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物価指数の品質調整を巡って*──卸売物価指数、企業向けサービス価格指数における現状と課題──

物価統計課

日本銀行から

日本銀行調査統計局ワーキングペーパーシリーズは、調査統計局スタッフおよび外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行あるいは調査統計局の公式見解を示すものではありません。

なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、論文の執筆者までお寄せ下さい。

以下には、(はじめに)を掲載しています。全文は、こちら (cwp01j06.pdf 146KB) から入手できます。

はじめに

 世界的に低インフレが広まる中、物価の安定を巡る議論の過程で物価指数の精度に対する関心が高まっている1。日本においても、90年代以降、物価は落ち着いた推移となっており、低下する局面も見られる中にあって、物価指数の精度に着目しながら物価の「実勢」を探る議論が活発になっている。

 早川・吉田(2001)では、物価指数が抱える問題は、そもそも統計実務家が処理すべき技術的な問題にとどまるものではなく、財・サービスの価格をどう捉えるか、ひいては物価の安定をどう考えるかに及ぶ本質的な問題であるという認識を提起している。実際に卸売物価指数や企業向けサービス価格指数を作成している「現場」の立場からみれば、財やサービスの価格をどのように捉えるべきかという問題に直面し、日々頭を悩ましている中で、こうした主張に共鳴できる部分が多い。日本銀行の作成している物価指数に限ってみても、IT(Information Technology)化、サービス化といった構造の変化が著しい日本経済の現状にあって、卸売物価がIT化に代表される生産性上昇の影響をどの程度反映した指数となっているのかとか、経済のサービス化が進み、IT化の裾野が非製造業にも徐々に波及するという状況を企業向けサービス価格は反映した指数になっているのか、さらにはそうした論点を踏まえたうえで需給バランスを映し出す物価指数としてどの程度有用なのか、といった様々な関心が生じよう。こうした問題意識に対して経済の実情をできる限り歪めずに映し出す物価指数を提供するためには、物価指数が抱える問題点の中でも、品質調整を如何に行なうかが最も重要な課題となっている2

 本稿の狙いは、物価指数が物価の姿を捉えていくうえで品質調整が如何に重要であるかについて、統計作成者の立場から具体的に考察を加え、これまでに得られている成果から、物価指数を利用するにあたっての留意点を炙り出すとともに、様々な品質調整手法を用いてもなお解決されていない問題の所在をはっきりとさせ、今後の内外の研究に役立てることにある。

 以下では、まず品質調整の考え方について簡単に提示したうえで、品質調整に関する未解決の問題について、概念上の問題や技術的な問題について考察を加える。その後、現在各種の物価指数統計で利用されている品質調整の手法を概観し、卸売物価指数や企業向けサービス価格指数に対する実際の適用の仕方について、海外における品質調整手法の議論の流れと併せて紹介する。最後に、品質調整によって実際に物価指数の推移がどの程度の影響を受けているか、そうした検証結果から物価指数を利用するにあたってどのような含意が得られるか、について具体的に示す。

  1. こうした論点についての問題提起は、日本銀行調査統計局(2000a)を参照。また、消費者物価のバイアスの問題については、いわゆる「ボスキン・レポート」(Advisory Commission to Study the Consumer Price Index)(1996)、白塚(1998)を参照。
  2. 品質調整の考え方についての基礎的な議論については、太田(1980)を参照されたい。
  • 本稿は、4月19日に日本銀行で開催された「物価に関する研究会」に提出された論文の改定バージョンである。指定討論者の西村清彦東京大学教授をはじめ、研究会の参加者の方々から有益なコメントをいただいたことに対して感謝する。なお、本稿の内容は、調査統計局物価統計課の意見であり、特に明記しない限り、日本銀行の公式見解を示すものではない。本稿の内容に関する質問は、鵜飼(物価統計課長、E-mail:hiroshi.ugai@boj.or.jp)まで問い合わせされたい。