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「新たな自己資本充実度の枠組み」(自己資本比率規制改訂案)に関する追加資料

(日本銀行仮訳)

2000年 1月18日
バーゼル銀行監督委員会

日本銀行から

 「新たな自己資本充実度の枠組み:第三の柱、市場規律」はこちら (bis0001a1.pdf 49KB) から、「銀行の内部格付制度の実態」(エグゼクティブサマリーのみ)はこちら (bis0001a2.pdf 32KB) から入手できます。

プレス・リリース

 バーゼル銀行監督委員会は、本日、自己資本合意の修正提案に詳細な論点を加える2本のペーパーを公表した。第一の「新たな自己資本充実度の枠組み:第三の柱、市場規律」は、銀行の自己資本充実を促進する際に、市場規律が果たす役割を高めるためにはどのようなディスクロージャーがなされるべきかということに関して指針を提供する市中協議ペーパーである。第二のペーパー「銀行の内部格付制度の実態」は、銀行の内部格付制度と同プロセスに係る実務の現状を検証したものである。

 第一のぺーパーは、バーゼル委員会が1999年6月に公表した市中協議ペーパーの市場規律に関する提案をサポートし、強化することを企図したものである。市中協議ペーパーの枠組みは三つの不可欠な柱から成っている。すなわち、最低所要自己資本、監督上の検証、市場規律である。いわゆる第三の柱については、当委員会は、銀行システムの安全性および健全性を強化するための梃子として、透明性を促進することについて、監督当局が強い関心を有するということを強く信じている。

 バーゼル委員会の議長を務めるニューヨーク連邦準備銀行のWilliam J McDonough総裁は、「本ペーパーは、各国における透明性の向上や効果的な市場規律を促進するための、バーゼル委員会による継続的な努力の一環を成すものである。本ペーパーは、自己資本に関するディスクロージャーを強化するための当委員会の作業の主要な部分であり、かつ銀行の自己資本充実を促進する際に市場規律が果たす役割を高めるために行われるべきディスクロージャーについて詳述しようとするものである。本市中協議ペーパーに対する反応は、新たな自己資本充実度の枠組みに向けての当委員会の作業において重要なインプットを形成するであろう」と述べている。

 第二のペーパーについて、McDonough議長は、「当委員会は、信用リスクに関する標準化された現行の自己資本規制の検証作業を行うのと同時に、銀行において利用されている内部格付制度に基づいて、また、特定の基準に従って、最低所要自己資本を算出できる代替的アプローチを開発しようと企図している。本レポートの調査結果は、自己資本規制においてそのような内部格付をベースとするアプローチ(「内部格付アプローチ」)を如何に構築するか、という点について更なる作業を行うに当たり、当委員会の考え方に明快な方向性を与えることになろう。また、同アプローチを適用する際の要件として銀行が満たすべきサウンド・プラクティスの基準や指針を策定するため、当委員会が作業するのに際し、調査結果は有益な情報を提供するであろう」と述べている。

 これら2本のペーパーは、自己資本パッケージへのコメント期間が終了する2000年3月31日までにバーゼル委員会が公表する、自己資本規制関連の最後のペーパーである。

市場規律

 本日のペーパーで示されている、市場規律を促進するための提案を公表するに当たって、バーゼル委員会のメンバーであり、同委の透明性小委員会の議長であるJan Brockmeijer氏は、「本ペーパーの提言は、三つの分野に分類できる。すなわち、(1)自己資本の構造、(2)リスク・エクスポージャー、(3)自己資本充実度である。バーゼル委員会はパブリック・ディスクロージャーや市場規律の向上に強く関与しており、この目標を最大限に達成するためにはどうするべきかという点について、業界の意見を求める」と述べている。

 提案されているディスクロージャーの三つの分野は以下の通りである。

  • 自己資本の構造:バーゼル委員会は、自己資本の性質、構成要素、特徴についてのパブリック・ディスクロージャーは、市場参加者に対し、銀行が持つ財務上の損失を吸収する能力について重要な情報を提供すると考えている。さらに、本報告書は、革新的で、複雑、複合的な自己資本調達手段については、そうした自己資本調達手段の性質が、銀行の自己資本の頑健性と質の高さ(integrity)について市場が評価することにかなりの影響を持つため、十分な開示がなされなければならないとしている。
  • リスク・エクスポージャー:本報告書は、金融機関が、自らのリスク・エクスポージャーの性質と規模について利用者が適切に評価することを可能にするために、各リスク分野について、十分な定性的(例えば経営戦略)および定量的情報(例えばストレス・テスト)を提供すべきであると提言している。銀行の抱えるエクスポージャーの趨勢を見通せるよう、前年までの情報との比較情報についても提供されるべきである。
  • 自己資本充実度:市場参加者が銀行の自己資本充実度を評価することを助けるために、銀行は最低でも毎年、リスク・ベースの自己資本比率(バーゼル自己資本合意で示され、母国監督当局により実施された方法に従って計算されたもの)を、その他の関連情報と共に開示すべきである。

