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日本銀行国際局「アジア金融協力センター」の仕事 「国際金融協力」を深化させる(2013年3月25日掲載)

金融経済のグローバル化の進展とともに、「国際金融システムの安定」は日本経済の健全な発展を図るうえでますます重要になってきました。日本銀行は、その安定に向けて、金融システム自体を強固なものにするための国際的な取り組みにも協力しています。特に、アジアにおける取り組みでは、2005年に国際局に「アジア金融協力センター」を新しく設置して、アジア諸国との金融面での協力を深めています。
日銀は、アジア金融協力センターを通じ、国際金融システム安定のためにどのような役割を果たしているのでしょうか。今回は、アジア域内での金融協力を担当するアジア金融協力センターに取材し、さらに詳しく話を聞きました。

アジアの11中銀・通貨当局による「EMEAP(エミアップ)」の国際会議

「世界経済におけるアジア地域の重要性が増すなかで、中央銀行としての日銀の立場から、アジア各国との協力関係を発展させたいですね。そして、アジア域内の『金融協力』を一段と深めていきたいと考えています」

こう話すのは、日銀国際局「アジア金融協力センター」でセンター長を務める竹内淳さん。「セムカ」(Center for Monetary Cooperation in Asia = CeMCoA)と英語の略称で呼ばれることもある同センターは、2005年11月に国際局内に新しく設置された部署です。

日銀は、日本の中央銀行として、「物価の安定」と「金融システムの安定」という目的を達成するために、いろいろな役割を果たしています。こう言うと、日銀には、海外との仕事や国際的な業務が少ないように思えるかもしれません。でも実際は日頃から国際金融市場や世界経済の動向などをモニタリングしたり、G7やG20などの国際会議の機会をとらえて各国の政府や中央銀行と情報・意見交換を行ったりしています。

このような日銀の国際的な業務のなかにCeMCoA(セムカ)の仕事も含まれることになります。これからの世界経済を牽引すると思われるアジアの新興国を相手に、中央銀行の立場だからこそできる国際協調や国際金融協力を進めたり、調査・研究をしたりしているのです。日銀は、CeMCoA(セムカ)の仕事を通じて、アジアの中央銀行間の協力関係において中心的役割を果たしてきています。

では、CeMCoA(セムカ)の仕事内容を具体的に見ていきましょう。

「われわれの業務の一つは、アジアの国際機関や国際会議において、企画や連絡、調整を行うことです」と竹内さんは説明します。

「アジア域内の金融協力の推進は、特に『EMEAP(エミアップ)』(= Executives' Meeting of East Asia and Pacific Central Banks = 東アジア・オセアニア中央銀行役員会議)での活動が中心になっています。これは、東アジア・オセアニア地域の中央銀行・通貨当局で構成される国際会議で、日銀の提唱により1991年に発足しました。そこでは、各国の金融政策の運営やグローバルな金融規制改革の動きに関して、自由に情報や意見を交換しています」

3層構造となっているEMEAP(エミアップ)の会合の組織図。総裁会合の下に通貨金融安定委員会と総裁代理者会合があり、さらにその下に4つのワーキンググループ(決済システムWG、金融市場WG、銀行監督WG、IT局長会議)で構成されている。

EMEAP(エミアップ)のメンバーは、東アジア・オセアニア地域の11の中央銀行・通貨当局(日銀、オーストラリア準備銀行、中国人民銀行、香港金融管理局、インドネシア銀行、韓国銀行、マレーシア中央銀行、ニュージーランド準備銀行、フィリピン中央銀行、シンガポール通貨庁、タイ中央銀行)です。このような金融協力といえば、中央銀行にさまざまな議論の場を提供しているBIS(国際決済銀行)を思い浮かべるかもしれません。しかしアジア地域諸国がBISの活動に参加するようになったのは1990年代後半以降でした。1991年に発足して活動をはじめたEMEAP(エミアップ)は、アジアの金融協力の枠組みという意味ではBISよりも先輩ということになります。

EMEAP(エミアップ)は発足当初、メンバーである中央銀行の役員クラスが年2回集まり、議論を交わしていました。それが現在では、(1)総裁会合、(2)総裁代理者会合・通貨金融安定委員会、(3)ワーキンググループという三層の構造に組織を拡充し、それぞれの会合が定期的に開催されるようになりました。CeMCoA(セムカ)は、総裁会合、総裁代理者会合・通貨金融安定委員会のほか、現在では、アジアの金融市場の動向や金融政策などについて意見や情報の交換を行う「金融市場ワーキンググループ」に参画しています。そこでは各国の金融の現場に携わる実務者どうしで議論が行われて、ネットワークも構築されてきました。その他のワーキンググループも同様で、それだけアジア域内の金融面における協力関係が深まりつつあると言えるでしょう。

