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「自己資本に関する新しいバーゼル合意」に係る作業の近況報告

第2号 日本銀行仮訳

2001年 9月21日
バーゼル銀行監督委員会

 本近況報告の目的は、バーゼル銀行監督委員会(バーゼル委員会)の自己資本小委員会において行われている「自己資本に関する新しいバーゼル合意」に関する作業について、銀行業界、監督当局、およびその他の関係者に情報を提供することにある。自己資本小委員会は、「自己資本に関する新しいバーゼル合意」のうち、標準的手法や信用リスク削減(CRM)手法の取扱いの開発をはじめ様々な分野の作業を担当している。同小員会は、2001年1月に公表された第二次市中協議案に寄せられた多数の建設的かつ有用なコメントを検討してきた。

 自己資本小委員会は、銀行業界やその他の関係者と継続している対話の一環として、担保、保証、クレジット・デリバティブといったCRM手法の取扱いに関して同小委員会において行われている議論の方向について、現段階において情報を提供することは有益であると考える。本ニュースレターは、現行合意に関し、一定の条件の下で自国以外のOECD諸国の公共部門向け債権に関する取扱いを若干修正することについても情報を提供するものである。

 「自己資本に関する新しいバーゼル合意」については、バーゼル委員会の他のワーキング・グループやタスク・フォースがいくつもの作業を行っている。バーゼル委員会は、オペレーショナル・リスク、情報開示、資産の証券化、プロジェクト・ファイナンスをはじめとするスペシャライズド・レンディングなど、様々な論点についてのワーキング・ペーパーを数週間のうちに公表する予定である。

焦点:信用リスク削減(CRM)手法

 CRMに関する新たな枠組みを構築するに当り、バーゼル委員会は3つの目的を追求している。

  •  銀行が信用リスクを健全かつ有効な方法で管理するインセンティブを強めること
  •  CRMの認識について、広範な銀行が採用し得る健全かつ簡素な手法を引続き提供すること
  •  自己資本規制を様々なCRM手法の経済的効果に関連付けると同時に、様々な形態のCRM手法をより整合的かつ柔軟に取り扱うこと

信用リスク削減手法における残存リスク

 バーゼル委員会は、2001年1月の市中協議案において、信用補完のプロセスがプロテクション購入者の期待どおりに機能しない可能性があることから生じる残存リスクが重要である点を強調した。こうしたリスクは担保付取引においても、保証やクレジット・デリバティブにおいても存在しており、信用リスクが担保によって真に削減されているか、あるいは保証やクレジット・デリバティブによって信用リスクが第三者に実効的に移転されているかということについて大きな懸念を生じさせる。1998年にLTCMが破綻に瀕した事例では、こうしたリスクが実証されている 1

  1. 銀行と、レバレッジの高い業務を行う機関との取引に関する健全な実務のあり方」(バーゼル銀行監督委員会、1999年1月)参照。

 当委員会は、こうしたリスクに対処するため、担保と保証、クレジット・デリバティブのそれぞれ一定の条件の場合に適用する、いわゆるWファクターを導入することを1月に提案した。当委員会には、自己資本充実度の枠組みの中でこうしたリスクをどのように扱うべきかについて広範なコメントが寄せられており、自己資本小委員会は本件について作業を継続してきた。自己資本小委員会は、更なる検討の結果、提案している枠組みの第一の柱、すなわち最低所要自己資本の枠組みの下でWファクターによって捕捉するよりも、第二の柱、すなわち監督上の検証においてこうした残存リスクを取り扱うことが最も有効であろうと考える。自己資本小委員会は、こうした扱いにより、CRM手法について十分に簡素、実務的かつリスク感応度の高い枠組みをもたらすことができると確信している。この考え方は、バンキング勘定の金利リスクについて当委員会が先に採用したものと同様であり、本件についても同様に詳細な指針を追加的に作成することになろう。自己資本小委員会は、CRM手法に係る有効なリスク管理を確保するとともに、関連するリスクが十分な自己資本によりカバーされるような全体的な枠組みを示すために、今後数ヵ月間にわたって作業を行う予定である。

トレーディング勘定におけるリスク削減手法の取扱い

 トレーディング勘定におけるCRM手法、特にレポ取引等の担保付取引やクレジット・デリバティブの扱いは、市中協議の過程において当委員会にとりわけ多くの質問が寄せられた分野である。

 2001年1月の第二次市中協議案では、バンキング勘定における担保の取扱いについて2つの選択肢が提示された。すなわち、包括的手法と、これよりやや保守的な簡便手法である。1月の提案では、トレーディング勘定における担保の取扱いについては何らの提案も行われなかった。バーゼル委員会が目指しているのは、同等のリスクを同等に取り扱うことである。現在、レポ形式の取引(すなわち、レポ取引、リバース・レポ取引、証券貸借取引)がバンキング勘定に記帳されるかトレーディング勘定に記帳されるかは、各国の会計基準によって異なっている。したがって、自己資本小委員会は、トレーディング勘定に記帳されているレポ形式の取引および担保付OTCデリバティブ取引のカウンターパーティー信用リスクに対する所要自己資本を算出する際に、包括的手法を用いることをここに提案することとした。この枠組みにより、両勘定間の取扱いは整合的となる。もちろん、トレーディング勘定のポジションには、マーケット・リスク規制 2に基づいて、一般市場リスクおよび個別リスクに対する自己資本が従来通り賦課される。