 バーゼル委員会は、本ペーパーに含まれる提言が、1999年6月の市中協議ペーパーに対して寄せられたコメントに照らして、新しい枠組み自体が出来上がる際に、さらに拡充される必要がありうることを認識している。

銀行の内部格付制度の実態

 1999年の春、バーゼル委員会のモデル・タスクフォースは、銀行の内部格付制度と同プロセスについて調査を開始するとともに、内部格付を規制体系に関連付ける諸々の方法を評価するという任務が与えられた。モデル・タスクフォースの議長であるDaniele Nouy氏は、「委員会は1999年の6月に市中協議ペーパーで掲げられた目標に添ってこの任務を果たすべく作業を行っている。これは、現行の銀行実務および監督実務の許す範囲内で、信用リスクに対する所要自己資本額を銀行の内部格付に基づいて算出する方向に迅速に移行する発展性のある枠組みを開発する作業である」と述べた。本レポートで、当委員会はこうした発展的なアプローチ(evolutionary approach)のあり得べき構成について敷衍している。さらに、Nouy氏は、内部格付アプローチは、銀行のリスク管理実務の強化を反映するように設計されることで連続的に改善され、銀行界の全体に対して、また、将来に亘って、リスク感応度を一層強めることになると言及した。

 本レポートは、モデル・タスクフォースがこのアプローチを開発するために現在行っている作業の第一次の調査結果であり、格付制度と同プロセスに係る実務の現状および銀行における関連実務の範囲に関する検証が含まれている。レポートの結果は、各国監督当局によって高度な内部格付制度を有していると認められたG10諸国の約30の銀行を対象としたサーベイや、銀行およびその他の業界実務家が昨年秋に行った一連の詳細なプレゼンテーション、ならびにモデル・タスクフォースの個々のメンバーが行っている継続的な作業の結果に基づいている。

 「我々の分析は、銀行の内部格付制度の構造や方法論、活用方法における類似点および相違点を強調している」と、フランス銀行委員会の銀行監督局長であり、本レポートの作成を担当しているワーキンググループの議長のPierre-Yves Thoraval氏は述べた。また、「特に、現在、内部格付制度の設計や運営については単一の標準が存在しないように窺われるものの、用いられているアプローチは少数であることが我々の分析により明らかになった」と言及した。これらのアプローチは、以下の点を含んだ、多くの重要な問題を提起している。

  • 銀行は格付の付与に際し、同様のタイプのリスク要素を考慮の対象としている。しかしながら、これらの要素の相対的なウェイトや、定量的考慮と定性的考慮の割合などは、サーベイ対象行の間で区々であり、場合によっては、同一銀行においても借り手のタイプによって異なる。
  • 銀行は、通常は内部格付を付与する際に考慮する問題点は同様であるが、格付を付与する際のアプローチは異なっている。これらのアプローチはいずれも、専門家の個人的判断に重きを置いた制度と、統計的モデルのみに基づいた制度の両極を結ぶ連続的な線の上に位置しているといえる。こうした格付付与の広範に異なるアプローチに対して、おそらく監督上の検証や評価に異なる手法が必要であろう。
  • サーベイ対象銀行の殆どは借り手を審査した結果に基づいて格付を行っている。約半数の銀行は、格付対象取引の個別の特徴によりさらされるリスクの度合いも、格付プロセスにおいて考慮している。
  • 格付により得られた情報は、経営陣への報告やプライシング、限度枠の設定など、サーベイ対象行においてほぼ同様のプロセスで利用されている(ないし利用される予定になっている)。
  • 格付別の損失特性を定量化するのに必要なデータソースや手法(例えば、ある格付の債務者がデフォルトする確率[Probability of Default: PD]、デフォルトが生じた際に被る経済的損失、すなわちLoss Given Default[LGD]、デフォルト時点におけるエクスポージャーのような関連パラメータ)は、銀行毎に異なっている。特に、サーベイでは、銀行は一般に、自らのエクスポージャーに係るデフォルト時損失率(LGD)の推計値を算出する際、取引相手のデフォルト確率(PD)を推計する際を上回る困難を経験していることを示している。
  • それぞれのデータソースや銀行は、格付の付与や損失特性の定量化の際に、「デフォルト」や「損失」について異なる定義を用いている。これらの相違は、測定の不整合性および(and/or)測定誤差の原因となるものであり、内部格付アプローチの枠組の中で明確に配慮する必要がある。
  • 銀行がリスクを定量化する際、依然としてデータの制約が障害となっている。しかしながら、サーベイの示唆するところによれば、一部の銀行においては、特定のマーケット・セグメントにつき過去数年間のデータを内部的に収集・分析する能力が向上しつつある。委員会はこうした努力の継続を促進している。

