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バーゼル委、新しい自己資本合意に関する幾つかの論点に関し合意

2002年 7月10日
バーゼル銀行監督委員会

仮訳 プレス・リリース

バーゼル銀行監督委員会のメンバーは、2002年7月10日に行われた会合において、当委員会が2001年1月の市中協議文書を発表して以降検討してきた、自己資本に関する新しいバーゼル合意についての多くの重要な論点に関し合意に達した。当会合において、バーゼル委員会は信用リスクに対する標準的手法及び内部格付手法双方に関する一連の論点について検討した。この過程で、当委員会は世界の大多数の銀行で使用される、修正標準的手法の重要性を再確認した。バーゼル委員会は、市場参加者及びその他の方々から頂いた、これらの重要な論点のそれぞれについての建設的なインプット及びフィードバックに感謝する。

  • 当委員会は、多くのクレジットカード与信を含む、一定のリボルビング形態のリテール与信に対し、リスクをより正確に反映するために、内部格付手法におけるリスクウェイト曲線をもう一つ新たに設けることを承認した。
  • 最も先進的な内部格付手法を使用する銀行は、規制自己資本額の計算上、融資の残存する期間(マチュリティ)を考慮することが必要とされている。しかしながら、当委員会は、各国の監督当局は小規模の国内債務者について、この要件を免除しても良いということを確認した。
  • 当委員会は、中小企業が新しい合意の下でより適切な取扱いを受けるように、内部格付手法並びに標準的手法における事業法人向け及びリテール与信の取扱いの枠組みにおいて、新たにいくつかの要素を盛り込むこととした。
  • オペレーショナル・リスクについては、当委員会は、第一の柱による自己資本の取扱いを再確認したが、先進的計測手法において銀行の計測及び管理システムの開発に大きな柔軟性をもたせる必要があることを認識した。当委員会は、先進的計測手法において提案されていた、所要自己資本に対する個別の下限(フロア)を撤廃することに合意した。
  • 当委員会は、基礎的内部格付手法と先進的内部格付手法の間の所要自己資本額の乖離幅を狭めることに合意した。また、当委員会は、所要自己資本のフロアの構造を現行合意下の所要資本を基準としたものに修正することとし、オペレーショナル・リスクにおけるフロアを撤廃して、実施後最初の2年間は所要自己資本額全体に対する単一のフロアを適用することに合意した。
  • 内部格付手法の下で自己資本比率の循環的変動がありうるという懸念に対し、当委員会は、信用リスクに対する意味ある範囲で保守的なストレステストを銀行が実施することを、内部格付手法における要件とすることに合意した。これは、新しい合意における第二の柱の下、銀行が十分な資本のバッファーを持っていることを確保するための手段となる。

今後の日程

上記の論点について合意に達したこと、並びに資産証券化と特定資産のみを返済源とする融資(スペシャライズド・レンディング)の取扱いに関する技術的な議論において大きな進展が見られたことを踏まえ、バーゼル委員会は本日、新しい合意の取りまとめに向けた今後の日程について確認した。

さらに、バーゼル委員会は、G10諸国及び非G10諸国双方の各国監督当局と共同で、2002年10月1日に、第三次定量的影響度調査(QIS3)を行う予定である。これにより、銀行は、当委員会の提案が自行にどのような影響を与えるかについての具体的かつ包括的な評価を行うことができる。銀行は、当該評価結果を、2002年12月20日までに提出することが求められる。このため、銀行が10月の影響度調査の準備が出来るように、当委員会は、来週、QISの概要を銀行に配布する予定である。

QIS3の記入要領の最終版は、当委員会が提案する枠組みと定量的な基準の全体像を提供するものであり、上記の日時に公表される。加えて、当委員会は、当合意を改定する過程で検討を進めてきた多くの広範な論点とテーマ(例えば、複雑さの度合いとリスク感応度との間のバランスの取り方、内部格付手法の下での自己資本比率の循環的変動)を取り扱う概論ペーパーを公表する予定である。

