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日本銀行金融機構局 国際課の仕事 世界の金融システム安定への貢献(2020年9月25日掲載)

銀行監督の国際的なルール作りに貢献する金融機構局国際課は、日本銀行のなかで国際交渉に携わる機会が非常に多い部署の一つです。その業務は多岐にわたり、国内外の関係者との地道な調整が続きます。そうしたなかで、日本の国益はもとより、世界の金融システムの安定も考えつつ、先々を見据える視点で仕事に取り組んでいます。

バーゼル銀行監督委員会やその作業部会などの国際会議を支える日常やこれまでに積み上げてきた成果、新型コロナウイルス感染症の状況を受けての国際的な対応、そして足元取り組んでいる新たな課題など幅広くご紹介します。


情報収集と調整を重ね国際交渉の最前線に立つ

写真1

バーゼル銀行監督委員会の事務局がある国際決済銀行(スイス・バーゼル)

国際会議への参加を通じ、グローバルな銀行監督のルールの策定と実施に貢献していくのが金融機構局国際課の役割。世界の金融システム安定のため、私たちは国際交渉の最前線に立っています、と話すのは、課長の小林俊さん。バーゼル銀行監督委員会(注1)や金融安定理事会(FSB)(注2)などの国際会議への参加機会が多い国際課の陣容について小林さんは説明します。

「20名近い課員の多くは海外留学や国際機関、海外中央銀行、日本銀行海外事務所などでの経験があり、海外の大学を卒業して採用された若手が配属されるケースも増えています。海外出張が非常に多いのも特徴ですね」

世界的な金融規制の合意である1988年のバーゼルIは策定後も改訂が行われ、2007年以降の世界金融危機を経て、より強化した規制が必要との声が強まりました。その結果、2010年にはバーゼルIIIという新たな金融規制の枠組みに参加各国が合意しました(その後も調整が続き2017年に概ね最終合意)。

「各国の利害が異なるため常に会議は白熱します。過去、国際的な金融規制に関する議論は欧米主導との印象もありましたが、バーゼルIIIでは交渉の経験を積んだ職員が増えたこともあり、日本の主張がかなり反映されたという実感があります」

国際課の職員は、バーゼル銀行監督委員会ほか50以上の作業部会に参加しますが、事前の資料作りにはかなりの時間を要します。

「担当者は、金融庁や日本銀行内の他部署と調整しながら、我が国としての方針を決めた上で、国際会議に向けた資料を作成していきます。その際、各国の主張、あるいは国際規制の影響を受ける日本の金融機関の問題意識についても情報を収集した上で議論に臨みます」

会議の後は関係者へ情報を還元するほか、結果を踏まえて対応方針を再検討したり、新たな課題へ取り組んだりします。

日本で国際会議を開催する場合もあり、その際ホスト役を務めるのも重要な業務です。それらの責務を確実に果たすための、国際課で求められる力、そしてそうした力を持った人材の育成について、小林さんはこう言います。

「国際課で求められる能力として、まずは多様な背景を持つ人を説得できる論理を構築できること。二つ目はその論理を相手にわかりやすく説明するコミュニケーション能力。三つ目は多様な人たちとの信頼関係を構築する能力。さらにその前提となる英語力。流ちょうでなくてもいい。論理的でわかりやすい英語力が大切なのです。

このような力は一朝一夕には身に付かないため、個々人の自己研さんは欠かせません。ただそれだけではなく、職場としても、年齢や職位に関係なく、それぞれの経験を分かち合うようにしています。小さなことですが、お互いの気付きを促すためにそうした地道なことも大事にしています」

  • (注1)バーゼル銀行監督委員会は、銀行を対象とした国際金融規制を議論する場として設立された委員会。現在、日本を含む28の国・地域の銀行監督当局および中央銀行により構成されています。
  • (注2)金融安定理事会(FSB:Financial Stability Board)は、金融システムの脆弱性への対応や金融システムの安定を担う当局間の協調促進に向けた活動などを行っています。現在、日本を含む25の国・地域の中央銀行などから構成されています。