 委員会は次の点について市中からのコメントを求める。(a)本レポートで認識した実務の範囲は、各銀行や各国の実態を正確に表しているか、(b)また、「ベスト・プラクティス」ないし「サウンド・プラクティス」にどの程度合致しているか、(c)銀行の格付プロセスの重要な要素が省略されている、もしくは十分に記述されていないことはないか、(d)一部の要素 ─ 例えば、デフォルト時の損失発生率(LGD)を定量化する際に、多くの銀行が直面しているデータ面の制約 ─ に関するモデル・タスクフォースの暫定的結論は公正かつ合理的であるか。

 「委員会は、リスク感応的であり、銀行に信用リスクの計測と管理の実務を向上させるインセンティブを与える内部格付アプローチを開発する作業を懸命に行なっている」とMcDonough議長は付言した。「さらに、委員会は、内部格付アプローチの構成と要件が銀行自身が確立した貸出業務と信用リスク管理の実務を阻害することのないように注意を払うつもりである」と述べた。

 両ペーパーに対するコメントは、2000年3月31日迄にバーゼル委員会事務局(Basel Committee Secretariat, Bank for International Settlements, CH-4002 Basel, Switzerlandないし電子メール:bcbs.capital@bis.org)に寄せられたい。また、コメントは各国の監督当局にも送付することができる。

バーゼル銀行監督委員会

 バーゼル銀行監督委員会は、1975年にG10諸国の中央銀行総裁会議により設立された銀行監督当局の委員会である。同委員会は、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、ルクセンブルグ、オランダ、スウェーデン、スイス、英国及び米国の銀行監督当局ならびに中央銀行の上席代表により構成される。現在の議長は、ニューヨーク連邦準備銀行のWilliam J. McDonough総裁である。委員会は通常、常設事務局が設けられているバーゼルの国際決済銀行において開催される。

透明性小委員会

 バーゼル委員会の透明性小委員会は、バーゼル委員会がパブリック・ディスクロージャーおよび監督当局への報告に関する諸問題を検討するに当たって主たる責任を有する。同小委員会の現在の議長は、バーゼル委員会のメンバーであるオランダ中央銀行のJan Brockmeijer次長が務めているが、ペーパーは部分的には、米国通貨監督庁の国際関係担当副長官であったSusan Krause氏が議長であった頃に作成されたものである。現在、透明性小委員会はバーゼル委員会の全参加国および殆どのメンバー機関を代表する22名のメンバーにより構成されている。透明性小委員会は近年、ディスクロージャーの向上を提言するいくつかのペーパーを作成している

モデル・タスク・フォース

 Daniele Nouy氏が議長を務めているモデル・タスク・フォースは、1994年に設立された。当タスク・フォースは、バーゼル委員会に参加している機関の監督専門家により構成されている。

新たな枠組みの対象範囲

 1988年の自己資本合意はG10諸国の国際的に活動する銀行向けに設計されたものであった。その後自己資本合意は世界中で採用され、多くの国において国際的に活動する銀行だけでなく、国内的な銀行にも適用されている。新しい自己資本合意の焦点は再び国際的に活動する銀行であるものの、三つの柱に具体化されているその原則的な考え方は、一般的に、どこの法域のどの銀行であっても適用可能である。それぞれの状況は十分に勘案されるべきである。例えば、多くの非G10諸国は、マクロ経済レベルでより大きな変動を示している。さらに、監督当局は、自己資本合意に示されている不可欠な前提条件が満たされているかどうか──例えば健全な会計原則・実務が備わっているか──を慎重に検討する必要があり、必要な場合には適切な措置を採らなければならない。個別銀行の状況(例えば、規模、多角化、リスク管理システム、リスクの度合い)と監督当局の状況(監督上の検証に利用可能な資源等)は、全て、何時、如何に個別国で自己資本合意を適用できるかに関係する事柄である。