QIS3に含まれる様々なリスクに対する所要自己資本は、銀行システム全体としての規制自己資本の合計額が、大きく増減すべきではないという当委員会の目標と整合的であるように設計されている。QIS3の結果によって、当委員会は、2003年第2四半期にパブリックコメントに付される予定の改定見直し案の公表前に、必要な修正を行う。

当委員会は、2006年末に新たな枠組みを各国で実施できるようにするため、2003年第4四半期に新しい自己資本合意を取りまとめる予定。この3年間に、銀行と監督当局は、新しい自己資本合意の基準に合致するよう、所要の制度と手続きを改正、発展させることが期待される。内部格付手法、および先進的計測手法を適用する銀行については、実施前の1年間にわたり現行の自己資本合意に基づくものと同時並行的に所要自己資本額の算出を求められる。

当委員会は、多くの監督当局が、新しい合意の導入を希望するかもしれないことを認識している。同時に、当委員会は、1988年のバーゼル合意を導入した100以上の国々の幾つかでは、導入がかなり最近のことであり、新しい枠組みを実施するには2006年以降まで時間が必要であるかもしれないということも認識している。また、当委員会は、各国に、新しい合意の効果的な実施に必要な準備を継続するよう奨励しており、QIS3への参加に興味を示した世界の銀行や監督当局からは、これまでのところ好意的な反応を得ている。

以下の数節は、上述の幾つかの論点に関する当委員会の諸決定についてのより詳細な記述である。

中小企業向け与信の取扱い

中小企業が借り手の場合にはリスクが異なることを認識して、内部格付手法において、銀行は中小企業債務者(年間売上高5千万ユーロ未満と定義)を、より大きな企業向けの融資と別に取り扱うことが許される。この取扱い案の下では、中小企業向け与信は、より規模の大きな企業向け与信に比べ、該当する所要自己資本がより小さくなることが可能となる。所要自己資本額の削減率は、債務者の規模に応じ、20%を上限として規定される。事業法人向け信用の内部格付手法の枠組みにおける中小企業債務者の全体で、結果として平均約10%の削減率とする。

さらに、リテール与信と同様の方法で管理されている小規模事業資金融資については、銀行は、各々の中小企業に対する当該銀行からの与信額が合計で100万ユーロ未満である場合に限り、当該与信を内部格付手法におけるリテール与信の枠組みで取り扱うことが認められる。標準的手法においても、同様な閾値が設けられる。

マチュリティの取扱い

事業法人向け融資について先進的内部格付手法を使用する銀行(当該国監督当局が基礎的内部格付手法においても調整を行なうと決めた場合には基礎的内部格付手法を使用する銀行も同様)は、時価法をベースに計算された調整係数を用いて、所要のマチュリティの調整を組み入れることが求められる。しかしながら、各国の市場にはそれぞれ固有の特性があるので、監督当局は、マチュリティ調整の枠組みから、より小規模な国内の企業(連結売上高と連結資産がいずれも5億ユーロ未満の先と定義)を除外する選択肢を有する。この規定は、銀行ごとにではなく、一国全体で適用される。この除外規定が適用される場合には、適格な小規模国内企業向けの全ての与信は、基礎的内部格付手法の場合と同様、平均マチュリティを2.5年と想定することとなる。

リテール与信の枠組み

よりリスク感応的な規制とするための努力の一環として、住宅ローン以外のリテール融資(その他リテール融資)の取扱いについて、二つの異なる内部格付手法のリスクウェイト曲線を用意することとした。その他リテール融資に対する第一の曲線は、第二の曲線の使用が認められない与信に対して適用され、昨年11月に提案された曲線よりわずかに高い所要自己資本額が必要となる。第二の曲線は、要件を満たすリボルビング形態の与信に適用され、その所要自己資本額は、当委員会により以前提案されたものを大きく下回る。

リテールの内部格付手法の下で見込まれる所要自己資本額の変化と整合性を取るために、住宅ローンの標準的手法下のリスクウェイトは50%から40%に引き下げられる。住宅ローン以外のリテール与信(与信額百万ユーロ未満の中小企業向け与信を含む)は、100%から75%に引き下げられる。

