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調査統計局「地域経済調査課」の仕事 地域経済の「現場の声」を収集分析する「さくらレポート」(2015年6月25日掲載)

日本銀行が適切な金融政策を遂行する上では、経済・物価情勢の実態把握や先行きについて的確な見通しを持つことが重要となります。そこで、日銀は、わが国全体で見た企業活動や家計の消費動向等、様々なマクロ統計データを分析する他、全国各地域の企業に足を運んで直接お話を伺う実地調査にも積極的に取り組んでいます。日銀の全国の本支店や事務所の担当者等が「現場の声」を収集し、地域経済の動向を分析しているのです。
きめ細かな調査・分析の成果の一部は「さくらレポート」として定期刊行されています。発表のたびにメディアの注目を浴びており、また、本広報誌「にちぎん」でも春号と秋号で、1、7月のレポートを抜粋して掲載しています。今回は、「さくらレポート」作成の裏側と、その作成を担っている「地域経済調査課」の仕事を紹介します。

メディアも大きく取り上げる日銀の本支店による「ミクロ調査」

2015年4月に公表された「さくらレポート」

「景気回復 じわり地方波及」「景気、三地域『上向き』」

平成27年4月14日付の朝刊各紙には、このような内容の見出しが躍り、地方の景気に関する記事が各紙で大きく扱われました。こうした記事で紹介されているのが、日本銀行が年に4回(1、4、7、10月)公表している「地域経済報告」、通称「さくらレポート」です。

日銀では、総裁をはじめ全役員、全国32の支店長等が集まり、各地域の経済動向について報告・討議をする「支店長会議」が年に4回(1、4、7、10月)開催されます。「さくらレポート」は、その会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約した資料で、一般にも公表されます。

A4判で約60ページのレポートの表紙には、FRBの「Beige Book」を参考に「日本らしく和みやすい」淡いピンク色を採用しています。「さくらレポート」の呼称のゆえんです。内容は、その正式名称の通り、地域経済に関連するものです。そんなレポートの発表を目当てに記者たちは日銀本店の広報ルームに詰めかけ、発表当日に速報したり、翌日に記事として取り上げたりします。では、「さくらレポート」がメディアに注目されるのは、なぜでしょうか。レポートの編集・作成を担当する調査統計局地域経済調査課の長江敬課長はこう話します。

「全国の日銀の32支店、12の国内事務所、それに本店の調査統計局の調査担当者が各地の企業を訪問し、景気の動向等について直接お話を伺っています。それを集約したのが『さくらレポート』です。メディアの方々には、地域経済の現場の声を収集分析し、肌感覚で景気の動向を伝えるところに注目いただいているのでしょう」

日銀が民間企業を対象に行う調査・統計といえば、日本のみならず「TANKAN」の名で世界中に知られている「全国企業短期経済観測調査(短観)」があります。年に4回発表される「短観」は、企業が調査表に記述して回答するアンケート方式で行われるものです。

一方、「さくらレポート」は、「各地域の様々な統計に加え、企業の経営者等と日銀の調査担当者が面談して、景況感、需要動向、事業計画、先行きに対する見方に至るまで、直接聞き取った内容をもとに作成します」と長江さんは説明します。このように、「さくらレポート」の作成では、個別企業の動向を把握する「ミクロ調査」が重要な役割を担っているのです。

「企業への訪問調査で得られた情報はレポートに織り込まれる他、適宜、日銀内にも共有され、政策運営における材料の一つとして利用されています。調査対象の企業にとっては、面談に協力しても直接的なメリットはなく、むしろ負担感があると思います。しかし、企業の方々には、訪問調査に協力することが、日銀の適切な政策運営につながり、ひいては日本の経済発展にも結び付くと理解していただいているのではないかと考えています」(長江さん)

景気の方向性を分かりやすく表現し「地域の視点」で最新の動きも探る

各地域の景気動向が一目でわかる一覧表

「さくらレポート」の中身を見ると、まず、「地域から見た景気情勢」を総括し、その上で全国の9地域(北海道、東北、関東甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州・沖縄)からの報告を一覧表にまとめています。同課の石川誠嗣企画役によると、「この表が毎回注目を集め、報道されることが多い」のだそうです。

「日銀の本支店では毎月、企業への訪問調査を行っていますが、それをもとに全国9地域の取りまとめ店(本店の他、札幌、仙台、金沢、名古屋、大阪、広島、高松、福岡支店)が、地域内の各支店・事務所からの情報や統計をもとに意見交換した上で、前回レポートから3カ月間の景気情勢の変化について判断します。それを、レポートの一覧表に簡潔な表現で掲載するのです」(石川さん)

