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日本銀行文書局 福岡支店移転プロジェクト 関係者の協力が築いた福岡支店新営業所(2022年9月26日掲載)

2022年4月、およそ4年半にわたる改築工事を終えた日本銀行福岡支店が新たな一歩を踏み出しました。そのコンセプト立案からデザイン、設計、工事のスケジュール管理、引っ越しまで中心となって業務を進めてきたのが、文書局の管財課管財企画グループ、施設改築グループ、そして総務課総務企画グループです。さらに福岡支店はもちろんのこと日本銀行の各局室の多数の職員が関わり、綿密な計画を立てた上で関係者が一丸となって計画通りの竣工を目指す中、重要なポイントとなったのは、いかに適切に日本銀行の業務を継続しつつ、営業所の建物を改築するかということでした。


業務継続を命題として進められた福岡支店改築

「福岡支店をはじめ日本銀行には全国各地に32の支店があり、建物はいずれも本行が所有する不動産です。文書局管財課ではその管理全般を行っており、建物の老朽化等に伴う改築が検討される際には、管財企画グループが企画立案から竣工に至るまでの取りまとめ役を担います。今回の福岡支店改築にあたっては2015年に具体的な設計に向けた手続きが始められ、2017年10月に着工。2022年4月に地上5階、地下1階、延床面積約9,200平米の新営業所が無事に竣工しました」

そう語るのは、管財企画グループ長で企画役の二重作直毅さんです。近年では2007年に那覇支店、2013年には釧路支店で旧営業所とは別の場所に新営業所が建てられましたが、福岡支店では「居ながら工事」と呼ばれる同一敷地内での改築を採用。最初に旧営業所の駐車場などを更地にしてI期棟を、さらには旧営業所解体の後にII期棟を建て、最終的には二棟をつなげるという、日本銀行としては初の試みとなる工事となりました。

「日本銀行の支店がそれぞれの地域において担うのは、通貨供給、資金決済、国庫金受払いといった経済活動の根幹に関わること。人間の身体に例えれば、血液循環の心臓部にあたります。地域の金融・経済調査を行い本部に報告する、アンテナとしての機能も果たさなくてはなりません。ですから改築においては支店の業務継続が大きな命題であり、約4年半の工事期間は進捗状況を細かく追い、先々のリスクを想定した上で調整を重ねました。コロナ禍という予期せぬ事態にみまわれながらも、関係者一丸となった協力体制が計画通りの工事の進行につながりました」

  • およそ4年半にわたる工事を終えた福岡支店新営業所

    福岡支店新営業所の全体の写真。

工事の変遷:当地で業務を継続しつつ、段階的に工事を実施(1)~(4)

  • 福岡支店旧営業所の全体の写真。

    (1)2017年10月:I期棟新築工事着手。

  • 新営業所I期棟完成時の写真。隣には旧営業所が残存。

    (2)2019年12月:I期棟完成。2020年1月からI期棟での業務を開始。2020年2月より旧営業所の解体工事に着手。

  • 新営業所II期棟着工(旧営業所跡地)時の写真。

    (3)2020年8月:II期棟新築工事着手。

  • 新営業所のI期棟とII期棟の接続工事の写真。

    (4)2021年9月:I期棟とII期棟を接続。

100年先まで見据えて考えられた福岡のまちや人との親和性

福岡支店改築にあたり、設計から工事完成まで日本銀行内外の関係者との仲介役として本プロジェクトの進捗管理に深く関わってきたのが文書局施設改築グループです。初期段階から設計やデザインについて調整を重ねてきたという施設改築グループ長で企画役の滝田昌宏さんは、まずは地域との親和性がコンセプトの大きな柱の一つだったと話します。

「ルネッサンス様式を根幹として1951年に建築された旧営業所は、福岡市の中心地である天神地区に位置し、約70年にわたりランドマーク的な存在として市民に親しまれてきました。今回は100年先を見据えた建物を設計したこともあり、地元に根付き、歴史の一部になることも意識しつつ、まちになじむデザインを心掛けました」

