このページの本文へ移動

短観見直しに伴う2003年12月調査の再集計結果

新旧ベースの集計結果比較と段差発生の要因について

2004年 3月 8日
日本銀行調査統計局

日本銀行から

以下には、本文のみを掲載しています。図表を含む全文は、こちら(nttk16.pdf 119KB) から入手できます。

なお、「短観(見直しによる新旧ベース比較対照表)−2003年12月調査−」は、こちら(nttk16a.pdf 30KB / nttk16a.lzh 54KB[MS-Excel]) から入手できます。

1.はじめに

 日本銀行では、「短観」1(企業短期経済観測調査)に関し、産業構造の変化や企業会計制度の変更等を適切に反映させるとともに、統計精度をさらに高めることを狙いとして、2004年3月調査(4月1日公表予定)より、約5年ごとに実施される定例の調査対象企業の見直しと併せ、幅広い観点から調査の枠組み等の見直しを行う。

 主な見直しのポイントは、(1)業種分類の見直し・調査対象業種の拡充、(2)集計規模(大企業、中堅企業、中小企業)区分基準の「常用雇用者数」から「資本金」への変更、(3)調査項目の改廃、(4)参考計数の位置付けにある「主要短観」の廃止、(5)調査対象企業から回答が得られなかった場合の集計方法(欠測値補完)の見直し、等である(見直しの概要2は別紙)。

  1. 本稿では特に断りのない限り、標本調査形式の「全国短観」を指す。
  2. 今回の見直し内容については、2000年11月に基本方針についてのパブリックコメントを求めたうえ、「『企業短期経済観測調査』の見直しに関する最終案」(2001年6月日本銀行調査統計局)として対外公表している。なお、業種分類についての詳細は、「『企業短期経済観測調査』の見直しにおける業種分類について」(2002年5月日本銀行調査統計局)参照。

2.新しい調査対象企業

 上記の一連の見直しを踏まえ、最新(2001年10月時点調査)の「事業所・企業統計調査」に基づき3、短観の標本設計(調査対象企業の選定)を行った。標本設計は、統計精度の向上を図る一方、報告者負担および統計作成負担を最小に抑えるとの観点から、原則として以下の手順で実施した。

(1)既存調査企業を継続して標本企業とする(ただし新ベースで調査対象外となる資本金20百万円未満の先は調査取り止め)。

(2)継続調査企業の分布が母集団企業の分布から乖離していないかどうかのチェック4や調査対象企業の調査結果から得られる売上高の母集団推計値5に関する目標誤差率の設定6など、統計学的手法を用い、一定以上の統計精度を確保するために必要な最小限の標本を母集団から無作為に抽出し追加する7

 この結果、調査対象企業は、2003年12月調査時点の8,204社から、1,187社が対象外となる一方、新たに3,831社が加わり、合計で10,848社となった8(図表1、2)。

  1. 3全国短観は、総務省の「事業所・企業統計調査」をベースに母集団を作成し、その中から調査対象企業(標本)を選定している。同調査はこれまで約5年ごとに実施されてきている。
  2. 4継続調査企業の分布と母集団企業の分布の乖離の有無については、最新の「事業所・企業統計調査」の企業別の雇用者、資本金を利用して、統計的なチェック(適合度に関するχ2検定)を実施。
  3. 5短観では、計数項目の集計に際し、母集団推計を行っている。具体的には、母集団を業種ごとに、資本金と常用雇用者数の規模の似通った幾つかのグループ(母集団推計層)に分けたうえで、各層から標本(調査対象企業)を抽出(層別抽出)、各層の調査対象企業の回答値の平均に当該層の母集団企業数を乗じて母集団全体での集計値を推定している。
  4. 6集計規模区分ごとに製造業3%、非製造業5%。母集団推計値の誤差率は、標本(調査対象企業)から得られる推計値が母集団の真の値から乖離する程度を表わすものであるが、調査対象企業を増やすと誤差率は小さくなるという関係にあるため、調査の効率性と統計精度のバランスを考えて目標誤差率を設定している。
  5. 7今回の標本設計に当たっては、母集団推計層を、資本金と常用雇用者数を用いて従来(常用雇用者数のみ)より詳細に設定し、極力少ない標本数で誤差率が小さくなるよう努めた。
  6. 8今後、企業再編等により、3月調査までに若干の変動が生じる可能性がある。また、この他に金融機関211社についても、業況判断、設備投資額等を調査する。

