中央政府、社会保障基金等に分類)についても、国民経済計算の改訂の方向性と合わせるべく、見直し案を若干修正している。

2.取引項目の見直しに関するコメント

 取引項目に関するコメントをみると、現金、政府預金等、見直し案で独立項目としての計上を取り止めるとした既存項目について、新資金循環統計でも残すべきとする要望が少なからずみられた。一方、新設項目については、ファイナンシャルリースの取り扱いに焦点が当てられた。
 以下では、これらの点について、日本銀行の考え方を説明する。

(1)現金・預金、貸出

イ.現金の取り扱いについて

<コメントのポイント>

 見直し案では、現金を預金と合算し、現金・預金として計上する方法を提示した(現行統計では現金は独立項目となっている)。これに対し、現行統計通り、現金を独立項目として計上すべきとのコメントがあった。

<日本銀行の考え方>

 上記のコメントは、現金のデータに対するニーズを示していると考えられる。この点を踏まえ、新資金循環統計では、現金の保有部門の推計に改善9を加えつつ、現金を独立項目として計上することとする。

ロ.政府預金の取り扱いについて

<コメントのポイント>

 見直し案では、現行統計で独立項目となっている政府当座預金を流動性預金の項目に計上する方法を提示した。これに対し、現行統計通り、政府当座預金を独立項目として計上すべきとのコメントがあった。

<日本銀行の考え方>

 上記のコメントは、政府預金のデータに対するニーズを示していると考えられる。また、政府資金繰りの特殊性に鑑みると、政府預金を、銀行預金等と同様に扱うのは不適当との考え方もあろう。こうした点に鑑み、新資金循環統計においても、政府預金を引き続き独立項目として計上することとする10

ハ.信託受益権の取り扱いについて

<コメントのポイント>

 見直し案では、信託の取り扱いに関し、部門分類において、信託を勘定毎に分類する一方、取引項目においては、現行通り、金銭の信託に係る信託受益権を一括して計上する方法を提示した。これに対し、信託受益権を、部門分類に対応する形で、合同運用に係る受益権(合同運用金銭・貸付信託)と単独運用に係る受益権(指定単・特金・ファントラ等)に係る受益権に分離すべきとのコメントがあった。

<日本銀行の考え方>

 信託受益権を細分類化することには、コメントの趣旨からみて、一定のニーズがあると考えられる。しかし、合同運用に係る受益権の総額、および単独運用に係る受益権の総額(本来の投資家に統合された分を除く)は、各々、預金取扱機関の合同運用信託部門11、その他金融仲介機関の単独運用信託部門をみることで特定できる。このため、取引項目を分類するに際しては、信託受益権を一括して計上することとする。

ニ.ファイナンシャルリースの取り扱いについて

<コメントのポイント>

 見直し案では、93SNA、IMFマニュアルの提言に沿って、ファインナンシャルリースを金融取引として計上する方法を提示した。これに対し、ファイナンシャルリースは、「金融的性格を有するが、本来は物品賃貸借取引であり、銀行貸出と同様に位置付ける性格のものではない」とのコメントがあった。

<日本銀行の考え方>

 93SNA、IMFマニュアルの提言の趣旨に即すと、ファインナシャルリースについては、取引の法形式が物品賃貸借取引であっても、その経済実態を重視して金融取引として取り扱うことが必要となる。しかし、基礎データの利用可能性は、現実の企業会計面等での制約を受けており、国民経済計算の改訂においても、それを念頭に置いて、93SNAとは異なった扱いを行う方向にある。したがって、今回の資金循環統計見直しでは、リース資産の所有権が移転すること等に伴い、企業において金融取引として会計処理されているファイナンシャルリースのみを、金融取引として取り扱うこととする。このように金融取引として会計処理されるリース取引は、延払信用等の割賦債権と合わせ、「消費者信用に含まれない割賦債権」として計上する([BOX3]参照)。

(2)対外取引項目

イ.貿易信用の取り扱いについて

<コメントのポイント>

 見直し案では、企業間信用と貿易信用を合算して、企業間・貿易信用として計上する方法を提示した。これに対し、「貿易信用」は金融機関与信等を含む広い概念であり、企業間信用とは分離すべき、とのコメントがあった。

