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日本銀行金融研究所 経済ファイナンス研究課の仕事 各国の中央銀行関係者や世界トップクラスの経済学者が集う「国際コンファランス」の運営を担う (2019年6月25日掲載)

2019年5月、日本銀行本店において「国際コンファランス」が開催され、中央銀行関係者や著名経済学者による講演やパネルディスカッション、論文の発表などが行われました。この国際コンファランスは、日本銀行が定期的に主催するコンファランスのなかで最も規模が大きく、また、36年にわたる最も長い歴史を持ち、金融、経済に関し多面的な角度から議論を行う場として定着しています。

このコンファランスを支えるのは、「金融研究所経済ファイナンス研究課」。約一年間かけて作り上げていく国際コンファランスを中心に、同課の業務を紹介します。


36年にわたる歴史と高い評価を未来へとつないでいくために

当日の会場の様子(撮影:野瀬勝一)

1983年から行われている国際コンファランスは、主要中央銀行が行う学術的なコンファランスのなかでも、特に長い歴史を有しています。25回目となる今年の国際コンファランスのテーマは、「低インフレ・低金利環境のもとでの中央銀行デザイン」。国内外から約100名が参加し、黒田東彦総裁による開会挨拶に続き、ジャン=クロード・トリシェ前欧州中央銀行総裁による前川講演(後述)、論文報告、金融研究所海外顧問による基調講演、政策パネル討論が行われ、2日間にわたり活発な議論が展開されました。

コンファランスのコンテンツ(議論の内容)の検討、およびロジスティクス(後方支援業務)面での準備や運営を担うのは、金融研究所の経済ファイナンス研究課に所属する約30名のスタッフです。課長の渡辺真吾さんは、「課の柱となる業務は、金融・経済の基本的なメカニズムを理解するための研究。学界や海外中央銀行など外部との交流促進も重要な使命です。われわれが担う最大のイベントである国際コンファランスは、そうした当課の仕事の結晶と言えます」と話します。

コンファランスの要となるのは、1982年の金融研究所設立時の日本銀行総裁である故前川春雄氏の名を冠した「前川講演」です。前川講演について渡辺さんはこう言います。

「まずはテーマを選定し、それに沿って講演者の候補を絞っていきます。最終的には、中央銀行や国際機関での経験および学識等を踏まえつつ、大局的な見地からお話しいただける方に依頼しています。候補者はお忙しい方ばかりなので、その調整も容易ではありません」

今年の前川講演者であるトリシェ前欧州中央銀行総裁と黒田総裁(撮影:野瀬勝一)

前川講演のほか、政策パネル討論、論文報告についても、人選は入念に行われます。

「大事なのは、どのような方に来ていただければ、より有意義なコンファランスになるのかということです。中央銀行は、最新の金融経済理論をいかに政策・業務に生かしていくかが問われる組織。コンファランスでの議論は、理論的・技術的に優れているだけでなく、広い視野や実務家の視点が求められることから、人選は多様な観点から行います。また、欧米からアジア各国まで、参加者のエリアのバランスにも気を使っています」

アジアにおける金融・経済に関する有力コンファランスとして広く知られることから注目度も高いとのこと。コンファランスを、毎回充実した内容にすることによりその評判が浸透し、世界各国から一流の識者が多く参加するようになると、渡辺さんは話します。

「1983年の第1回では、当時のマクロ経済理論の二大潮流であるケインジアンとマネタリズムそれぞれのいわゆるノーベル経済学賞受賞者を招待しています(注)。当時携わった方が国際コンファランスにかけた並々ならぬ情熱を感じます。今後もそうした方々に参加していただけるようにしていきたい。一回一回がコンファランスの歴史を作っていきます。私たちは単に成功させることだけを考えるのではなく、このコンファランスを未来にどうつないでいくかということを強く意識しています」

  • ケインジアンは、英国経済学者ジョン・メイナード・ケインズの理論に基づく経済理論を支持する学派。経済不況の際、その克服のため、政府や中央銀行による裁量的な介入の有効性を主張する。他方、マネタリズムは、米国シカゴ大学教授だったミルトン・フリードマンを中心とした学派。ケインジアンが提唱する裁量的な政策に対し、一定のルールに基づいた政策を重視する立場をとる。第1回国際コンファランスには、ケインジアンからジェームズ・トービン、マネタリストからミルトン・フリードマンが参加した。

学界の最新情報を踏まえテーマを選定

論文報告をする須藤さん

渡辺さんが、人選と並んで車の両輪と位置付けるのが、コンファランスのテーマ選定。コンテンツの検討を主に担う同課経済研究グループの岩崎雄斗さんによれば、テーマの検討が始まるのは、前年のコンファランス終了直後。今年のコンファランスについて言えば、最初の打ち合わせは、昨年のコンファランスが終わったその日のうちに行われたそうです。

「金融、経済の分野において、世界各国でどのようなことが問題になっているのかを踏まえ、テーマを選ぶ必要があります。今年のテーマである『低インフレ・低金利環境のもとでの中央銀行デザイン』についても、利上げが進むかに思われた米国で、低金利環境の更なる長期化が見込まれていることから、足もとの動向を捉えたタイムリーなテーマだったと自負しています」

時宜にかなったテーマや適切な論文報告者を選ぶため、岩崎さんをはじめスタッフは、常にアンテナを張り巡らしています。中央銀行関係者や学者が持つ問題意識、それに基づく議論の展開等を探ることを目的に、海外の主要な学会や中央銀行のコンファランスにも参加します。

