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金融研究所 40周年 時代を読み、時代をリードする日本銀行のCOE(Center of Excellence
としての役割(2022年12月23日掲載)

日本銀行創立100周年を機に創設された金融研究所は、2022年、40周年を迎えました。研究所のWebサイトに40周年記念特集ページを設け、経済ファイナンス研究課、制度基盤研究課、歴史研究課の活動の歴史を振り返っています。若田部昌澄副総裁のビデオメッセージやOB対談、貨幣博物館の企画展ポスター、アーカイブから掘り起こした貴重な写真などが掲載されており、金融研究所の過去・現在・未来が一覧できる内容となっています。記念イベントの詳細と併せて、金融研究所の各課の活動や役割をご紹介します。


「基礎的研究は、樹木の『根』に相当する」前川総裁(当時)

金融研究所創立40周年特集を掲載した金融研究所ホームページの写真

設立40周年記念特設Webページでは、ビデオメッセージ、寄稿文、歴史的に貴重な画像資料、年表などのさまざまなコンテンツを掲載中です。

金融研究所は、「金融経済の理論、制度、歴史に関する基礎的研究の充実を図り、日本銀行の政策の適切な運営に役立てる」目的で1982年に設立され、本年40周年を迎えました。設立当時の前川春雄総裁は「基礎的研究は、樹木にたとえれば根に相当し、一見地味ではあっても、非常に重要」と述べています。

この言葉が示す通り、金融研究所の研究は中長期的な視座で行われています。また、世界のほとんどの中央銀行が研究対象を経済・ファイナンスに絞っているのに対し、法制度、会計制度や情報技術、歴史なども幅広く研究しているのも特徴の一つです。

今回は、40周年を機に「その歴史と資産の棚卸しを行い、活動やあり方について次の10年を展望する」ことを主目的として、40周年企画事務局を組織し、Web企画を準備してきました。具体的には、画像で振り返る「金融研究所のあゆみ」や、年代別にまとめた研究テーマと時代背景、金融研究所の副島豊所長によるOBインタビュー対談などを展開します。

時代ごとに最先端の研究テーマで経済・ファイナンス研究を深める

3課のうち、経済、金融を真正面から研究するのは経済ファイナンス研究課です。経済分野では、この40年の間にさまざまな事象(例えば金融市場の自由化やその後の発展、バブル崩壊やリーマンショック)の背景や金融政策対応のあり方などの研究を進めてきました。ファイナンス分野では、金融工学やデータサイエンス手法など、時代ごとに中央銀行業務に必要と考えられる最先端の分野を中心に研究を行ってきました。

同課では国際コンファランスを年に一度主催しています。これは、世界の中央銀行関係者や著名な経済学者らを招いて開く大規模な会議です。特設ページでは過去27回のメインテーマを紹介しており、その変遷について同課課長の須藤直さんはこう語ります。

「数年単位で俯瞰してみると明らかな潮流変化があります。例えばリーマンショックは金融システムの安定性の重要性についてのパラダイムシフトを引き起こしました。また、低成長・低インフレ下でのゼロ金利政策や非伝統的金融政策が日本だけではなくグローバルに議論される契機となりました。今後はデジタル化が社会に及ぼす影響とビッグデータの活用が重要となりそうです」

  • 年代別にまとめた研究テーマや活動取り組みの年表からは、時代背景やそれに応じた問題意識が浮き彫りに。

    金融研究所のあゆみ(年表)を掲載したホームページの画像

金融インフラとしての制度基盤の研究

法制度、会計制度、情報技術は金融の重要なインフラです。制度基盤研究課では、この三つを研究対象としています。デジタル化による大きな社会変化が急速に進む中、これらの重要性は一段と高まっています。1986年、同課において始まった法律問題研究会では、最初にオブリゲーション・ネッティング(注1)の法律問題を取り上げました。清算機関やネッティングに関わる資金決済関連の法制度が整うはるか以前に、研究に着手していたわけです。このほか新しい金融商品の法的枠組みや時価評価・会計処理、国際的な会計基準のコンバージェンス(注2)、ガバナンス・開示制度の研究などに積極的に取り組んできました。