<日本銀行の考え方>

 93SNA、IMFマニュアルの趣旨に即すと、貿易信用の対象範囲を「通常の商取引によって生じた債権・債務」に限定することにより、国境を越えた企業間信用と位置付けることが適当と考えられる。したがって、見直し案通り、貿易信用と企業間信用を同一項目に計上することとする。
 なお、この扱いは、貿易取引に係る金融機関与信を貿易信用に含む現行統計の扱いとは、異なるものである。

ロ.その他対外債権債務の取り扱いについて

<コメントのポイント>

 見直し案では、対外証券投資をその他対外債権債務から分離して、独立項目として計上する方法を提示した。これに関連して、(1)その他対外債権債務の内訳(預金、債券、株式等)を明示してほしい、(2)対内証券投資や外貨準備についてもより詳細なデータを提供してほしい、といったコメントがあった。

<日本銀行の考え方>

 対外取引については、コメントで示された要望に対応すべく、対外証券投資のほか、海外預金、海外貸出もその他対外債権債務から分離し、各々、海外部門(負債サイド)の預金、貸出の項目に計上することとする。
 一方、対内取引の計上については、対内証券投資を、海外部門(資産サイド)の株式以外の証券、株式の各項目に、非居住者預金、非居住者貸出を海外部門(資産サイド)の預金、貸出の各項目に計上する。このうち、対内証券投資については、コメントで示された要望に対応すべく、基礎データから把握できる範囲内で、投資対象となる債券種類別にもブレークダウンすることとする。
 また、外貨準備については、海外部門では、当該取引項目の負債側に計上するが、対応する資産は、基礎データの制約から、その他対外債権債務に集計値としてのみ計上することとする12

  1. 9具体的な推計方法は、別途説明する予定である。
  2. 10政府預金には、現行統計で独立項目として計上している政府当座預金のほか、別口預金、内地指定預金、外貨指定預金、小額紙幣引換準備預金が含まれる。新資金循環統計では、政府当座預金のみを抜き出して計上するのではなく、これらの預金全てを合算して、政府預金として計上することとする。
  3. 11見直し案で新設部門として提示した「預金類似信託」、「預金類似信託以外の金銭の信託」は、その名称を、各々「合同運用信託」、「単独運用信託」に変更している。
  4. 12見直し案では、外貨準備を貨幣用金、SDR、その他外貨準備に細分類する方法を提示した。しかし、金、SDRの金額が僅少であることに鑑み、細分類を取り止めて、外貨準備として一括計上することとする。当該項目は、その他対外債権債務の内訳として示される。

(別表)

  • 別表

[BOX1]

見直し案発表以降の外部環境の変化

 資金循環統計の見直しは、(1)金融・経済構造変化への対応(そのための基礎データの充実化等)、(2)分類等における経済機能の重視、(3)発生主義・時価評価の導入、(4)国民経済計算との整合性向上を基本方針としている。昨年頂戴したコメントでは、こうした基本方針に対して強い支持が得られている。こうした基本方針に即して、最終案を策定するにあたっては、(1)政府の行うわが国の国民経済計算の改訂内容や、(2)金融統計の国際的標準化に関する議論の内容、さらには、(3)新統計作成に必要な基礎データの入手可能性、を見極める必要があったが、関連する各種作業が、以下のとおり進捗をみている。

(1)国民経済計算との整合性

 国民経済計算の改訂は、国民経済計算調査会議(事務局は経済企画庁経済研究所・国民経済計算部)において検討されている。同会議は、国民経済計算の新マニュアル(System of National Accounts 1993、以下93SNA)の公表を受け、1994年以来、わが国の国民経済計算の改訂内容について検討を重ねてきたが、今般、改訂の方向性を策定するに至っている(本年6月19日、同会議・基本体系部会)。本稿で示す資金循環統計見直しの最終案は、今般策定された国民経済計算改訂の方向性を十分に踏まえたものである。
 なお、経済企画庁・国民経済計算調査会議においては、資金循環統計と国民経済計算の整合性向上という観点から、資金循環統計見直しに関する日本銀行の考え方についても、考慮頂いている。この場を借りて、関係各位のご賢察に敬意を評したい。

