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金融研究所「貨幣博物館」の仕事 貨幣博物館が2015年11月にリニューアルオープンしました(2015年12月25日掲載)

日本銀行金融研究所貨幣博物館は、1985年の開館以来、古今東西のお金やそれらに関するさまざまな資料を収集・保管し、その調査・研究を進めながら、広く一般に公開してきました。来館者数も、昨年中(2014年1〜12月)には11万6千人に達するなど、多くの方に来ていただいています。2015年の初めからリニューアル準備のため一時休館していましたが、2015年11月に装いも新たに開館しました。
今回は、リニューアルで何が変わったのか、見どころはどこか、といったことについて、ご紹介します。


大きく変わった館内 ― 親しみやすく、利用しやすく―

貨幣博物館の玄関に飾られた屋号の垂れ幕

「お江戸日本橋」貨幣博物館へようこそ

博物館にとって展示の中身が重要であることはいうまでもありませんが、ご来館いただきやすい雰囲気作りも大切です。この点、日本銀行はどうしてもお堅いイメージを持たれがちですし、リニューアル前の貨幣博物館の内装も赤じゅうたんに黒・シルバーを基調とした大きな展示ケースが立ち並ぶ威風堂々たるものでした。こうした内装の仕立ては、1985年に事前予約制で開館した当初に想定していた来館者層を意識したものでしたが、開館から約30年を経て、ご高齢の方、車椅子の方、お子さま(修学旅行団体など)の来館が増えてきました。そこで、リニューアルに当たっては、来館者層の変化に対応し、親しみやすさ、分かりやすさを強く意識して、館内のレイアウト、デザイン、色調を一新しています。

まず博物館の顔にあたる玄関から展示室の入口に至るアプローチでさまざまな工夫を凝らしました。貨幣博物館のある日本橋は、江戸時代には大きな商家が軒を連ねる街でした。そのイメージを意識して、玄関前に、屋号の垂れ幕を新設しました。老舗の商家にいざなうように、「日本銀行」の貨幣博物館に身構えていた来館者の気持ちを一気にほぐしてくれそうです。

玄関に入ると、明るいロビーの奥にはスタイリッシュなエレベーターの入口が見えます。リニューアル前は博物館エリアにエレベーターを備えておらず、車椅子の方などは職員用のエレベーターにご案内していましたが、バリアフリーを目指し、新たにエレベーターを博物館エリアに設けました。

1階から展示室のある2階へは、エレベーターのほか階段でも移動できます。階段を昇りながら見上げると、職人が小判を作っている様子が描かれています。実は日本銀行本店のある地には、江戸時代、「金座」があり、小判がそこで作られていたのです。来館者の皆さんは、知らず知らずに、小判のふるさとにたどり着いているのです。

階段を昇り切ると、展示室入口はもうすぐです。でも入口に通ずる廊下に出て、来館者の皆さんはきっと目を見開くことでしょう。ご自分の身長を超える高さのお金展示パネルが皆さんをお迎えします。「帰りにここで記念撮影をしよう!」心の中で、皆さんのつぶやく声が聞こえてきそうです。

廊下をまっすぐ進み、左にはもう展示室の入口が見えます。その前に、来館者の皆さんは、右手にある大画面の映像コーナーに気づくことでしょう。映像コーナーはレクチャールームも兼ねていて、博物館学芸員や外部有識者による講話を行う場としても利用していきます。もちろん、休憩場所としてもどうぞ!

  • 小判作りの職人の様子が描かれた壁

    金座の職人がお出迎え

  • 廊下に設置されたお金展示パネル

    「記念撮影をしよう!」

常設展示:日本貨幣史 ― 分かりやすく、誰でも楽しめるように―

  • 展示室の概観

    展示室に入ると……

  • 展示室中央の解説パネル

いかがでしょう。展示室に入る前に、来館者の皆さんはもうお金の歴史ワールドに引き込まれているのではないでしょうか。しかしこれからが本番です。いよいよ展示室に入ります。入ってすぐ、正面の大きなケースがお迎えします。導入展示です。導入展示は、常設展示のメインである日本貨幣史(お金の歴史)のイントロを担う部分です。中央の解説パネルを取り巻くようにして、昔の人々が、いろいろなお金を、いろいろな場面で使っている様子が描かれています。中央の解説パネルには、「ここにあるものは『お金』として使われてきました」というメインタイトル。そして布、金属のお金、紙幣など古代から現在に至るまでの数々のお金が展示され、その下で、皆さんに次のように問いかけながら、常設展示へいざなっていきます。

「お金」にはいくつかの特徴があります

  • さまざまなものと交換できる
  • さまざまな人の間で誰でも使うことができる
  • 使いたい時まで貯めておくことができる

何が「お金」として選ばれたのか、どのように使われてきたのかみていきましょう

実はこのメッセージは、常設展示である日本貨幣史の主題を、分かりやすく、簡潔な言葉で解説したものなのです。簡単そうに見える解説ですが、来館者の皆さんを、どのようなストーリーでお金の歴史に導いていくのか、その道しるべともなるべきものだけに、外部の専門家の知恵をお借りしながら、推敲を積み重ねて完成させた労作です。

