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【挨拶】成長力の強化、市場の役割、そして「情報の生産」

創立50周年記念日本証券アナリスト大会における挨拶

日本銀行副総裁 山口 廣秀
2012年10月15日

目次

1.はじめに

日本銀行の山口でございます。本日は、アジア証券・投資アナリスト連合会と日本証券アナリスト協会の大会にお招きいただき、誠にありがとうございます。皆様におかれましては、常日頃より証券市場の発展に尽力され、そのことを通じて日本経済の健全な成長に貢献されておられます。皆様のご努力に対し、日本銀行を代表して、心より敬意を表します。

本日は、「成長力の強化、市場の役割、そして『情報の生産』」というタイトルで、経済成長を支える金融機能の重要性や、それを踏まえた証券市場の望ましいあり方について私の考えをお話し、そのあと、証券アナリストの皆様方に、期待される役割を申し上げながら、エールを送らせていただきたいと思います。

2.日本経済と証券市場

日本証券アナリスト協会が設立された50年前の1962年、日本経済は高度成長期の真っただ中にありました。1956年から1970年まで15年間で年平均9.7%の成長を遂げました。日本経済は、オイルショックをきっかけに安定成長へと移行しますが、その後も1990年代初頭にバブルが崩壊するまで、右肩上がりの成長軌道をたどりました。しかし、バブル崩壊後は様相が一変し、成長率は、1990年代には1%台半ば、2000年代には0%台半ばへと、大きく低下しました。

証券市場の歴史も、こうした実体経済の長期的な趨勢と軌を一にする展開をたどってきました。高度成長期には、企業の旺盛な資金需要は主として間接金融が支えてきました。ただ、そうした中にあっても、投資信託が普及し始めた1960年代初頭には、「銀行よさようなら、証券よこんにちは」というフレーズも聞かれるようになるなど、証券市場は次第に人々の身近な存在になっていきました。その後も、東京オリンピック後の証券不況など試練を乗り越えながら市場は成長を続け、1980年代には金融の自由化・国際化が進展するもとで、株式市場、社債市場ともに大いに活気づきました。バブル期には、株価の強い上昇期待を背景に、転換社債やワラント債によるエクイティ・ファイナンスも急増しましたが、行き過ぎた期待に基づく市場の拡大は結局長続きしませんでした。1990年代以降は、バブルの生成・崩壊とともに表面化した様々な出来事等への対応もあって各種の改革が行われ、市場は着実に整備されてきました。しかし、経済が低成長を続ける中で、証券市場を取り巻く環境は厳しく、近年は海外市場との対比で競争力の低下が懸念されています。

3.成長力強化の鍵を握る金融

日本経済の趨勢的な成長力の低下の基本的な背景については、これまでも再三に亘り述べてきていますが、一言で申し上げれば、少子高齢化やグローバル化といった大きな環境変化に、経済が十分適応できてこなかったことにあると考えています。したがって、成長力を強化するには、高齢化の進行に伴う新たな潜在需要を掘り起こしていくことや、アジアを中心に拡大するグローバル需要を取り込むことが不可欠であり、それらに向けた企業の積極的なチャレンジと、それを支える環境整備が求められています。

この点、新たなチャレンジには常にリスクが伴うことを考えますと、そのリスクを評価し引き受けていく金融の力は、日本の成長力強化の鍵を握るといっても過言ではないと思います。企業の挑戦を促しその成長性を顕在化させることは、設備投資や研究開発を促進させるほか、雇用の拡大、賃金の上昇、さらには利子・配当やキャピタルゲインの増加を通じて、家計の所得や資産の形成力を強めます。