(2)金融統計の国際的標準化

 金融統計の国際的標準化の動きは、IMFにおける金融統計マニュアル(以下、IMFマニュアル)の作成や、各国金融統計作成機関の意見交換等を通じて進められてきた。IMFマニュアルが完成に近づく等、こうした動きも徐々に収束に向かいつつある。
 日本銀行では、金融統計に係る国際的な検討作業に積極的に関与し、検討作業の成果を資金循環統計の見直しに反映させてきた。この結果、新資金循環統計は、見直し案で志向した通り、「国際比較可能性」を併せ持つものとなっている。

(3)基礎データの充実化

 日本銀行は、昨年央から、資金循環統計の基礎データを充実させるために、関係官庁、業界団体、金融機関、公的機関等の方々に各種金融データの提供を依頼し、これまでの間に、多大なる協力を頂くことができた。
 もちろん、基礎データの充実化は、今回の見直しで完結するものではない。新資金循環統計においても、一部に情報量の拡充や統計データの精度向上が必要な部門や項目が残されているほか、今後とも金融・経済構造変化への対応が求められる。しかし、新資金循環統計の作成・公表が可能となるのは、ひとえに上記関係諸機関のご協力の賜物であり、この場を借りて、厚く感謝申し上げたい。

[BOX2]

年金の自律性と計上方法

 93SNAは、年金基金部門を構成する主体を「自律的年金基金」と称する一方、雇主自身の資金から切り離されていない年金制度を、「非自律的年金」と位置付けている。93SNAの提言では、自律的年金基金、非自律的年金は、各々下表のように計上されることになる1

  • BOX2図a

 わが国の年金・退職金制度をみた場合、93SNAの提言を適用する際に問題となるのは、適格退職年金および退職給与引当金である。
 まず、法人格を有しない適格退職年金は、コメントにあったように、その自律性が問題となる。この点、適格退職年金は、資金が企業内部に積み立てられないことから、非自律的年金と位置付けることはできない。むしろ、外部拠出型年金として固有の資産・負債を有するという点で、自律的年金基金に該当すると言える(機能面からみれば、厚生年金基金と同様の機能を有し、同基金と代替・競合関係にあるという点で、同一部門に分類することが有用であることはいうまでもない)。

 一方、退職給与引当金については、93SNAの想定する非自律的年金(内部積立型年金)と位置付けるか否かが問題となる。仮に、退職給与引当金を非自律的年金と位置付ける場合には、退職給与引当金の繰入れを年金積立に係る企業の拠出金とみなし、同引当金を、雇用者に対する支払義務として企業の負債に計上することが要請される(下図参照)。

<退職給与引当金を負債として計上する際の取り扱い2

  • BOX2図b

 しかし、現段階では、国民経済全体での退職費用発生額を把握することは、容易ではなく3、国民経済計算の改訂にあたっても、上記のような計上方法は採用されない方向にある。日本銀行では、こうした点に鑑み、新資金循環統計においても、退職給与引当金を企業の負債として計上しないことが適当と判断した。
 なお、企業会計の領域では、退職給付に係る会計基準等、いわゆる年金会計のあり方が議論されている。そうした議論が進展し、理論的な整理の仕方や基礎データの利用可能性等に変化が生じた場合には、新統計公表後、上記結論の妥当性を再検討することも有り得よう4

  1. 自律的年金基金は、固有の資産と負債を持つ部門として計上される。一方、非自律的年金は、雇主と同一部門に分類され、同年金の積立金は、加入者の資産とみなされることから、年金資産、年金準備金は、法人企業の資産・負債として計上される。
  2. 退職給与引当金(賞与引当金も同様)が、企業が労働サービスを利用したことに伴って生じるとみる場合には、国民経済計算の体系において、同引当金を未払費用として取り扱うことが必要となる(この結果、企業の負債側に計上される)。他方、退職給与引当金も、企業会計上の引当金の一つであり、企業会計原則等で、引当金が「将来の費用・損失の発生に備えて計上するもの」とされることから、国民経済計算の体系では、退職給与引当金は記録の対象とならないと考えることもできる(退職給与引当金の計上は、企業が未だ労働サービスの提供を受けていない時点で、費用を計上するものと位置付けられ、実際に行われた取引とみなされないため)。このように、退職給与引当金を非自律的年金と位置付けないならば、同引当金は、未払費用としての性格と、引当金としての性格の何れを重視するのかによって、国民経済計算の体系での取り扱いが異なったものとなる。
  3. 推計にあたり、企業会計上の退職給与引当金に係る数値を利用する場合には、以下の点が障害となる。
    • 一定期間内に発生した繰入必要額を把握するのが困難であること。
    • 税法の基準に従って、繰入額を算定している企業が少なくないこと。
  4. 特に、外部拠出型年金の積立不足の計上方法と、整合性を図る必要がある。企業会計では、年金基金において支払債務が保有資産を超過した場合、当該不足分を企業の負債として計上すべきとの議論がなされている。このような扱いについて、会計実務での対応が図られるようになった段階では、過去勤務債務全般について、資金循環統計でどのように取り扱うかを再度検討する必要が生じよう。