アジア通貨危機の教訓を生かし自国通貨建て債券市場を育成する

EMEAP(エミアップ)会合の部屋の様子

EMEAP(エミアップ)は昨年7月、北海道で「総裁会合」を開催しました。原則として年1度開催される同会合に、メンバーの中央銀行・通貨当局の総裁をはじめ、各国から数多くの中央銀行関係者が集まりました。議長は日銀の白川方明総裁が務め、会合全体の企画・調整、運営などをCeMCoA(セムカ)が担当しました。CeMCoA(セムカ)の寺田泰さん(主査)は、こう振り返ります。

「議長国としての役割は、当日の議論の土台となるバックグラウンド・ペーパーの作成や当日の議事進行はもちろん、会場設営、宿泊先の手配まで実に多岐にわたります。参加者が胸襟を開いて率直な議論を行うためには、雰囲気作りが欠かせません。例えば、食事の手配では、宗教的に禁止されているメニューを出したりしないように気を使います。また、せっかくの機会ですので、日本の文化や風景に親しんでもらうよう、そして日本のおもてなしの素晴らしさを感じて頂けるよう、様々な工夫を凝らしています」

総裁会合の開催は、メンバーの中央銀行・通貨当局が交代で担当しますが、もともとEMEAP(エミアップ)を提唱し、発足の当初より中心的な立場にあった日銀には、さまざまな会合の準備・運営のノウハウが蓄積されています。寺田さんは「日銀がこれまでの経験から得たノウハウを、EMEAP(エミアップ)メンバー中銀からの協力を得て、英語の文書に取りまとめました。また、メンバー間で会議資料などを共有するための、インターネットを利用した情報交換ネットワークの整備・運営を行っています」と言います。

EMEAP(エミアップ)では、こうした会合・委員会・ワーキンググループあるいはセミナーなどの開催に加えて、アジアの債券市場の育成を目的とした「アジア・ボンド・ファンド」(Asian Bond Fund = ABF)と呼ばれるプロジェクトに2003年から取り組んでいます。CeMCoA(セムカ)はアジアの金融経済の構造的な問題に関する調査・分析、共同研究なども進めながら、ABFの推進に力を入れてきました。

竹内さんは「ABFプロジェクトが開始された背景には、1997年のアジア通貨危機の教訓があります」と指摘します。

「危機が深刻化した原因の一つは、アジアの企業が長期の返済計画で設備投資を行う際、外貨建ての短期資金に頼っていたことです。借金は外貨建てですから、自国の通貨価値が急落すれば、返済の負担が増大してしまいます。また、多くのアジア企業が資金調達を銀行貸出に依存していたため、銀行部門も大きなダメージを被り、金融の混乱に拍車がかかりました。もし、アジア各国において自国通貨での債券市場が発展すれば、企業は銀行を通じた間接金融だけではなく、直接金融でも『自国通貨建ての長期資金』を調達しやすくなります。そうした問題意識と教訓を生かして、アジア通貨危機以降、ABFに取り組んでいます」

債券には国債や社債がありますが、ABFでは、まずアジアの国債市場を発展させ、そこから社債市場の育成につなげようとしています。2003年6月に創設されたABF1の投資対象は、アジア・エマージング8カ国(EMEAP(エミアップ)メンバーのうち日本、オーストラリア、ニュージーランドを除く)の米ドル建て国債と政府系機関債でした。さらに2004年12月からは、現地通貨建ての同債券を投資対象とするABF2が創設され、ABF1では参加者はEMEAP(エミアップ)メンバーの中央銀行のみに限定されていたのに対し、ABF2は、その最終段階において一般の投資家に開放されています。

アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)の取り組みに関する説明。本文中で触れた「ABF」のプロジェクトは「債券への投資家の立場」(需要サイド)からの取り組みですが、一方では「債券の発行体の立場」(供給サイド)からの取り組みも進められています。ASEAN+3の財務省および中央銀行が進める「アジア債券市場育成イニシアティブ(Asian Bond Markets Initiative = ABMI)です。ABMIは2003年のASEAN+3財務大臣会議で合意されたプロジェクトで、ABFと相互補完的な関係にあり、証券化、信用保証、格付機関、為替・資本規制、証券決済といった各分野における規制・インフラの改善に取り組んでいます。