冒頭で触れた新聞各紙もこの景気判断を大きく取り上げていましたが、例えば東海地方の景気は前回(2015年1月)の「さくらレポート」では「基調としては回復を続けており、消費税率の引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響も、全体として和らいでいる」と表現されていました。それが今回(15年4月)のレポートでは「着実に回復を続けている」に変わりました。同様に、近畿と北陸でも「回復している」との表現になっています。このように三地域から景気の改善度合いに関する判断を引き上げた報告があったため、新聞各紙はそこを強調する見出しとともに報じたのです。

また一覧表では、各地域の景気の方向性の変化を三種類の矢印で示しています。3カ月前の前回判断と比較し、景気が改善している場合は上向き、変化なしは横向き、悪化している場合には下向きの矢印で表現され、一目で景気の動向が分かるように工夫されているのです。さらに、一覧表に続くページでは、各地域別の公共投資や設備投資、個人消費等に関して景況判断が述べられており、矢印の背景が十分に理解できるようになっています。ただ、矢印は、景気が前回よりも「良くなっている」とか、「悪くなっている」といった変化の方向を示しているのであって、景気が「良い」とか、景気が「悪い」といった状態を示しているのではないことには注意が必要です。

この他、「さくらレポート」には各地域の具体的な動きや事例を取りまとめた「地域の視点」と題するページも設けられています。地域経済調査課が支店と毎回調整の上選定したテーマに関して、全国の本支店で一斉に調査を行います。例えば、15年4月の「さくらレポート」では「各地域における製造業の生産動向・生産体制」を取り上げ、内外需要の動向やそのもとでの生産動向、為替円安が定着する中での生産・調達体制の見直しの動き等をまとめています。このテーマは、先行きの景気動向をみる上で、15年初からみられた生産の回復の持続性や、円安の定着を受けて最近みられつつある生産拠点の国内回帰の広がり等を確認することが重要であるとの判断から設定されました。石川さんは「その時々の経済金融情勢でタイムリーなトピックス、地域の特徴が浮き彫りとなるテーマを取り上げるようにしています」と言います。

「テーマが決まると、必要な情報が得られそうな企業等を選定し、本支店の調査担当者が訪問して調査を行います。例えば、本店管下の一都三県(埼玉、千葉、栃木)では多数のコンタクト先がありますが、今回はその中から80程度の企業を選び、訪問調査をお願いしました。各支店でも同様に企業を選定の上調査し、その成果を地域経済調査課でまとめることになります」(石川さん)

ちなみに、「さくらレポート」発表に当たっては、直近の状況変化を踏まえつつ、各地域の支店と本店の間で内容の確認や修正のやりとりを直前まで繰り返すそうです。このように、最新の経済情勢を反映させて、「さくらレポート」は世に出されているのです。

「地域の視点」で過去に取り上げた特徴的なテーマ抜粋

  • ● 原材料価格等上昇の影響とその対応 ─水産業のケース─(2008年10月)
  • ● インバウンド観光の現状と課題(2009年04月)
  • ● 環境・省エネビジネスへの取り組みと関連企業の対応(2009年10月)
  • ● 根強い価格下落圧力の中での企業戦略(2010年1月)
  • ● 成長が期待されている産業の動向と今後の課題(2011年1月)
  • ● 東日本大震災後の地域経済における特徴的な動き(2011年7月)
  • ● 成長が期待される分野での事業者の取り組み(2013年4月)
  • ● 最近の雇用・賃金動向 ─人手不足感が強まるもとでの企業の対応─(2014年1月)
  • ● 消費税率引き上げ後の家計の支出動向と企業の対応(2014年7月)
  • ● 観光振興に向けた取り組みと地域経済への影響(2014年10月)
  • ● 中小企業の現状と活力ある企業の特徴(2015年1月)

経済情勢を的確に把握するためには地域間の違いも調査しなければいけない

「さくらレポート」の「創刊」は2005年4月。それ以前も日銀は各地の景気動向を「全国11支店金融経済概況」で公表していました。「さくらレポート」は、その「金融経済概況」の地域区分等を見直し、本店管下の一都三県を調査の対象に加えたり、先述の「地域の視点」の企画を始めたり、内容を大幅に拡充したのです。

