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日本銀行決済機構局 決済システム課デジタル通貨グループの仕事 未来を見据え中央銀行デジタル通貨の検討に尽力(2022年6月24日掲載)

社会のさまざまな領域でデジタル化が進む中、日本銀行では2021年度から中央銀行デジタル通貨に関する実証実験が進められています。実際に発行するかどうかは決定していませんが、変化が著しい世の中に中央銀行として適切に対応し続けるためには、早い段階から着実な準備を進めていくことが必要です。現在、そうした未来を見据えて行われている多種多様な実験を担っているのは、決済機構局決済システム課デジタル通貨グループです。利便性が高く、安心、安全であることを目指しながら、前例のない業務として未知の領域を切り拓く努力が積み重ねられています。


誰でも、いつでも、どこでも、安心して使える決済手段を目指して

2020年10月、日本銀行は「中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency)」(以下、CBDC)に関する取組方針を発表しました。CBDCとは、中央銀行が発行する新たな形態の電子的なマネーのことです。2021年4月からは、取組方針に基づいたさまざまな実証実験が行われてきました。その背景について、業務を担う決済機構局決済システム課デジタル通貨グループ長で企画役の山田健さんはこう語ります。

「情報通信技術の進歩や多様な領域でデジタル化が急速に進む状況を考えると、将来的に社会のCBDCへのニーズが急速に高まる可能性があります。現時点で発行するか否かは決まっていませんが、決済システムの安定性と効率性を確保するためにも、今から準備を進めることが重要との認識で検証を進めています」

現段階の実証実験の対象は、個人や一般企業を含む幅広い利用を想定した「一般利用型CBDC」。2021年4月~2022年3月に実施された「概念実証フェーズ1」では、システム的な実験環境を構築し、CBDCの基本機能である発行、流通、還収などに関する検証が行われました。2022年4月からは、「概念実証フェーズ2」がスタート。フェーズ1で確認した基本機能に加えて、決済の利便性向上や外部システムとの連携といった各種の周辺機能の実現可能性や技術的な課題について検証が重ねられています。

  • 実証実験のスケジュールと制度設計面の検討内容を示した図。詳細は本文のとおり。

「CBDCの発行により銀行券がなくなるわけではありません。現在の決済システムを全体としていかに改善できるかが大きな課題です。海外では既にCBDCを発行している中央銀行があるほか、実証実験や調査・研究などを含めると約8割の国々で何らかの取り組みが進められています。とはいえそれに追従するのではなく、日本の決済をより安全で効率的なものとするために果たしてCBDCは必要なのか、という問題意識からきちんと検討を進めなければなりません」

求められる基本的な特性は、ユニバーサルアクセス、セキュリティ、強靱性、即時決済性、そして民間決済システムとの相互運用性。

「私たちが目指すCBDCは現在の現金と同様、『誰でも、いつでも、どこでも、安心して使える』決済手段です。たとえば日本の銀行券は触るだけでお札の種類が分かるなどさまざまな工夫が施されており、最終的にはそういった細部まで考える必要があります。また決済機構局内、あるいは日本銀行の中だけで意思決定する類のプロジェクトではなく、幅広い分野の関係者から多様なご意見を伺いながら進めていくことも大切です」

金融業界や財務省、金融庁との「中央銀行デジタル通貨に関する連絡協議会」、IT関連ほか一般企業も参加する「デジタル通貨分科会」など、多くの場で積極的に議論されています。

「このプロジェクトは最初の段階からすべてが決まっているのではなく、関係者や専門家の方々との議論を経て調整を重ねていくもの。理解の進度や社会状況の変化に応じてプロジェクトを修正して調整する柔軟性が欠かせないと思っています」

  • フェーズ2における検証作業の内容を示した図。(1)決済の利便性向上、(2)経済的な設計、(3)仲介機関間・外部システムとの連携といった3つのブロックに分けて検証作業(要件定義、開発、実機・机上検証)を進めていくとしている。

前例のないプロジェクトの礎を構築していく醍醐味

実際の実証実験は、日本銀行がシステム関係業務を委託したシステムベンダーとともに進められています。

「前例のないプロジェクトであり、ほぼゼロベースからのスタートですから、CBDCに関して日本銀行が目指す方向性や実証実験で何を明確にするのかをベンダーに丁寧に伝え、システムの一連の流れを表す業務フロー図の作成にも時間をかけました」と話すのは、企画役補佐の明間俊宏さんです。

「業務フロー図に関しては、正常稼動時以外の、異常時・例外時の処理をどこまで書き込むかの判断が難しかったですね。本来、決済システムの構築においては、エンドユーザーの残高不足で送金ができないときにどのようにエラーを返すかといった例外的な事項もすべて記述しないと成立しないのですが、今回は基本的な決済機能に焦点をあてた検証です。エンドユーザーや仲介機関、そして中央銀行といった複数の関係者が業務フロー図上に登場するなか、想定される例外をすべてクリアしようとすると必要以上に複雑になってしまいます。一方、実証実験を進める上で何を例外的な事項と考えるか、人によって重点の置き方が異なることもありますから、広く意見を聞きながら作業を進めました」