竹内さんはこう話します。

「アジアには豊富な貯蓄を持つ人(投資家)が多い半面、そのお金の多くは欧米に投資されて、金融センターを経由してアジアに還流していると指摘されてきました。それ自体が問題というわけではありませんが、債券市場の発展を通じて、アジアの貯蓄をアジア域内で有効に活用し、投資に結びつけることができれば、同域内の金融仲介機能だけでなく金融経済そのものの強化・安定につながるはずです」

実際、アジアの現地通貨建ての債券市場は、国債のみならず社債も含めて発行残高(債券の総額)が大きく伸びてきました。世界全体で同市場が占めるシェアも1996年末の2.1%から、2011年末では8.4%にまで増えています。EMEAP(エミアップ)の諸国はアジア通貨危機を経て、リーマンショックをきっかけにした2008年以降の金融危機も経験しましたが、後者の金融危機の影響は比較的抑制されています。ABFをはじめとした、EMEAP(エミアップ)メンバーの中央銀行・通貨当局間の協力強化が奏功した面もあるはずです。

「チェンマイ・イニシアティブ」に実務を担う立場から関与する

チェンマイ・イニシアティブのマルチ化を説明したイメージ図。従来のチェンマイ・イニシアティブは、複数の2国間契約(8カ国間、16本の契約)。発効時には、2国間で各国の外貨準備を融通。日中韓及びASEAN5カ国が参加。マルチ化によって、1本の多国間契約となった。発効時には、2国間で各国の外貨準備を融通。ASEAN+3の13カ国が参加。

2000年には、ASEAN(東南アジア諸国連合)に加盟する5カ国(シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、インドネシア)と日本・中国・韓国のあいだで、通貨暴落の緊急事態の際に、関係国が通貨をスワップ(交換)する仕組みができました。この通貨交換協定は、「チェンマイ・イニシアティブ」と呼ばれ、短期的に外貨が不足した国が、他国から自国通貨を担保に米ドルの資金を借りることを可能にするものです。2009年には、各国が保有する外貨準備を、危機の際に「二国間」ではなく「多国間」で融通し合うことを可能とする「マルチ化」が合意されました。また、このタイミングでASEAN新規加盟5カ国(ブルネイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)も参加することになりました。各国の貢献額の総額も、900億ドルから1200億ドルに引き上げられて、一段と効果的な支援ができる態勢になっています。

日銀は財務省と連携しつつ、実務を担う立場から、チェンマイ・イニシアティブの取り組みにも積極的にかかわっています。そのなかでCeMCoA(セムカ)の丸山貴代さんは「現在、ASEANおよび日本・中国・韓国(ASEAN+3)における『マルチ化』強化についての合意(2012年5月)を反映するため、現行の契約および実務ガイドラインの改正案について、内容の調整を進めているところです」と話します。

「通貨交換の取引そのものは中央銀行間で行うことになります。そのためには、まず契約書をきちんとしなければいけないので、盛り込む文言などをメンバーの中央銀行の担当者と詰める作業を行っています。スワップ関連では、CeMCoA(セムカ)は、通貨交換時に利用する中銀口座の開設などについて、様々なノウハウを有しているため、ASEANの中央銀行とそのノウハウを共有する作業を行っています」

ASEANに限らず、新興国の場合、中央銀行の運営などの知見の蓄積が不足していることがあります。そんなとき日銀では、CeMCoA(セムカ)を中心に企画や調整を行い、人材を派遣したり、海外の中央銀行職員らを招いて研修したりしています。こういった海外技術支援の取り組みとして、例えば最近では、インドネシアやミャンマーの中央銀行などから多数の研修員を受け入れています。

このようにアジア各国の金融の世界では協力が進んでいます。「アジア域内で、国と国、人と人の相互理解と尊重にもとづく金融協力が進むことは、国際金融システムの安定につながり、域内全体に恩恵をもたらします。日本にとっても、こうした取り組みは、アジアの発展をうまく取り込んで自らの成長基盤の向上につなげていく貴重なチャンスを提供するものといえます。これからも金融協力を通じてアジアそして日本の発展に貢献したい」と竹内さんは話しています。