「実態」のレポートでの情報源は何か

 モデル・タスクフォースは、任務を与えられて以来、銀行の内部格付システムに関する情報の収集、および、本分野における「ベスト・プラクティス」ならびに総合的なサウンド・プラクティスの検証に専心してきた。モデル・タスクフォースは昨春、情報収集の一環として、各国監督当局によって高度な内部格付制度を有していると認められたG10諸国の約30の銀行を対象としてサーベイを行った。本サーベイの結果は、銀行およびその他の業界実務家が昨年9月と10月に行った一連の詳細なプレゼンテーション、ならびにモデル・タスクフォースの個々のメンバーが行っている継続的な作業の結果により補足されている。
 我々の分析によりカバーされる銀行は、規模が大きく、多様な業務を行っている国際的な銀行である。但し、より専門分野に特化した銀行も少数含まれている。サンプル行の選択は、内部格付アプローチの構築にあたっての潜在的な政策上の論点ないし考慮事項の実態を把握する意図をもって行われた。論点は、格付制度の構造の多様性、その発展度合いの差異、格付情報の利用状況、格付の対象となるポートフォリオ、格付の付与に際してエキスパートの判断と統計的モデルの何れにより大きく依存しているか、といった点である。これした点の決定は、かなりの程度、各国の事情というよりも各行の事情に左右される要素が強い。

内部格付アプローチが取り得る構造は何か

 そうした枠組の運用方法について詳細を述べることは本ペーパーの目的をはるかに超えており、詳細に関する作成の作業はモデル・タスクフォースと委員会において現在行われている。しかしながら、本ペーパーに含まれている情報に適切な脈絡を与えるため、内部格付アプローチを基本要素に分解してみることは有益である。我々が現在行なっている銀行実務の分析によれば、内部格付アプローチの基盤は以下の要素から成り立っていると思われる。

  • 債務者のデフォルト・リスクに係る当該銀行の評価。本評価は、当該借り手に付与される内部格付、および同格付に関連する測定可能なリスク特性に反映される。
  • 特定の格付内のエクスポージャーを自己資本規制上のバケットに配分するシステム。これは、(殆どのポートフォリオの場合、)借り手のデフォルトに関する定量的概念、デフォルト時の損失発生率(LGD)、およびその他の資産特性(銀行自身が推計、もしくは監督当局がパラメータを付与)をベースに行なわれる。
  • 自己資本規制上の各バケット間の相対的なリスク度をベースに、同バケットに係る自己資本賦課額の開発
  • 格付制度とプロセスの主要特性など、格付プロセスの主要な要素に関するミニマム・スタンダードやサウンド・プラクティスに関する指針、および
  • 本アプローチを評価する監督上のプロセス。エクスポージャーに潜在するリスクに関する全ての所要情報が格付に反映されているか、格付付与のプロセスに問題はないか、格付の前提となる損失推計手法は銀行相互間において、また国際的および時系列的に一貫性を有し、かつ比較可能であるか、といった点を確認する方法を含む。

 委員会は、上記の基盤に新たな要素や精緻化を加える所存である。委員会が最初の内部格付アプローチを提案するために設けた時間的枠組の中で、全ての点について精緻化を行なうことは不可能であるかもしれないが、それらを銀行実務および監督実務の実態に即して漸次織り込んでゆくことは可能であろう。また、それらの要素の一部は、個々の銀行に実務の改善がみられた場合は監督上の評価の対象とする、というかたちで最初の構造とプロセスの中に組み入れることもできる。そうした要素には以下のものが含まれる。

  • その他の資産特性を考慮するために、構造の次元数を増やす。
  • 各次元における測定の単位を更に細分化する。
  • 銀行のデータ収集やデータの質における正確性を提示した際に、主要な入力情報の推計の銀行裁量の度合いを拡大する。
  • 複雑な取引手段の取扱いを更に精緻化する。

本レポートの全文をどこで入手できるか

 市場規律に関するレポート「新たな自己資本充実度の枠組み:第三の柱、市場規律」と、「銀行の内部格付制度の実態」のテキストは、2000年1月18日の欧州中央時間の12時30分より、BIS website(www.bis.org(外部サイトへのリンク)の、"publications"コーナー)から入手することができる。また、バーゼル委員会の事務局やバーゼル委員会のメンバーである銀行監督当局や中央銀行からも入手可能である。