苦労はありながらも、プロジェクトの初期段階から携われる喜びがあるとも。

「技術の進化は著しくスピーディーですから、仮にCBDCが発行されるとなった際、われわれの実証実験とは異なる方向に進む未来もあり得ます。しかし、現段階での試行錯誤が先々につながっていく。礎である最初のフェーズを担えることに、大きな責任を感じています」

最新の技術を駆使しつつ重ねられる地道なアプローチ

フェーズ1の実証実験では、将来CBDCを発行することとなった場合に求められる処理性能について、ピーク時における1秒間の決済処理量を10万件以上と想定しました。その実現に向けて、CBDCシステムの基盤となる「CBDC台帳」について有力と考えられる3つの設計パターンが用意され、処理性能や信頼性、機能拡張性の比較、検証が行われました。実験用の台帳システムの処理性能を計測するための「高負荷シナリオ」として、1秒間の決済処理量を3000件と設定するなど、実験の細部を中心となって企画したのは主査の村越智文さんです。

「実験は実際にサーバーを目の前に置いて構築するのではなく、クラウド型といって、インターネットから接続できる仮想環境を構築して行われています。クラウド上の仮想サーバーの場合、実際のサーバーの利用に比べて費用や時間を要せず、更新が容易にできるメリットがあります」

日々の業務では、実験の測定を行うベンダーとの頻繁なディスカッションにも重きが置かれています。

「問題点が見つかるなど、時には行きつ戻りつもあります。そのリスク軽減のためにも大切なのが、ベンダーとの間で認識のずれがないかを逐次確認して調整すること。金融、経済が専門のわれわれと、いわば無形のものづくりに携わるベンダーとは、背景やスタンスが異なります。それぞれの専門用語が通じないケースもあり、小さな齟齬がその後に大きく影響しかねないので、細かい質問や相談を重ねながら、そのギャップを埋めることに努めてきました」

こうしたベンダーやクラウドサービスを提供する会社など、広く関係者を交えてのすり合わせも幾度となく行われています。

「仮想サーバー上での新たな決済サービスの実験という日本銀行にとって新しい試みですが、実際の日々の業務はむしろ地道でアナログな部分も多い。技術的な知識にも増して、聞く、伝えるコミュニケーション能力の大切さを実感しています」

  • CBDC台帳の設計パターンを示した図。詳細は本文のとおり。

新たな世界に柔軟に対応するチームの魅力と個々の努力

「概念実証フェーズ1」結果報告書の表紙の写真。

実証実験で測定値が得られた後は、机上での分析、検証が行われます。

「ミリ秒単位の世界における膨大なデータを解釈する際には結果を見るだけではなく、システムの構築に携わったベンダーから測定値の背景や意見を聞く作業が重要となります。一方で実験の結果をまとめた報告書を作成する時には、いかにわかりやすく読み手に伝えるかに苦心しました。実証実験結果を翻訳するような感覚で、読者との橋渡し役になるよう心掛けました」

そう話す企画役補佐の尾島麻由実さんは、チームに関する質問に対し笑顔になりました。

「このプロジェクトに携わる際に驚いたのは、『自走してください』という上司の言葉です。もちろん報告や情報の共有は必須ですが、やるべき作業が多いので、可能なら自分で判断していいと。用意された業務をこなせばOKではなく、それぞれに進む道を考えなければならないものの、打ち合わせの場では素朴な疑問や仮説をフラットに語りやすい雰囲気がありますね。新しいものを学ぶことに対して、柔軟な姿勢が共通しているのもこのチームの良さだと思っています」

現時点では、エンドユーザーの決済手段など細部まで具体的な検討は及んでいませんが、刻々と進化する技術をキャッチアップすることも必要だとか。

「ベンダーに作業してもらうだけでなく、自分たちでシステムの動作を確認したり、ログデータを分析したりすることが大切です。新しい技術を使ってみようという意識を常に持ち続けることが、CBDCが使われる未来のシステムをどのように構築していくかをイメージする上で大事だと思っています」

大切なのは今の過程を着実に未来に継いでいくこと

グループ長の山田さんによれば、フェーズ2終了後、必要と判断されれば、民間事業者や消費者が実地で参加するパイロット実験の実施が検討されるとのこと。

「デジタル通貨分科会への参加者が回を追って増えるなど、CBDCに対する皆さんの関心の高まりを実感しています。多くの方のお力添えをいただきながらの作業は今後も続き、将来的にはさまざまなIT関連企業を含め、より幅広い方々のご協力を得ることにもなるでしょう。まだ始まったばかりのこのプロジェクトを先へとつなげるためには、実証実験の成果だけではなく、内外の関係者がどのような議論を行っているか、そして日本銀行が何を重要だと考えているのかということを丁寧に説明していくことも大切だと思っています」


山田さんをはじめデジタル通貨グループの皆さんから伝わってきたのは、未知への世界に挑む先駆的な業務に対してやりがいや面白さを感じていることでした。果たして、未来はどうなるのか。グループのチャレンジは、この先も続きます

(肩書などは2022年4月初時点の情報をもとに記載)