その理由について、前出の石川さんはこう言います。

「日本経済の構造変化が進む中で、日銀が経済・物価情勢を的確に把握するためには、地域経済の動向をよりきめ細かく把握することが重要と考えたからです。近年の景気動向は、地域によって違いが生じる場合が少なくありません。景気が回復している地域がある一方で、まだこれからという地域がある局面も見受けられます。地域間の景気情勢の違いは各地域の経済構造の相違に基づくものであり、それを踏まえて日銀は経済実態を把握し、政策運営に活用していくことが求められています」

「さくらレポート」の創刊当時から長らく、編集・作成は、調査統計局に置かれた「地域経済担当」という一つのグループで行われていました。それが12年7月、新たに「地域経済調査課」として独立、新しい部署として設置されたことからも、日銀が地域の経済情勢等を以前にも増して重視するようになったことが伺えます。

創刊から10年、地方創生が謳われる中、「さくらレポート」は年々、注目度が高まっています。

地道な広報・広聴活動を進めて地域と深い信頼関係を築いていく

商工会議所との意見交換会の様子

現在、地域経済調査課では一都三県ごとに調査主幹・経済総括という役職を置き、各地域の企業等に訪問調査する他、商工会議所などとの意見交換会も積極的に開催しています。同課の植林茂調査主幹・千葉県経済総括は「『さくらレポート』も含め、我々の仕事は地域の企業等多くの方々の理解と協力で成り立つもの」と強調します。

「地域の経済団体等との意見交換会では、まず私から日銀の政策や全国の経済情勢等について説明させていただきます。その後、出席者から質問や日銀への要望等を受けています。こうした地道な広報・広聴活動が、適切な政策運営に加え、日銀の政策をより深く理解していただくこと、地域と日銀との間に信頼関係を築くことに役立つはずです。ちなみに、私は、千葉県の新聞に毎月、コラムを寄稿する活動もしています」(植林さん)

地域の企業への訪問調査も、企業と日銀との間に信頼関係がなければ、良い成果は上がりません。そうした中で、大事なことの一つが、企業が安心して調査に応じられるように情報管理を徹底することです。

「調査対象の企業や内容等は、もちろん全て非公表です。また、お話を伺う際にメモを取ったノートは、『さくらレポート』作成後、必ずシュレッダーしています」(植林さん)

地域の企業等と信頼関係を維持するには、日銀の調査担当者が真摯な姿勢で調査に臨むとともに、必要な資質を備えていることも大事になります。本店管下の一都三県の景気動向調査は、同課の調査主幹等ベテラン行員が担当しますが、他の地域の支店では、そうしたベテランや各支店長に加え、日銀に入行して数年の若手も企業を訪問しています。その活躍に期待するところは大きく、景気分析に関する高度な知識や、訪問調査の準備から報告に至るスキル等を身に付ける必要があります。そこで、地域経済調査課では支店の若手調査担当者を対象に研修を実施することにより、そうした知識・スキルの習得を支援しています。

支店の若手調査担当者を対象にした産業調査研修の様子

研修を企画・運営する同課の土田浩調査主幹・埼玉県経済総括はこう話します。

「企業への調査において情報管理はマニュアルがあり厳格に行われています。一方、調査手法についてはマニュアルがあるわけではなく、各自が主体的に創意工夫して習得していく必要があります。大事なことは、各調査担当者が日銀の金融政策を理解した上で、その政策が地域の企業経営にどのように波及しているかについて、現場に足を運んでつかんでくることです。そして、経済情勢が変動する中で、統計では拾いきれない動きや、先々の変化を予感させる動きを見つけ出すこと、さらに、集めてきた情報を分析し、論理的に組み立てた明解なリポートにまとめることが重要です。これらができないと、日銀の金融政策の判断材料の一つに活用できるような成果を上げることはできません」

研修は年2回に分けて行われ、支店から本店に集まった若手調査担当者たちが2日にわたり多様なプログラムに取り組みます。訪問調査の手法やリポートのまとめ方等、ケーススタディーを用いた体験型の研修も行われます。若手担当者は皆、支店で産業調査を相応の期間、経験した上で研修に臨みます。中には、調査を行う上での様々な壁に直面している者もいます。そうした担当者同士が意見交換をすることもスキル上達には効果があるでしょう。

この他、「さくらレポート」の巻末に掲載しているような金融・経済統計データを作成する担当者を対象とした研修も、昨年から年1回、実施しています。

地域経済の活性化は、今後の日本経済全体にとって重要な課題とされています。そうした中で、日銀の本支店や事務所の担当者等が収集する「現場の声」や、様々なデータの分析に基づき、地域経済動向を的確に把握し、情報を発信していく重要性は一段と増しているのです。