世界を広く捉える視点で重ねていく議論と調整

2007年以降の世界金融危機から得た教訓と、金融規制の大改革であるバーゼルIII等について、同課の伊豆田耕平さんはこう語ります。

「金融危機の教訓は大きく二つ挙げられます。一つは、国境をまたいで活動する金融機関の資本と資金繰りに関するもの。二つ目は、世界規模で活動する巨大な金融機関が無秩序に破綻すると、金融システムに大きな影響を与えるため、それを破綻させることができない、いわゆる『大きすぎてつぶせない問題』に関するものです。

そうした教訓それぞれについて取り組みを進めています。前者は、金融経済環境が悪化しても、金融機関の経営の安定性が確保され、資金繰り不安が生じないよう金融機関に準備してもらうことです。もう一つは、世界規模で活動する巨大な金融機関には、相応の損失が生じても耐えられるよう、追加的な資本の積み増しを求めつつ、破綻処理の枠組みに関する整備などの対策を講じることです。

金融危機では、危機に陥った金融機関に、公的資金、つまり国民の税金が使われる事例が見られました。金融規制改革の結果、事前の備えにより、できるだけ公的資金の利用に頼らずに処理をすることが展望されています」

伊豆田さん自身、こうした議論の場であるバーゼル銀行監督委員会の三つの部会に参加しています。

「日本の国益はもちろんですが、それを考えるだけでは十分ではありません。携わっていくうちに、世界のためにということもより強く意識するようになりました。また、交渉担当者の入れ替わりはありますが、国際会議の議論における日本銀行への期待は変わりません。過去の交渉担当者が積み重ねてきたことの重みを感じながら、自分もそのバトンを次の世代につなげなければとの思いがあります」

大切なのはコロナ禍で得られた知見を将来に活かすこと

バーゼルIIIの策定後には、その実施と影響評価に作業の重点が移ります、と同課の河内茂雄さんは語ります。

「バーゼルIIIは、合意自体が拘束力を持つ条約とは異なり、合意が実施されるかは、各国が合意内容に沿った国内ルールを策定するかに懸かっています。従って、バーゼル銀行監督委員会では、策定された規制が適切に実施されているか、各国に審査団を送るなどしてチェックするのですが、それにも私たちは関わっています。また、規制が想定していた効果を発揮したかという検証(影響評価)も大切です。問題があればさらなる議論を重ね、規制の修正などに向けた議論をしなくてはなりません」

その実施を前にして世界を襲ったのがコロナ禍です。

「まずは、金融機関がコロナ禍による影響への対応に集中できるよう、バーゼルIIIの実施時期を、2022年から2023年へと1年延期しました。また、これ以外にもさまざまな対応策を決定したほか、現在も検討が続いています。これらの対応策については、全ての議論が対面ではなく電話会議などで行われるようになり、会議の回数が増えたためその資料準備などで忙しい毎日です。時差があるため、会議の開催が夜遅い時間になることも珍しくありません。コロナ禍がどの程度長引くのかなど不確実性が大きい上、各国の置かれた状況が異なるため、今後の対応についても難しい協議が続きそうです」

多忙な上、先を見通せない毎日が続きますが、河内さんの姿勢は前向きでした。

「現時点(6月末)では日本の金融システムは安定していますが、今のうちから、必要時に速やかに対策を実行に移せるよう準備しておかなくてはなりません。また、今回のコロナ禍で得られた知見を次世代に引き継ぐことが、来るべき将来の有事への対応力を高めることにつながるのです」

遠い未来まで見据え多様なリスクに取り組む

コロナ禍は予測が難しい出来事でしたが、国際的な金融システムの安定にとって将来的にリスク・脅威となり得る新しい課題も出てきており、各国間で話し合いが行われています。同課の山田隆人さんと前田佳菜実さんは、その一つであるデジタル化の進展と技術革新に伴うリスクへの対応に取り組んでいます。

「サイバー攻撃などはパターンが多様ですから、効果的に対処するためにも平時か有事かを問わず、民間部門や各国当局との連携が大切です。また、こうしたリスクに関する評価方法や金融システム全体的な分析結果などを共有しながら、有効な金融規制・監督の枠組みを探る必要があります。技術革新とともに金融サービスのリスク特性も刻々と変わるなかでは、常に将来の展開を想像力豊かに予測する必要があります。先々、銀行の業務プロセスや組織のあり方が大きく変わっていくと思われます。目先の変化を追う一方で、数年後、数十年後の金融サービスの姿まで展望しながら布石を打っていくことも大事です」