2005年には情報技術研究センター(CITECS)を設立し、暗号や電子マネーなど先端技術に関する研究と対外発信を強化しました。最近では、機械学習、量子コンピューター、ブロックチェーン、デジタルマネーなどを金融分野で活用していく際の課題や将来展望などを、外部の実務者や研究者とも議論しながら探っています。記念イベントにおいては、同センターの歴史を語ってもらうため、初代センター長で現在は京都大学で教壇に立つ岩下直行教授へのインタビュー記事が公開されます。インタビューに同席した同センター企画役の田村裕子さんは、「2時間にも及ぶ熱論でした」と興奮気味に振り返ります。

インタビュー時の写真

副島所長(左)による岩下直行教授(右)へのインタビューでは、金融研究所での情報技術研究の歴史と展望について熱論が繰り広げられました。

「1990年代に行った電子マネーの技術研究や、金融業務で用いられる暗号の安全性に関する研究の経緯について語っていただきました。中央銀行が中立的な立場から中長期的な視野で情報技術を研究し、その成果の発信を継続していくことは、わが国金融サービスが安全かつ安定的に発展していく上で重要であるという指摘は、自分の仕事の意義を再確認する機会になりました」

一方、法制度の分野では、金融研究所顧問で学習院大学大学院の神田秀樹教授から、40周年を祝う寄稿文を頂戴しています。そこでは、法制度研究に30年以上関わってこられたお立場から、「金融研究所には自由闊達な雰囲気があり、議論のレベルも高い。とくに法律問題研究会での研究内容は、実務的観点も踏まえつつ基礎研究と理論研究の両方が重視されており、金融研究所の活動の日本法学研究への貢献は大きい」と述べていただいています。外部の学者や弁護士を招いて議論を重ねる法律問題研究会を長く受け持ってきた企画役補佐の山本慶子さんは、「議論が広く深い」と研究会の特性を語ります。

「民・商法や金融法、憲法など多分野の専門家が一堂に会して一つのテーマについて交わす議論は、ときに熱のこもったものとなります。直面する問題の解決だけでなく、将来のあるべき姿を先生方と探る作業は、大変やりがいにあふれています」

  • (注1)同日の決済日かつ同じ通貨で行う複数の取引に基づく債権・債務を、取引の都度、新たな債権・債務に置き換える決済方法。
  • (注2)各国・地域によって異なる会計基準をより統一的なものに近づけようとする取り組み。

金融や貨幣の歴史を研究し、資料を保存・公開する

こうした経済や社会の変動を、歴史的な観点から研究するのが金融史研究グループ、アーカイブグループ、貨幣博物館グループの3グループを持つ歴史研究課です。金融史研究グループ長の畑瀬真理子さんは歴史研究の意義をこう話します。

「研究すればするほど、金融や経済の仕組みの大事なところは変わっていないと感じます。他方で、金融に関する規制の有無など、今と昔では条件が違うこともあるので、似たような事例でも同じ結果になるとは思えないこともあります。今と昔の共通点や違いを明らかにできれば、そこから何が本質かが見えてくると考えています」

歴史と向き合う同課は、金融研究所の40年を振り返るに当たり大きな役割を担いました。歴史的資料の収集・保存・公開を担当するアーカイブグループは、貴重な数多くの資料や写真を選び出しました。

「金融研究所の設立は日本銀行100周年記念事業の一環でした。設立に関わる当時の資料も今回の公表物に含まれています。写真は特別なトピックのものだけでなく、職場風景など普段の様子が分かるものも選びました。PCの大きさが今と全く異なることなどは、やはり写真で見るとインパクトが大きいですね」と、資料選定に携わった企画役補佐の大貫摩里さんは振り返ります。

日本銀行金融研究所アーカイブは1999年に金融研究所の中に設置され、2011年に公文書管理法に基づく「国立公文書館等」の指定を受けました。アーカイブには、約10万8000冊という莫大な公文書が保存されています。この目録はアーカイブホームページに掲載され、行内外から年間1000件以上の利用請求が寄せられています。また、2019年にはホームページ上で資料を公開するデジタルアーカイブを開設するなど、資料公開の推進や利用者サービスの向上に積極的に取り組んでいます。