3.新ベースでの2003年12月調査再集計結果

(旧ベースとの段差)

 今回の見直しに伴い、2003年12月調査と2004年3月調査の計数値の間には不連続(段差)が生じることになる。このため、次回3月調査から新たに集計対象とする企業に対して予備調査を行い、2003年度以前の計数(業況判断DI等判断項目については12月調査時点のみ)を調査し、改めて新ベースで12月調査を再集計した。これを旧ベースでの集計結果と比較したところ、大企業・非製造業の業況判断DIなど多少段差が生じている項目もあるが、全体的には、判断項目や売上高や設備投資等の年度計画の前年比に特段大きな段差はみられなかった(「短観(見直しによる新旧ベース比較対照表)−2003年12月調査−」(2004年3月8日日本銀行調査統計局)参照9nttk16a.pdf 30KB / nttk16a.lzh 29KB[MS-Excel]))。

(段差発生の要因)

 新旧ベースでの段差発生要因は主に以下の3点に分けることができる。このうち、削除要因と組替え要因は既存調査企業の集計規模区分の変更に起因するものである。

  1. イ.削除要因:資本金20百万円未満の既存調査企業の削除等10
  2. ロ.組替え要因:雇用者数基準から資本金基準への組替え
  3. ハ.追加要因:新規調査企業の追加

 業況判断DIに関してみると、全体としては、新規調査企業の追加を主因にプラス(DIを上昇させる方向)の段差が発生した11が、集計規模区分毎にみると、組替えの影響から区々となっている。

  • 図

 削除要因については、削除企業がある程度存在する集計規模区分では、プラスに寄与している。この点は、旧ベースで調査対象であった雇用者数50人以上の企業のうち資本金20百万円未満の先のDIが低く、これが除かれたことによる影響とみられる(図表4)。

 組替え要因については、明確な傾向は窺えず、組換え前後の集計規模区分の変更(例:旧ベースで中堅企業→新ベースで大企業)の程度、DIの水準等によって影響度が異なり、プラスにもマイナスにも寄与し得る(図表5)。

 追加要因については、新規調査企業の少ない大企業・製造業以外は、全ての集計規模区分でプラスに寄与している。ここには、母集団企業の更新(前回:1996年10月時点→今回:2001年10月時点)の影響も含まれるが、新規調査企業の中では、設立時期の新しい企業のDIが古い企業より高く、母集団企業の更新に伴う業況の良い新興企業の取り込みがプラス寄与の一因となっているとみられる(図表6、7)。

 このように短観では、定期的な母集団企業の更新に伴い調査企業を一部ではあるが入れ替えていくことにより、新興企業が調査対象として取り込まれ、調査結果に経済実態がより的確に反映されることになる。逆に言えば、古い母集団情報に基づいた調査では時間が経つにつれてバイアスが生じてしまうということである。また、集計規模区分の変更により、雇用者数は少ないが資本金は多い企業を新たに調査対象として加えることとなった。このように従来の基準では対象外であったが新基準の下で今回新たに調査対象となった企業は2,193社に上り、当初想定していたインターネット関連企業などが含まれている。

(集計規模区分ごとの特徴)

 上記の3つの要因を、大企業と中小企業について具体的にみると以下のとおり。

  1. (1)大企業・製造業
    1. イ.削除要因:削除企業が少なく影響はなし。
    2. ロ.組替え要因:化学、一般機械、電気機械などで中堅企業から大企業へDIの低い企業が組替わった影響等から、マイナスに寄与。
    3. ハ.追加要因:新規調査企業の追加が少なく影響はなし。
  2. (2)大企業・非製造業
    1. イ.削除要因:削除企業が少なく影響はなし。
    2. ロ.組替え要因:卸売、運輸などで中堅企業から大企業へDIの高い企業が組替わったこと等から、プラスに寄与。
    3. ハ.追加要因:対事業所サービス、対個人サービス等で、設立時期の新しい企業を中心にプラスに寄与。
  3. (3)中小企業・製造業
    1. イ.削除要因:DIの低い企業が削除されたため、プラスに寄与。
    2. ロ.組替え要因:他の集計規模区分からの組替えが少なく、概ね影響なし。
    3. ハ.追加要因:鉄鋼、一般機械等で、設立時期の新しい企業を中心にプラスに寄与。
  4. (4)中小企業・非製造業
    1. イ.削除要因:DIの低い企業が削除されたため、プラスに寄与。
    2. ロ.組替え要因:小売、飲食店・宿泊などで中堅企業から中小企業へDIの低い企業が組替わったこと等から、マイナスに寄与。
    3. ハ.追加要因:卸売、運輸等で、設立時期の新しい企業を中心にプラスに寄与。