[BOX3]

ファイナンシャルリースの取り扱い

 93SNAは、ファイナンシャルリースを、リース取引のうち「リスクと報酬とが賃貸者から賃借者に事実上すべて移転される」ものと定義し、この定義を満たす場合、「リースの対象となる財貨は、賃貸者から賃借者へ所有権の移転があった」とみなす取り扱いを提言している。
 こうした提言を踏まえると、資金循環統計を含む国民経済計算の体系においては、一方でリース会社からユーザー企業への与信を、他方でユーザー企業の側の固定資本形成や固定資本減耗を把握・計上することが求められる。これは、ファイナンシャルリース取引に係る固定資産を、その所有者ではなく、使用者の側で把握することから、「所有者主義」から「使用者主義」への転換と称されることがある1

<ファイナンシャルリースの統計上の把握・計上方法>

  • BOX3図

 しかし、ファイナンシャルリースの取り扱いに関し、使用者主義への転換を図るための基礎データをみると、現状においては、その利用可能性に以下のような制約がある。

(1) 企業会計においては、ファイナンシャルリースが賃貸借取引として会計処理されるケースが少なくないと考えられる2。このため、企業の財務諸表や法人企業統計を基礎データとして利用する場合には、売買・金融取引として会計処理されている一部のファイナンシャルリース取引についてしか、十分な捕捉ができない。

(2) リース関連統計においても、リース資産を使用者側において把握したデータが整備されていない。

 こうした状況下、わが国の国民経済計算の改訂にあたり、使用者主義でのファイナンシャルリースの計上が、採用されない方向で検討が進められている。今回の資金循環統計見直しで、企業において金融取引として会計処理されているファイナンシャルリースのみ(その大部分は所有権移転ファイナンスリースであると想定される)を、金融取引として取り扱うこととするのは、こうした国民経済計算の改訂内容との整合性を図ることを目的としている。
 これにより、ファイナンシャルリースに係る資産は、法律上あるいは会計上の所有者の側から把握されることになるが、「使用者主義」により、実質的な設備投資主体や、リース会社を通じた与信状況を把握したいという統計ニーズが高まっていることも事実である。このため、日本銀行としては、今回の見直しの後も、基礎データの整備進捗状況や、国民経済計算における対応を眺めながら、ファイナンシャルリースの取り扱いについて、検討を継続する方針である。

  1. わが国の国際収支統計では、IMF国際収支統計マニュアル第5版の提言に対応し、使用者主義(クロスボーダーのファイナンシャルリース取引を金融取引として取り扱う方法)が導入されている。
  2. 1993年に設定されたリース会計基準では、ファイナンスリースは、ノンキャンセラブル、フルペイアウトの2要件を満たすリース取引とされており、93SNAの想定するファイナンシャルリースと概念上一致する(同会計基準の「ファイナンスリース」という呼称と、93SNAの邦訳の「ファイナンシャルリース」という呼称の違いに特段の意味はない)。
    同会計基準では、ファイナンスリースは、所有権移転ファイナンスリースと所有権移転外ファイナンスリースとに区分されるが、何れの形態でも、売買・金融取引として処理するのが原則とされている。しかし、所有権移転外ファイナンスリースについては、賃貸借取引として会計処理する方法も容認されており、そうした容認規定を採用している企業も少なくないと考えられる。この場合、リース物件やリース債務は、リース資産のユーザー企業のバランスシートには計上されないことになる。