日本経済は2000年代に、高度成長期の「いざなぎ景気」を期間の長さでは上回る6年1か月の景気拡張期を経験し、日経平均株価も一時1万8千円程度まで上昇しました。しかし、この時期は、業績の改善を賃金やコストの削減によって実現する企業行動が、色濃く残ったままでした。さらに、そもそも米欧の金融バブルを背景とした輸出依存度の高い回復であったため、表面的に景気拡張期が長く続いたとはいえ、自律的なメカニズムに裏打ちされた持続性のある景気回復とはなりませんでした。こうした近年の経験も踏まえますと、高齢化が一段と進行する中で、幅広い企業のチャレンジ精神を引き出して、経済全体の成長力強化を実現していくことは、決して容易な課題ではありません。しかし、そうであるからこそ、成長マネーを創り出す場である金融資本市場の役割には、大きな期待がかかります。もちろん、一口に金融資本市場といっても、最終的な資金の出し手には、預金で安全に運用したいという人もいれば、一定のリスクを許容しながら運用益を増やしたいと考える人もいます。したがって、間接金融、直接金融がそれぞれの特性を活かしながら、金融資本市場全体として、幅広い資金運用ニーズを経済成長へ転換する能力を高めていく必要があります。

4.証券市場に求められる3つの条件

そう申し上げたうえで、以下では、アナリストの方々が直接かかわる証券市場に焦点を当てて、経済成長を生み出す力の強化や、それと一体である証券市場自身の発展という観点から、どのような市場の姿が望ましいのか、3つほど条件を挙げてみたいと思います。

第1に、効率性や公正性の高さです。証券市場は、リスクやリターンに対する適正な価格づけがなされて初めて高い機能を発揮します。したがって、様々な評価軸を有する多くの投資家が参加し、流動性の厚い市場であることが望ましいと考えられます。そのためにはまず、資金調達者・運用者それぞれに対する多種多様なソリューションの提供や、セカンダリー市場での証券売買が、低コストで実現可能であること、すなわち効率的な金融取引の場である必要があります。また、多くの投資家が安心して参加できる市場であるためには、適切なガバナンスと高い倫理観に基づく、取引の公正性が担保されていなければなりません。わが国の証券市場では、とりわけバブル崩壊以降、健全な競争環境などを実現するため、様々な制度改革が積み重ねられてきました。しかし、近年の証券市場は熾烈な国際競争にさらされています。わが国証券市場の国際競争力を維持するためには、今後も市場の効率性・公正性を高める取り組みを、不断に実行していくことが重要です。この点、例えば、東京証券取引所と大阪証券取引所が経営統合し、アジア・ナンバーワンの取引所を目指す動きは、わが国証券市場の新たな船出として大いに期待されるところです。

第2に、中長期的なリターン向上を目指す投資家の存在です。もちろん、短期的な売買益を狙うのも一つの投資手法であり、それが市場のダイナミズムや流動性を高める面を有していることは否定いたしません。しかし、短期的な利益だけでなく、例えば年金や保険などの運用機関が、中長期的なリターンの引き上げに最大限の努力を傾けることは、証券市場が将来性のある企業やプロジェクトを選び取る機能を高め、ひいてはわが国経済の持続的な成長への貢献につながります。この点、最終的な資金の出し手である家計が、自らの資産運用に高い関心を持つことも重要です。「貯蓄から投資へ」と言われて久しいにもかかわらず、1,500兆円に上る家計の金融資産の過半が依然として現預金で占められている事実を踏まえますと、眠れる成長マネーの覚醒を促す環境整備の余地は少なくないように思います。例えば、幅広い年齢層にそれぞれ対応した金融教育の充実など、資産運用への関心を高める取り組みを進めていくことは、家計の長期資金を預かる運用機関に、一段高いレベルでの競争を促していく作用を持つと考えられます。

