J-FLEC (金融経済教育推進機構) 多くの日銀職員が働く金融経済教育の最前線(2025年9月25日掲載)
国民の9割以上がお金の教育を受けた認識がない――「人生100年時代」が到来し、長い人生を経済的にどう不安なく過ごすかの関心が高まる中、このような調査結果があります。そうした中、国民の金融リテラシーの向上を図り、一人ひとりが自立的で持続可能な生活を送ることができる社会づくりに貢献することを目指して、2024年4月、認可法人「金融経済教育推進機構」が設立されました。英語名称の頭文字から「J-FLEC」の愛称を持つ同法人には、政府(金融庁)、全国銀行協会(全銀協)、日本証券業協会(日証協)などと共に、日銀も出資し、多くの職員が出向しています。立ち上げに関わった職員たちの思いや、業務内容をご紹介します。
金融経済教育を広めるために一元化
金融経済教育(お金に関する知識や判断力を高めるための教育)はこれまでも政府や、日銀に事務局を置く金融広報中央委員会のほか、全銀協、日証協などの業界団体がそれぞれ活動していましたが、一方で、国民に必ずしも十分に行き届いているとはいえない状況でした。金融広報中央委員会が2022年に行った金融リテラシー調査では、金融経済教育を受けたと回答した人の割合は7.1%にとどまっています。その理由として指摘されることに、▼金融機関などが教育を提供する場合、金融商品の販売につながる可能性があると思われること、▼各団体の取り組みに重複する部分があるなど必ずしも効率的ではなかったこと──などがありました。
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日銀本店本館が面する「江戸桜通り」を歩いていくと、J-FLECが入るビルにたどり着きます。
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新しいエントランス。無料相談に訪れる個人のお客さまのために、開放的なスペースとしています。
そうした課題を解決する手段として、政府は中立的な立場で官民連携により効果的・効率的に活動する組織の設立を方針として示し、これに、日銀ほか、全銀協、日証協などが応じました。J-FLECは、昨年8月に日銀本店からも程近い商業施設「コレド室町2」が併設されたオフィスビルの9階で本格的に事業を開始しました。「立上げ式」には、当時の岸田文雄首相が出席し、「J-FLECを中心として、官民一体となって、幅広い世代に対して、適切な金融経済教育を提供していくことが重要」などの訓示を行いました。
約70年にわたり日銀が担った役割を移管
J-FLECの設立に伴い、日銀は、約70年にわたり事務局を担ってきた金融広報中央委員会の機能をJ-FLECに移管しました。
移管に当たっては、多くの担当職員がJ-FLECに出向することで、今年で58回目となる「おかねの作文コンクール」や毎年実施している「家計の金融行動に関する世論調査」などの事業を円滑に継続することができました。日銀で移管に関する事務を統括し、自身もJ-FLECに出向した経営戦略部の岩渕仁志さんは「金融広報中央委員会が行ってきた事業の譲渡手続や日銀のメンバーの出向の準備、短期間での引き継ぎなど対応すべき課題が多く、日銀の経営企画や経理、人事などさまざまな部署と相談しながら進めました。国全体の利益のためにと日銀が一丸となって協力し、無事に間に合わせることができました」と振り返ります。
他方、J-FLEC設立の1年前に、金融庁に発足した「金融経済教育推進機構設立準備室」にも日銀職員が出向しました。さまざまな団体から集まったメンバーが制度企画・システム構築などさまざまな検討を分担する中で講師派遣の仕組み作りに携わったのが、普及推進部の植木紀元さんです。関係団体の意見を聞きながら、団体ごとに異なる講師の要件や報酬などを統一し、制度作りを進めました。
「ゼロから組織を立ち上げ、制度を作るという貴重な体験をさせてもらいました。ハードな仕事をやり遂げた18人の準備室メンバーは一生の仲間です。ほとんどがJ-FLECに配属されたことで、事業のスムーズな立ち上げに貢献できたと思います」
と、植木さんは話します。
このようにして、複数の団体から職員が集まったJ-FLECには、全体の約3分の1に当たる職員が日銀から出向しています。出身母体によって、経験や知識は異なりますが、日銀で培った堅実で安定した事務処理能力や外部との関係構築力は強みとなったようです。職員からは「公文書の管理や入札の手続きについて、よくアドバイスを求められます」「地方との人脈を活かして、相談しやすい雰囲気が作れました」など、日銀での経験が役立っているという感想が聞かれました。
地方のネットワークも強固に
昨年10月に開催した関東ブロック協議会では、J-FLECの役員や各都県の関係団体の総勢約80名が参加し、意見交換を行いました。