(年度計画の段差)

 主要な年度計画のうち、設備投資の前年比に関しても同様の分析を試みた。削除要因や組替え要因に関しては、さほど大きな影響はみられないが、追加要因については、中小企業・製造業・非製造業で、プラス(前年比を拡大させる方向)の寄与が若干みられる(図表8)。

  1. 9詳細なデータは2004年3月調査公表時に併せて公表する予定。
  2. 10一部標本設計上の選定基準を満たさない企業を含む。
  3. 11過去2回の調査対象企業の見直しにおいても業況判断DIは上方修正されている(全規模全産業ベース、98年12月調査:旧ベース-49→新ベース-47、93年8月調査:旧ベース-34→新ベース-29)。

4.おわりに─短観のさらなる改善に向けて─

 このように、今回の短観の見直しでは、全体としては見直し前後でそれほど大きな乖離はみられなかった。それでも、前回の見直しから5年が経過し、大企業・非製造業の業況判断DIなど、多少乖離のみられた一部項目では、見直し後の状況と比べ見直し前には何がしか歪みが生じていたと考えられるところもあった。これには、この間の日本経済を巡る様々な産業構造の変化なども少なからず影響しているとみられる。

 近年、わが国の経済産業構造は、これまで以上に速く変化している可能性が高く、短観が経済実態を正確に把握していくためには、よりきめ細かな見直しが必要となっている。このため、今回の見直しに際し、今後は、調査対象企業見直し(標本設計)の頻度を、現行の約5年ごとから2、3年ごとに短縮することとした。これによって、先行きの経済産業構造の変化等をより正確に取り込むことができるようになると考えている。

 ただし、今後も統計精度を一段と引き上げていくためには、まだまだ数多くの解決すべき難しい問題を抱えている。例えば、近年活発化する合併や分社といった企業再編にどのように対応していくかという問題がある。従来、調査対象企業の合併(分社)に際しては、合併前の企業(分社後の企業)のうちいずれかの企業を中核企業とみなし、その企業を存続先として扱ってきた。しかし、分社当初は中核企業でなかった先が、その後の経営戦略の変化の中で、大きなプレゼンスを持ってくるような場合がある。今回の見直しからは、こうした企業については、一定の基準を満たせば、分社後暫く経過していても、調査対象企業として柔軟に取り込んでいくこととした。また、持株会社化の増加等も踏まえ、大規模な合併や分社が発生した場合には、これによる計数の変動を最小限に抑えるため、実務対応を勘案のうえ、次回の調査対象企業の見直しまでの間、合併や分社がなかったものとみなして(合併<分社>発生前の企業の姿に引き直して)集計する方法を適用できるという枠組みを作った。もっとも、こうした方策については改善の余地が多く残されており、引続き、企業再編への対応に関しては、調査の枠組みを含めた幅広い観点からの議論も含め、調査・研究を行っていきたい。

 また、調査手段に関しても、現在はなお、紙ベースの調査表を郵送で回収、集計しているが、昨今のIT技術の発展等に鑑みると、今後はオンラインによる調査表の回収等、調査対象企業の報告負担軽減にもつながる対応策を検討する必要があると考えている。

 日本銀行では、今後とも金融経済構造や環境の変化に対応して統計精度を引き上げるとともに、高度化するユーザーニーズに対応し、調査対象企業の負担を極力軽減できるよう、様々な課題に取り組んでいきたいと考えている。

以上

本件に関する問合せ

日本銀行 調査統計局 経済統計課

TEL:03-3279-1111 内線3807、3822