第3に、投資判断をしっかりサポートする質の高い情報が生み出される場であることです。まず重要なのは、資金調達者のディスクロージャーやIR活動です。誠実かつ公正な開示が求められることは言うまでもありませんが、それに加えて、企業が自ら経営戦略を積極的かつ説得的に語る努力はきわめて重要です。これらを含めた企業情報は、市場関係者によって色々な角度から分析・評価され、投資家の意思決定に活用されていきます。金融理論では、資金の出し手が資金調達者に関する情報を十分には有していないことを「情報の非対称性」と呼び、それが大きい場合、将来性に富む企業であっても資金調達面から成長が制約されると考えています。このため、「情報の非対称性」を解消することこそが、金融の本質的な機能であり、金融が経済活動に貢献する付加価値であると整理されています。この付加価値は、やや抽象的な表現ですが、「情報の生産」ということを通じて生み出されるものであり、その具体的な意味を端的に言えば、投資対象に関する質の高い分析と評価にほかなりません。そして、この点で重要な役割を担っているのが証券アナリストです。

5.「情報の生産」と証券アナリストへの期待

そこで次に、証券アナリストへの具体的な期待を、やはり3点に分けて申し上げたいと思います。

第1に、的確な分析に基づく中立的な情報発信です。セルサイド、バイサイド、格付け機関など、所属する組織等により証券アナリストの立場は様々です。ただ、その発信する情報が信頼され影響力を持つためには、分析の確かさと公正・中立な視点が不可欠の要素だと考えます。そのうえで、具体的な分析の切り口や強調するメッセージなどについては、個々のアナリストが自らの専門性や知見をフルに活用して工夫していくものだと思いますし、アナリスト同士が異なる視点で刺激を与えあうことによって、市場全体としての「情報の生産」は質・量ともに高まることになります。そのうち私がとくに期待するのは、成長企業の発掘に資する「情報の生産」です。日本経済の成長力が低下してきているとはいえ、個々に見れば高収益、高成長の企業は数多く存在しており、潜在的な高成長企業はさらに多数存在していると思います。そうした有望な投資機会をひとつひとつ探り当て、育てていくことが、迂遠なようではありますが、最終的に日本経済全体の成長力を高める有力な突破口になると考えます。

第2に、企業との充実したコミュニケーションです。証券アナリストの役割は、基本的には企業に関する分析を投資家に提供することですが、分析対象である企業との接点を大切にすることは、結果的にアナリストならではの問題意識を企業に投げかけることも意味します。企業が、投資家の視点も取り入れながら、経営戦略を不断に研ぎ澄ませていく過程に、証券アナリストが貢献できるということです。言い換えますと、証券アナリストは企業と投資家を双方向からつなぐ結節点として貴重な役割を担っていると考えています。

第3に、証券アナリストには、グローバル人材としての活躍を期待しています。現在、新興国経済の減速がやや長引いていますが、中長期的には新興国の成長ポテンシャルは高く、金融面でもとくにアジアの証券市場は大きく拡大していくことが予想されます。本日のこの大会がまさにそうであるように、グローバルなレベルでの情報交換や人的交流は、ますます活発になっていきます。日本の証券市場の魅力を高めて海外の投資家を呼び込むためにも、また拡大する海外の投資機会をわが国家計の資産形成に役立てるためにも、「アジア」あるいは「グローバル」をキーワードとして、証券アナリストの方々に大いにご活躍いただきたいと考えています。

6.おわりに

以上、本日は、日本経済の成長力強化という観点を軸にして、証券市場や証券アナリストの役割の重要性についてお話してまいりました。先ほど申し上げた「情報の生産」という言葉は、金融がいかに知識集約型の産業であるかを表しているように思います。高齢化に伴って労働力人口が減少を続ける日本経済においては、一人当たりの付加価値上昇率を高めることが経済成長の必要条件です。典型的な知識集約型産業である金融業が付加価値の創出力を高め、産業として伸びていくことは、それ自体としてわが国経済の成長力強化に資することになります。証券アナリストの方々が、旺盛な知的好奇心と時代を読み取る感性を持ちながら付加価値の高い仕事を続けられ、日本の証券市場の発展、ひいては日本とアジアの発展にとって貴重な貢献をなされていくことを、強く期待しています。

ご清聴、ありがとうございました。