J-FLECができたことで、地方との連携も強化されました。
もともと日銀の支店・事務所や県庁が事務局を担っている全国47都道府県の金融広報委員会は、金融広報中央委員会との間で情報共有などを図ってきましたが、J-FLECが立ち上がったことで、各地銀行協会、日証協地区協会、財務局・財務事務所などを含めた連携をより濃密に行えるようになりました。さらに、各地域内での横のつながりを強めるために、全国を八つのブロックに分けた「ブロック協議会」を新たに発足させました。
「中央が一つになったことで、地方でのネットワークも作りやすくなりました。ブロック協議会で好事例を共有することで、各地でよい取り組みが広がっていることを実感しています」
そう話すのは、地方との連携を担当する教育企画部の元木寛之さんです。さまざまな団体の協力によって、全国隅々に金融経済教育を提供しやすくなると説明します。
全国の隅々まで均質の「教育」を届ける
全国の企業や学校等に対して、金融経済に関する出張授業を無料で実施しています(オンラインでの提供も可能です)。
全国の学校、企業、公民館などさまざまな先に講師を派遣し、無料の出張授業を実施しています。それに当たっては小学生や高校生、若手・中堅社会人など年齢層別に統一した講義資料を10種類作成し、研修を受けた講師をJ-FLECから派遣することで、全国一律に一定の質を確保した教育を提供できるようにしました。
その上で、今後の課題となるのが、できるだけ多くの国民に金融経済教育を提供していくことです。具体的に、J-FLECでは、講師派遣事業とイベント・セミナー事業を合算して「年間実施回数1万回、年間受講者75万人」という目標値を設定しています。これまでの実績の倍以上となる意欲的な目標です。
これを達成するには、ニーズにどう働きかけるかがポイントとなりそうです。「待ちの姿勢ではなく、こちらから企画を提案していきたい」と話すのは、講師派遣を担当する普及推進部の早川裕子さんです。
「講師派遣の時期は集中しがちなので、少ない時期に増やせれば理想的です。例えば、企業からの申し込みの少ない年度末に就職前の学生への生活設計講座などができればと考えています。個々の職員の企画提案を歓迎してくれる雰囲気がJ-FLECにはあるので、職員のモチベーションは高いです」
認知度アップという点では、イベントやセミナーも有効なツールです。金融広報中央委員会や日証協などが持っていたコンテンツをJ-FLECが受け継ぎ、対象に合わせて、それらを活用しています。
さらに、これまで手薄だった未就学児童向けに、オリジナルの絵本『かえたかえた』(近藤睦・作)を作成し、東京都内のイベントなどで配布しました。
「お子さんが大事にしている物をご持参の上、その写真を撮らせてもらうとともになぜ大事なのかを話していただき、そのお礼として絵本を差し上げました。いわば物々交換です。キャッシュレス決済が普及しお金の動きが見えにくくなる中、『お金って何だろう』という原点を伝える機会になったと思います。こうした新しい企画を自由に行える環境なので、働いていて楽しいです」
そう話すのは、イベントや作文コンクールを担当する教育企画部の木崎恵子さんです。
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「思い出」を絵本と物々交換する期間限定イベント「かいがら書店」を開催しました。
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「おかねのかち」を考える絵本『かえた かえた』。
「お金の知識をあなたの力に」
J-FLECの設立によって新規に始まった事業に、個別相談事業「はじめてのマネープラン」があります。実際に自分の家計などについて認定アドバイザーに相談できるもので、電話相談や対面またはオンラインでの無料相談のほか、有料相談の割引クーポン発行を用意しています。割引クーポンの利用者に対するアンケート調査では、5段階評価で平均4.92という高い満足度を獲得しました。
「利用者を増やす上で広報面の課題はありますが、事業自体の手応えは感じています。中立的な立場で相談に乗ってくれる機関があると知っていただくことで、ちゅうちょしていた方に利用してもらえることを期待しています」
と、担当する植木さんは話します。
このようにさまざまな金融経済教育を展開するJ-FLECの事業に関し、最後に、岩渕さんはこう話してくれました。
「J-FLECのキャッチコピーは『お金の知識をあなたの力に』。その一歩を踏み出しやすいように、分かりやすいホームページやパンフレットを用意しています。ぜひ団体向けの講師派遣や個人向けの無料体験などをご利用いただければと思います」
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(所属は2025年6月上旬時点の情報をもとに記載)