「学界や中央銀行の人たちが、今なにに注目し、どう考えているのかを理解するには直接話を聞くことが重要です。論文が公表されるまでにはそれなりに時間がかかるため、論文を読むだけでは必ずしも最新の動向をフォローできません。学会などでどのような議論が交わされているのかを、タイムリーに知る必要があります」

国際コンファランスの論文報告セッションにおいて、日本銀行の代表として論文を発表するのも、経済ファイナンス研究課の役割のひとつ。今年は同課経済研究グループ長の須藤直さんが、「長引く低金利と銀行部門の安定性について」と題する論文の報告を行いました。

「国際コンファランスでの論文報告は、金融政策を巡る日本での議論を効果的に発信するとともに、外からの目線で、その議論のあるべき姿を確認するという意味でも重要だと思っています」

須藤さんは、岩崎さん同様、テーマや講演者などの選定にも携わりましたが、通常の業務がそこにつながっていると言います。

「金融研究所では毎年、研究者の方々を国内外から招聘し、ともに研究を行っています。長期の方で一年程度滞在されますが、人選だけでなく、お互いに刺激し合えるような環境作りも私の仕事です。直接顔をつきあわせて議論を深めるなかで初めてわかることも少なくありません」

こうした日常の業務を通じて外へと輪を広げていくことにより、国際コンファランスの内容も充実させていくことができると須藤さんは話します。

一流の参加者を迎えるための心配りと臨機応変な対応

国際コンファランスの開催を裏方として支えているのは、ロジスティクス担当のスタッフです。そのひとり、経済研究グループの原尚子さんによれば、参加者への招待状の作成から、ホテルの手配に関するお手伝いまで業務は多岐にわたるとか。そこには食事メニューの選択など、夕食会や昼食会の準備、調整も含まれます。

「約30カ国から日本にお越しいただきますので、バックグラウンドや慣習は多様です。食事に関しても、たとえば宗教による制限から、ベジタリアン、アレルギーをお持ちの方までそれぞれの事情を入念に確認し、きめ細かく対応しています」

過去には発表者の来日が前日にキャンセルになるなどのトラブルが生じたことがありましたが、どのコンファランスも成功裏に終えたそうです。その秘密は徹底したシミュレーションにあるとのこと。

「急きょ仕事で来られない、フライトが遅れるなど不測の事態を常に想定して、どのような事態になっても臨機応変に対応できるよう対処方法を考えています。またそうした不測の事態の際には、自分ひとりで抱え込まず、他のスタッフと情報を共有し、連携して対処していくことも重要です」

さまざまな場面を想定した上で設定したスケジュールには余裕をもたせてあるものの、活発な議論により時間が予定よりオーバーすることも。コンファランスが盛り上がることはうれしい反面、緻密に組み立てられたその後の予定に影響が出ないよう苦心されるそうです。

「これだけのビッグイベントの運営は大変ではありますが、経済学者や各国中央銀行の幹部が一堂に会すること自体が刺激的ですし、最先端の研究の発表やハイレベルな議論が行われる場を作り上げていると思うと、やりがいがある仕事です」

2015年の国際コンファランスからその準備に携わってきた佐々木真祐子さんによると、Wi-Fi環境へのニーズの高まりなど、時代の変化や海外の学会事情をふまえつつ、招待客へのおもてなしの内容を柔軟に変えているとのこと。佐々木さんは、「段取りが悪くて不快な思いをされる方がいないように心掛けています。運営が滞りなく終わってはじめて自分の仕事ができたと言えます」と話します。また、だからこそ、コンファランス当日に裏方の果たすべき役割は大きいとのこと。

当日の事務室の様子

「会場外からコンファランスの進行をうかがいながら、次の予定に備えて、関係先に連絡・調整を行いスムーズな運営に貢献できるよう心掛けています。厨房や会場の設営、音声、警備など各プロフェッショナルとの緊密な情報の共有が成功には不可欠で、裏方のさらにウラでもまた多くのやり取りが繰り広げられています」

そんな細やかな配慮が常に求められる仕事をする中で、参加者からの温かいねぎらい、感謝の声が一番の励みになるそうです。佐々木さんはこう言います。

「コンファランス終了後にお礼のメッセージを頂いたり、ほかの学会で『日本銀行の国際コンファランスはホスピタリティーが素晴らしかった』と言われたとの報告があったりすると、やはりうれしいですね」

課長の渡辺さんは、国際コンファランスの開催や日々の研究が国内外の経済、さらには人々の暮らしにすぐ影響するわけではないが、と前置きしつつこう言います。

「国際コンファランスの開催を含め、経済ファイナンス研究課の仕事の意義は『基礎的研究は、樹木にたとえれば根に相当し、一見地味ではあっても、非常に重要である。金融経済のメカニズムに関する理論的な解明は、事象の本質を正しく把握するための基礎である』という、故前川元総裁の言葉に集約されていると思います。中長期的な観点から金融・経済の問題を解明し、日本銀行の政策・業務運営に貢献することを目指して、研究・議論を積み重ねているのです」

経済ファイナンス研究課の尽力により成功裏に終わった2019年国際コンファランス。その議事録や一部動画は、それぞれ金融研究所のホームページ、日本銀行公式動画チャンネルで公開予定です。世界トップクラスの経済学者の発言や、最新のトピックに関するハイレベルな議論を、ぜひご覧ください。