導入展示から足を踏み出すと、来館者の皆さんは、展示室の奥へと続いていく、じゅうたん、弧を描く天井ボードに目を奪われるのではないでしょうか。鮮やかな色調のグラデーション。そのグラデーションを構成するそれぞれのカラーは、古代を皮切りとする時代区分を象徴しています。例えば、近世(16世紀後半~19世紀後半)であれば「グリーン」といった具合です。じゅうたんと、天井ボードにサンドイッチされるようにして、壁際には展示パネルと展示ケースが並んでいます。皆さんは、そこでお気づきになることでしょう。各時代区分のカラーにいざなわれるようにして、これから展示ケースを見ながら、お金の歴史をたどっていくことを。ちなみに、展示ケースは、バリアフリーを意識して、車椅子の方やお子さまにも見やすい設計にしています。また常設展示の各展示ケースには、ケースのテーマにあった問いかけが用意されています。答えはその展示ケースの中に……資料をじっくり見て答えを探してみてください。

古代、中世、近世、近代の順に展示ケースをご覧になった来館者の皆さんは、常設展示最後の「現代へ」の展示にたどり着きます。そこには、最初にある導入展示の問いかけに対応する答えがあります。そしてその答えは、ここまで見てきた日本貨幣史の展示物に示されてきたものでもあります。ぜひ、皆さんの眼で確かめてみてください。

常設展示には、最新の研究成果を取り込んでいます。例えば、日本で最初のお金(銅銭)は何か?皆さんは学校でどのように教えられたでしょうか。「わどうかいほう」(和同開珎)とお答えになる方が多いかもしれません。しかしながら、現在では、奈良県の飛鳥池遺跡から出土した「富本銭」が日本最初の銅銭として貨幣史の中で位置づけられることが多いのです。なお、「和同開珎」の読み方も、現在では「わどうかいちん」とされています。

以上、常設展示の全体像をご説明してきましたが、次にその見どころを見てみましょう。

まず、近世のコーナーでは、江戸時代のすべての大判と四種類の分銅金を一覧することができます。これができるのは貨幣博物館だけです。原寸・実物の大判の迫力をお楽しみください。分銅金はまばゆいばかりの美しさです。

また、リニューアル記念として、通常はレプリカ(複製)で展示している貴重なお金、具体的には「天正大判」を実物で展示しています。これは、豊臣秀吉が作らせた最初の大判です。こちらの実物展示は2016年2月末までの期間限定ですので、ぜひこの機会にご覧ください。

  • 写真1

    和同開珎

  • 写真2

    富本銭
    (提供:奈良文化財研究所)

  • 写真3

    天正大判

  • 写真4

    分銅金

歴代の日本銀行券が勢揃いしているのも魅力のひとつです。ご高齢の方にとっては、子どもの頃に見たことのある懐かしいお札に再会することができるでしょう。「このお札、知っている」、「私はここまで」……現代のコーナーでご覧ください。

貨幣そのもの以外にも注目です。例えば、リニューアル前においては、来館者の方から、昔の物の値段についてご質問を受けることが多くありました。なるほど、江戸時代に寛永通宝100枚(100文)で何が買えたか、といったことは、常設展示を通じてお金の歴史をなぞっていく過程で浮かんでくる自然な疑問でしょう。常設展示では、そうした疑問に答えられるよう、各時代区分において、物の値段に関する情報を提供しています。また、体験展示として、各種お金の重さ体験、過去にタイムスリップした気分になっての昔の買い物体験など、手と身体を動かしながらお金の歴史を学ぶこともできます。体力に自信のある方は、千両箱の重さ体験にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。楽しい思い出になること、間違いありません。

「トピック」を展示する ― 元素記号から錦絵まで―

このほか「トピック展示」の「お金の材料」では、お金の材料として使われてきた9種類の金属について、元素記号のほか、原子番号、密度(重さ)、融点などが、それぞれの金属で作られた生活に身近なさまざまなモノの画像の周辺に記されています。化学が得意な方はもちろん、そうでない方にも「えっ、普段使っている、こんなモノがお金と同じ材料!?」と驚いていただけるかもしれません。

また、同じく「トピック展示」には、「お金と贈答」「お金と祈り」「商売繁盛」「人生とお金」といった切り口で、日々の暮らしの中でのお金について紹介する文芸的な味わい、あるいは浮世の味わいに溢れたコーナーもあります。例えば、江戸時代に60歳まで暮らしていくために必要なお金と、その使い道(子どもの頃は手習い<筆、硯、半紙など>にかかる費用、大人になるとお酒<1日2合>や煙草など)を紹介しています。

ここでは、錦絵と呼ばれる多色刷りの浮世絵版画をいくつか展示しており、2014年9月末から約2カ月間、FRB(米国連邦準備制度理事会)の美術品展示会に出展し、評判となった錦絵の一部についても、リニューアル記念として期間限定(2016年2月14日まで)で特別展示しています。美しいだけでなく、往時の風俗・世相を伝えるものとして、錦絵の文化財としての価値は非常に高く、ぜひその雰囲気を楽しんでいただければと思います。