実際、職員通用口の内玄関に旧営業所正面玄関の門型が移築されました。また、列柱(れっちゅう)や袖壁(そでかべ)、面格子(めんごうし)など新営業所の外観は旧営業所の意匠を一部踏襲したデザインになっており、館内の雰囲気も旧営業所のクラシカルな趣が受け継がれています。

「福岡支店には、九州・沖縄地区の各支店を統括する役割もあります。設計に際しては銀行券や国庫金といった各種業務の取扱量や来店者数に加え、職員の働きやすさ、さらには、お客様が利用しやすい動線をイメージしてレイアウトを検討しました」

時代のニーズに応えた、環境や社会への配慮も重要なポイントです。

「太陽光発電設備の設置や雨水の植栽散水利用など、環境には設計当初から配慮しました。業務継続のためには、十分な耐震性を確保できる免震構造や自家発電機の設置も重要です。敷地の一角には緑地帯や小さな広場を設け、また、バリアフリーにもしっかり対応するなど、地域社会との共生も意識しました」

滝田さんは、着工後も工事進捗管理のために現場に頻繁に赴き福岡支店、関係各局室、設計監理会社、施工会社のほか行政機関など外部との話し合いを幾度も重ねてきたそうです。

「多くの関係者が息を合わせて進めるのは決して容易ではなく、ようやく完成した時には感無量でした。ここまでこぎ着けられたのは、地元の方々が工事を温かく見守ってくれたおかげだと思いますし、福岡支店の皆さんが喜んでくれたのも、うれしく思っています」

  • 旧営業所正面玄関の写真。

    旧営業所の正面玄関外装(門型)。大きな列柱のデザインは新営業所に引き継がれた。

  • 新営業所に移築された旧営業所正面玄関の写真。

    旧営業所の正面玄関を移築した新営業所の内玄関には、かつての面影が残っている。

難関な工事の進行を支えた関係者との深いつながり

滝田さんと同じ施設改築グループ企画役の宮崎丈さんは、二期にわたった「居ながら工事」の苦労を改めて振り返ります。

「I期棟は2019年12月に完工し、2020年1月14日から業務が開始された一方、旧営業所解体後の同年8月からはII期棟工事に着手しました。その二棟の接続作業は現場責任者いわく、『これだけ大規模な免震建物をつなげたことはなく、全てが初めての経験』という難工事でした」

II期棟工事中は、既に完工した免震構造のI期棟とII期棟の建物が近接している状態であるため、万が一大きな地震が起きた場合には、建物がぶつかるリスクがありました。こうしたリスクを可能な限り避けるため、関係者で知恵を出し合い、I期棟と接続するまでII期棟は耐震構造とし、最終段階の短期間で接続を行った後に免震化する手法を採用しました。

「騒音や振動が直接伝わるので、二棟の接続工事をぎりぎりまで待ったのは支店業務への支障も考えてのことでした。近隣への影響をはじめ想定されるさまざまなリスクは事前に徹底して洗い出してはいたものの、作業が進む過程で気付くことも多く、防音、吸音対策は臨機応変に対応しました。また、平日の営業時間中の音出し作業は業務に支障を来す可能性があることから、週末を含む業務時間外へと工程の一部を変更したり、福岡支店長の記者会見時には、時間単位で工事の調整を行いました」

工期を守ることを第一に考えつつも、できるだけ支店側の思いをくみ、負担を軽減したかったと宮崎さんは話します。

「本行の職員には専門の知識や資格を有した技師がおり、技術的なことは彼らに確認して状況を把握しました。それをかみくだいて関係者に報告、説明して理解を得るのもわれわれの仕事です。施工業者とも率直な話し合いを続けてきましたし、そういう意味でもっとも大事だったのはコミュニケーションの積み重ねでした」

長きにわたるコロナ禍もまた想定外のことでしたが、施工関係者の協力もあって、検温・手洗いといった感染症の基本対策のほか、工事における休憩時間の分散化なども円滑になされました。そうした中で、工事も順調に進めることができました。