貨幣博物館グループも、歴史資料の保存や公開に積極的に取り組んでいます。貨幣を研究する同グループでは、約3000点の資料を日本銀行本店の「貨幣博物館」で常設展示しています。同館は、1985年に開館し、2015年に展示コンセプトの見直しを含む大規模なリニューアルを行いました。2020年にオンライン上の「おうちミュージアム」を公開、今年は貨幣博物館Webサイトのリニューアルなど、サービスの枠を広げています。現在は経済を学ぶ大学生などの来館も多く見られます。

記念イベントでは、同館の過去の企画展のポスターを一覧で紹介しています。直近の展覧会としては、にちぎん140周年企画展「水辺の風景と日本銀行」を2022年秋に実施しました。

「創設時の所在地の永代橋と現在地をつなぐ日本橋川に注目し、周辺の金融機関が描かれた錦絵と日本銀行誕生までのあゆみを紹介しました。その図録は当館ホームページに掲載しています」と、主任学芸員で企画役補佐の関口かをりさんは話しています。

    特設Webページでは、アーカイブ所蔵資料から選び出した、金融研究所設立に関する資料や過去のコンファランス開催時の写真などを掲載しています。デジタルアーカイブもぜひご覧ください。

  • 対外発表資料の写真

    1982年5月 創立百周年記念事業についての対外発表資料

  • 第1回国際コンファランス会場の様子等を伝える記事の写真

    1983年6月 金融研究所主催第1回国際コンファランスの模様

  • 日銀本館の建築風景の写真

    2019年 デジタルアーカイブを開設(写真は、デジタルアーカイブ掲載の日本銀行本館の建築風景)

記念イベントのページ制作は学びを兼ねて、職員が行った

ところで、今回の記念イベントではデジタルマーケティングの学びも意識しました。Web媒体にふさわしい特集ページや動画の制作は職員が手作業で行っています。

「動画撮影ではカメラ、録音、照明などを分担し、カット割りなどを試行錯誤しながら撮りました。編集も、職員が一から学んで行いました。自分たちでどこまでできるかチャレンジする良い機会でしたし、今後プロに頼む場合でも、今回の経験をもとに発注内容を高度にしていけると思います。また、論文だけが伝達媒体ではないことを強く意識させられました」

そう話すのは、40周年企画事務局で実務的な取りまとめを担った経済ファイナンス研究課企画役の平木一浩さんです。

さらに金融研究所では、40周年に合わせて独自に運営しているWebサイト全体もリニューアルしました。担当した同課総務企画グループ企画役補佐の沖野健一さんは「多くの方に触れていただけるように、ビジュアル面などUI/UX(注3)に気を配りました。同時に、金融研究所から公表された大量の論文の中から目的の論文にスムーズに辿り着けるように検索機能も強化しています」と話しています。

  • (注3) UIは「ユーザーインターフェース」の略で、ユーザーが見たり触れたりして接する部分のことを指す。UXは「ユーザーエクスペリエンス」の略で、ユーザーがサイトや製品、サービスなどを通じて得られる体験や経験のこと。

最後に、所員から聞かれた印象的なコメントを紹介します。

「決済方法が多様化した今、『そもそもマネーってなんだろう?』と根本が問われる状況になっています。明治期の金融システム誕生秘話を取り扱った貨幣博物館の最新の展覧会(前出)や今回の記念イベントは、それらについて自分なりに改めて考える良い機会になりました」(須藤さん)

「30年前は、暗号などの情報技術の研究を中央銀行が行うことに懐疑的な見方もあったはずですが、今になると、いかに先輩たちが感度高く対応されてきたかが分かります。われわれが果たしていくべき使命を改めて認識したところです」(田村さん)

「歴史研究を行う立場としては、振り返ることの重要さ、ひいては、自分たちの日常的な業務を記録しておくことの重要さを改めて感じました。次の50周年は日本銀行の150周年でもあるので、それも意識しながら、将来を見据えて活動をしていきます」(畑瀬さん)

このように、記念イベントは、企画の狙い通り、所員たちが研究テーマや意義を見つめ直し将来を展望する機会となったようです。

(肩書などは2022年9月中旬時点の情報をもとに記載)