  1. 2「マーケット・リスクを自己資本合意の対象に含めるための改定」(バーゼル銀行監督委員会、1996年1月)

 トレーディング勘定にあるクレジット・デリバティブのうち、単なるトレーディング目的で行われている取引に対しては、マーケット・リスク規制に基づく現行のルールが(1月に公表された市中協議案のパラグラフ583から585に沿って)ほぼそのまま適用されることになろう。

 トレーディング勘定にあるクレジット・デリバティブの取扱いをバーゼル委員会が検討する際に目指していることの一つは、自己資本規制の抜け道(regularoty arbitrage)の可能性を最小限に抑えることである。具体的には、銀行が自己のトレーディング勘定のクレジット・デリバティブを用いてバンキング勘定のエクスポージャーをヘッジすることにより、所要自己資本をバンキング勘定において必要とされる額よりも削減するのではないかということと関連する。銀行の実際のリスク・プロファイルは、当該クレジット・デリバティブがどちらの勘定に記帳されていようと不変であろう。

 自己資本小委員会は、既に多くの監督当局により実施されているルールを明示することを検討している。このルールは、自らのトレーディング勘定にあるクレジット・デリバティブを用いてバンキング勘定のエクスポージャーを内部的にヘッジする場合、規制上の所要自己資本について何らかの効果を得るためには、当該信用リスクを外部の第三者(すなわち、適格な信用補完提供者)に移転しなければならない、というものである。ヘッジ対象となっているバンキング勘定のポジションに対する所要自己資本を算出する際は、バンキング勘定のクレジット・デリバティブの取扱いに関する1月の市中協議案の内容が適用されることになろう。

 最後に、現行合意における将来の潜在的エクスポージャーを算出する際に用いられるアドオン・マトリックスは、明示的にはクレジット・デリバティブを対象としておらず、各国ごとに異なるルールが適用されている。自己資本小委員会は、この取扱いを統一するための作業を行っている。

レポ形式の取引に係るヘアカットの算出

 第二次市中協議案における担保付取引に関する提案は、個別取引毎に適用することを前提としている。業界からは、典型的な担保付貸出については本枠組みが有効だが、レポ形式の取引は通常マスター・ネッティング契約に基づいて取引相手毎にポートフォリオ・ベースで管理されている、とのコメントが多く寄せられた。こうした状況の下で上記の枠組みを適用すれば、実際の経済的リスクに照らして過大な所要自己資本が課されることになろう。マスター・ネッティング契約が用いられている場合、金融機関は同一の取引相手との間において、契約でカバーされたレポ形式の取引全体について追加証拠金の受取りを一括して管理することが可能になり、また、当該取引相手の支払いの不履行があった場合はエクスポージャーをネッティングすることができる。同小委員会は、こうした取極めの効果をCRM手法の枠組みの中により良く反映する方法を検討中である。銀行界はまた、こうした取引に関わる様々な証券の価格変動リスクを推計する際にVaRモデルを用いることが多い旨コメントしている。自己資本小委員会は、業界と議論を行い、こうしたVaRモデルの活用が包括的手法においてどのように認識できるのかという点を検討している。

OECD諸国の公共部門に対する現行合意でのリスク・ウェイト

 現行合意の下で、OECD諸国の当局は中央政府以外の自国の公共部門に対して銀行が有するエクスポージャーに0%もしくは10%のリスク・ウェイトを適用することを認められているのに対し、自国以外のOECD諸国の公共部門に対する債権には20%のリスク・ウェイトのみが適用できることとなっている。バーゼル委員会は、こうした取扱いは国内銀行と外国で設立された銀行との間に競争上の公平性の問題を提起すると考えている。このため、当委員会は、あるOECD諸国が自国の公共部門に対して0%もしくは10%のリスク・ウェイトを適用する場合には、外国の当局は自国の銀行に対して同じリスク・ウェイトの適用を認めることができるようにすることを決定した。

以上

 バーゼル銀行監督委員会

 バーゼル銀行監督委員会は、1975年にG10諸国の中央銀行総裁会議により設立された銀行監督当局の委員会である。同委員会は、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、ルクセンブルグ、オランダ、スペイン、スウェーデン、スイス、英国及び米国の銀行監督当局ならびに中央銀行の上席代表により構成される。欧州委員会と欧州中央銀行もオブザーバーとして議論に参加している。現在の議長は、ニューヨーク連邦準備銀行総裁のWilliam J. McDonoughである。委員会は通常、常設事務局が設けられているバーゼルの国際決済銀行(BIS)において開催される。

 自己資本小委員会

 バーゼル委員会の自己資本小委員会は、現行合意の改訂作業および、「自己資本に関する新たなバーゼル合意」における標準的手法と信用リスク削減手法に係るルールの開発について主導的な役割を果たしている。現在の議長は、英国金融サービス機構・大規模金融グループ局の局長であり、バーゼル委員会メンバーであるOliver Pageである。

 過去の「近況報告」

 こうした形式での初回の近況報告は1999年11月に公表されており、BISのウェブサイト(www.bis.org(外部サイトへのリンク))で入手可能である。