「感染症の拡大により出張がかなわなかった時期にはオンラインで打ち合わせを行いましたが、状況を直接目で見て話を聞くのとではやはり理解の度合いは異なり、現場に赴くことの重要性を再認識しました。苦労は多かったものの、施工関係の皆さんが『良い経験ができた』と話していらしたこともあり、完成を迎えた4月末に、発注者代表としてご挨拶させていただいた際には、これまでの苦労が思い起こされ、正直目が潤みました」

順調な引っ越しの陰にあった緻密なスケジューリング

旧営業所からI期棟へ、さらにはII期棟完成後と、二度の引っ越しが行われたのも福岡支店改築の特徴です。そこに関わる各部署の統括役を務めたのは、文書局総務課総務企画グループ企画役補佐の本田真一さんでした。

「まずはごく早い段階において、政策委員会室、決済機構局、発券局、業務局、システム情報局、情報サービス局、福岡支店、われわれ文書局がワーキンググループを組成し、密に情報交換しつつ検討を重ねました」

例えば市中から還流してきた銀行券の真偽、枚数、汚損度合いをチェックする自動鑑査機や、国庫金受入れの際に必要な情報を読み取るOCR装置の移設には本店の発券局や業務局も関係します。

「ほかにも各種システムなどのネットワークの敷設にはシステム情報局の職員が何度も福岡に出張して入念なチェックにあたったり、新規の備品調達に際しては文書局物品課が舵を取ったり。そして、執務室のレイアウト検討から引っ越し業者の手配、現地での業者対応など、支店関係者が本店関係部署と連携して主体的に動いてくれたことにも助けられました」

自動鑑査機やOCR装置といった精密機器の移設には専門業者が携わる上、相応の事前準備が生じます。引っ越しに至るまでには、そういった関係部署が洗い出した膨大な作業項目をもとに全体スケジュールが構築され、全ての進捗状況を確認しながら準備が進められました。

とりわけ大掛かりになった旧営業所からI期棟への引っ越しには、本店各部署や西日本の支店から、数多くの職員が応援に駆け付けました。

「引っ越し当日のスケジュールも、人員の配置を含めて綿密に組み立てました。週末という限られた時間と、互いが干渉しない動線や必要な作業工程を考えると分刻みになる動きも生じます。そのため、最大限に努めたことは多数の関係者との情報共有です。ささいなミスでも業務継続の支障につながるため重責を感じていましたが、新営業所で営業が開始された月曜の朝になってようやく、引っ越しをやり遂げたことを実感してほっとできました。自分自身が地元福岡市出身ということもあって、やりがいのある貴重な体験となりました」

旧営業所から移設された金庫扉や窓口カウンター
建物内部には、旧営業所の面影が残る。支店見学ツアーでは展示室も公開

  • ロビーにある旧営業所から移設された窓口カウンターの写真。

    移設された窓口カウンター

  • 新営業所2階ロビーの写真。

    クラシカルな趣が受け継がれた2階ロビー

  • 新営業所展示室入口の写真。

    支店見学ツアーで訪れることのできる展示室

未来の改築へとつながる数々の困難を乗り越えた経験

福岡支店改築に携わった文書局の職員がそろって重きを置いていたのは、情報共有の重要性でした。二重作さんは、こう話します。

「関わる人や検討事項が多いため、ひとつのほころびが大きく影響しかねません。全員が同じ視点できちんと動いてこそ、スケジュールが守られる。また業務継続のためには、細かいリスクまでしっかり洗い出して把握していくのも大切だと認識しました。2021年10月から着手している金沢支店営業所改築工事においても、福岡支店での経験を活かしていきたいと思っています」


2022年7月には福岡支店の見学が再開され、移設した旧店舗の金庫扉や窓口カウンターなどもご覧いただけます。旧店舗の面影をたどるとともに、前例のない改築に取り組んだ関係者にもぜひ思いをはせてください。

(肩書などは2022年4月20日時点の情報をもとに記載)