  • 写真5

    錦絵「品定開化花(しなさだめかいかのはな)

成長する博物館へ ― 新たな始まり―

ここまで、主としてリニューアル後の展示内容についてお話ししてきましたが、貨幣博物館は、保有する貴重な文化財を後世に長く伝えるという責務も負っています。今回のリニューアルで導入した新しい展示ケースは、展示資料の多くが、空気環境の影響を受けやすい金属のお金であることを考慮し、有害ガスの放散を起こさないよう使用部材を厳選したものとなっています。また錦絵などの紙資料は強い光に弱いため、照度調整もきめ細かくできるようにしています。このように、新たな展示ケースは、目立たないところで、デリケートなお金や関係資料の保存性を高めた仕様になっています。

さらに貨幣博物館では、最新の研究成果を取り込み、日本貨幣史のスタンダードを提示するという学問的な貢献も志しています。そのためには、所蔵資料をコツコツと整理し、調査・研究を積み重ね、その成果を展示に反映していく、という日頃の努力が何よりも大切で、今回のリニューアルも、過去の地道な取り組みの蓄積を反映したものです。例えば、この7~8年の間に開催した企画展、「貨幣誕生―和同開珎の時代とくらし―」、「海を越えた中世のお金―"びた一文"に秘められた歴史―」、「貨幣・天下統一―家康がつくったお金のしくみ―」、「おかね道中記―旅で使う貨幣―」などは、リニューアルの展示企画をイメージして企画されました。新しい展示ケースは、展示替えのしやすい仕様になっており、調査・研究の進んだ所蔵資料や新たな貨幣の発掘事例の紹介なども、これまでより機動的に行えるようになります。今回のリニューアルは貨幣博物館にとってさらなる成長に向けた「始まり」と言えそうです。今後とも、成長する貨幣博物館の姿にご期待ください!

最後に ― 貨幣博物館の位置づけ、誕生の経緯―

最後に、貨幣博物館の日本銀行における位置づけや、その誕生の経緯について触れておきましょう。

貨幣博物館は、お金やそれらに関するさまざまな資料を収集・保管し、その調査・研究を進めながら、広く一般に公開してきました。すでに紹介しましたとおり、常設展示においては日本貨幣史の展示を通じて、お金とはどのようなものか、なぜお金が生まれてきたのか、そしてお金の価値を安定させることがなぜ大切なのか、といったことを考える材料をさまざまなかたちで多くの方々にお示ししています。もうお分かりでしょう。これがわが国の中央銀行である日本銀行に貨幣博物館が設置されているゆえんです。

2階展示室の入口近くに、貨幣博物館のコレクションを支えた3人の人物に関する展示があります。自身の収集したコレクションを戦禍から守るため日本銀行に寄贈した田中啓文氏、その寄贈を快く受け入れた民俗資料の収集家・研究者でもあった当時の渋澤敬三・第16代日本銀行総裁、専門家として資料の研究を進め、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の接収の求めに対し、「文化財は自らの手で守り、活かすべき」と交渉した郡司勇夫氏についての展示です。こうした先人をはじめ、貨幣博物館は関係する内外のたくさんの方々―この記事を読んでくださっている皆さんも含め―の熱い思いに支えられ、運営されているのです。

ここまで読み進められた皆さんは、心の中でつぶやいておられるのではないでしょうか。「やっぱり行ってみないことにはよくわからないな」そのとおりです。貨幣博物館は、親しみやすく、分かりやすく、お子さまから大人、ご高齢の方まで楽しめる、お金の歴史に関する博物館です。お金の歴史を詳しく知りたい本格派の方、ここにしかない「お宝」の実物を見たい方、体験しながら肩の力を抜いてお金の歴史を勉強したい方、多様な来館者のニーズに応えることができるよう、いろいろな工夫が凝らされています。また、お金には関心がない方にも、お金を通して日本の歴史の息遣いを感じていただけると思います。JR東京駅や地下鉄三越前駅・日本橋駅から徒歩数分というアクセスしやすい場所にあり、ショッピングの際に立ち寄るのにも便利です。しかも入場は無料! まずは貨幣博物館に足をお運びください。「お金」と「歴史」が皆さんをお迎えすることでしょう。

  • 貨幣博物館の来館案内。詳細は以下に説明。
開館時間:
9:30~16:30(入館は16:00まで)
休館日:
月曜日(ただし祝休日は開館)
年末年始(12月29日~1月4日)
  • このほか、展示入れ替え等のため臨時休館することがあります。
入館無料
  • 20名以上は予約が必要
地下鉄
  • 半蔵門線 三越前駅(B1出口)から徒歩1分
  • 銀座線 三越前駅(A5 出口)から徒歩2分
  • 東西線 日本橋駅(A1 出口)から徒歩6分
JR
  • 東京駅 日本橋口から徒歩8分

〒103-0021 東京都中央区日本橋本石町1-3-1
(日本銀行分館内)
TEL:03-3277-3037
https://www.imes.boj.or.jp/cm/