環境の変化を柔軟に受けとめる若手の感性も存在感を増しています。米国の大学を卒業した前田さんもその一人。

「国際的な議論の最先端に位置する部署なので仕事は大変ですが、新しい技術やそれらを取り巻くチャンスとリスクをしっかり学び、金融システムの頑健性の向上に向けた取り組みに参画していきたいと思っています」

暗号資産(仮想通貨)の登場もまた、今後の重要な検討課題だと話すのは、同課の藤本啓さんです。

「暗号資産に関するリスクは、既存の規制、監督の枠組みでは必ずしも明示的には想定されていません。今後急速に利用が広まるなかで、想定されなかったリスクが顕在化すると、金融安定上の脅威ともなり得ます。そのため、規制当局の間で強い問題意識を共有しており、精力的に議論が進められています」

その上で、藤本さんはこう強調します。

「国際的な協調のもとで、金融機関を監督し、リスクや脆弱性をコントロールしていかなくてはなりませんが、状況は急速に変化していきます。国際交渉の場で海外の担当者と同じ土俵で議論できるよう、常に最新情報を逃さないよう努めています」

気候変動といった、一見金融との関係が想像しにくいことが金融システムの安定に影響することもある、と語るのは、同課の白木紀行さんです。

「日本でも毎年のように甚大な自然災害が発生しています。そうした災害により、広い範囲で建物が壊れるなど資産価値が損なわれると、被災した個人や企業だけではなく取引している金融機関、ひいては金融システム全体に影響を及ぼす可能性があるわけです。また、昨今話題になっている低炭素社会の実現に向けた取り組みの過程では、環境規制の導入やそれに伴う産業構造の変化が、中長期的に温室効果ガスの排出が多い産業に属する企業の価値(株価)や資産価格に影響を及ぼす可能性もあります。気候変動は、国際的に取り組む課題ですが、そうしたことが金融面に及ぼす影響についても、国際的な協調のもとで議論を進めておく必要があるのです」

気候変動は他の金融リスクに比べると、長期間にわたり影響を及ぼすほか、影響が見通しにくいことが特徴だとも言います。

「100年後に気温が何度上がるかなど、地球温暖化の議論は予測が難しい。ただ、その分野の研究は日々進歩していますので、最新の研究を追いながら知見を蓄えつつ、調査・分析を行い、しっかりとした根拠に基づく国際的な議論に貢献したいと思っています」

写真2

電話会議の模様。会議前の対処方針の作成は必須(昨今はマスク着用で参加)。なお、最近では、テレビ会議システムを用いる会議も増加しています。

国際課の皆さんに共通しているのは、日本銀行員として国際交渉の最前線に立つという自負と責任感、専門分野に限らず広くアンテナを張り巡らせた情報収集力、そしてあらゆる事態の想定に努める妥協なき姿勢です。

「これまでに起きた危機と同じ程度のショックを前提としたストレステストに加え、通常では想定しづらいリスクを想定するシナリオ分析などを参考にしながら、検討作業を行うことが重要です。豊富な専門知識はもちろんですが、想像力も駆使しながら常に思考実験を行っています」

そう語る課長の小林さんは、国際課において国際金融規制、監督に向けた国際的な議論をしていく上で大事なことを四つ挙げました。

「まずは先を見据え、新技術や金融環境の変化を考慮した上での制度設計、次にその制度の着実な実施、そして、作った制度の効果と副作用の評価、さらには副作用が効果を上回る場合における、制度の改善に向けた取り組み、です。国際交渉というと華やかな世界を想像されるかもしれませんが、計画→実行→評価→改善という地道な作業の繰り返し。こうした作業を粘り強く行うことが大事です。また、交渉事ですから、私たちの意見が十分反映されないこともありますが、諦めないことです。時を経て状況が変わると、以前の私たちの提案が再評価されることもあります。諦めない粘り強さが私たちには常に求められるのです」

金融システムの安定は、結果的には私たちのライフラインと直結します。私たちの日々の生活に貢献できるように、国際課職員は粘り強く取り組んでいます。