オペレーショナル・リスク

多くの銀行が、手法の開発に大きな進歩をみせており、これはオペレーショナル・リスクに対する所要自己資本額の計測と、同リスクの管理を改善する可能性を秘めている。

バーゼル委員会は、この進歩が継続するものと予測している。当委員会は、オペレーショナル・リスクに対し現在探究されているいくつかの異なる手法の詳細について、さらに作業が進むことを強く奨励する。特に、当委員会は、業界内の協力と情報共有が、オペレーショナル・リスクに対する手法をさらに高度化させるための重要な要素であると信じる。

この大きな進歩を背景に、当委員会はオペレーショナル・リスクに対して第一の柱によるアプローチを推進する意思があることを再確認する。しかしながら、オペレーショナル・リスクの分析手法が継続的に進展していることに鑑み、オペレーショナル・リスクの計測と管理システムの開発において、先進的計測手法が銀行に対して大きな柔軟性を与えるようにしたいと当委員会は考えている。従って、当委員会は、オペレーショナル・リスクに対し、もはや先進的計測手法における所要自己資本額のフロアを義務づけない。当委員会は、業界と密接に作業し、オペレーショナル・リスクに対する手法の進歩をモニターしていく予定である。

全般的な所要自己資本

当委員会が行ったこれまでの影響度調査において判明した懸念の一つは、内部格付手法における基礎的手法と先進的手法の所要自己資本額について、潜在的な乖離が存在することである。この乖離幅をある程度狭めるために、基礎的手法における平均マチュリティの前提を3年から2.5年にするほか、基礎的内部格付手法における監督当局設定の「デフォルト時損失率」(LGD)の値を大部分について5パーセント・ポイント(例:優先無担保債権を50%から45%とする)削減する。これらの諸変更は、内部格付手法における事業法人向け信用のリスクウェイト関数の変更と併せて行われ、それによって相殺されることになる。

より根幹に関わる点としては、当委員会は改定合意における所要自己資本のフロア構造の変更を提案している。この新しい手法の下では、新しい合意の実施後当初2年間は、規制資本に対する一本のフロアが設定される。このフロアの水準は、現行合意の規定を使用して算出された結果に基づくものである。2006年末から開始し、実施後1年間は、内部格付手法の信用リスクとオペレーショナル・リスクに対する所要自己資本額は、現行の所要自己資本額の90%を下回ってはならず、また2年目は、最低水準は当該水準の80%となる。この期間に問題点が明らかになった場合、当委員会はこれらに対処する適切な手段を講じたいと考えているほか、特に必要があれば、2008年以降も本フロアを継続する準備がある。

QIS3に盛り込まれたさまざまな与信に対する所要自己資本は、銀行システム全体としての規制自己資本の合計額が、大きく増減すべきではないという当委員会の目標と整合的であるように設計されている。しかしながら、QIS3の結果が、幾分の調整が必要であることを示す可能性はある。当委員会は、第三次市中協議文書の発表までに、所要自己資本額について上方修正及び下方修正いずれかを行う用意があるので、この点、十分留意されたい。

ストレステスト

内部格付手法の下で自己資本比率の循環的変動がありうるという潜在的な懸念に対して、バーゼル委員会は2001年11月に、著しく傾きの小さなリスクウェイト関数を事業法人向け信用に対して適用し、内部格付の方法についての基準を修正して、銀行に対し、景気循環を通じた変動もよく考慮に入れて格付を行なうよう薦めることとした。当委員会は、内部格付手法に信用リスクのストレステスト要件を追加することでこれらの対策を補完することに合意した。

信用リスクに対して内部格付手法を適用する銀行は、特定のストレスシナリオ下において内部格付手法による所要自己資本がどの程度増加するかを推計する目的で、自ら設定した保守的なストレステストを行うよう要求される。銀行と監督当局は、このようなストレステストの結果を、新しい合意の第二の柱の下で銀行が十分な資本のバッファーを有することを確保するための手段として利用することとなる。

新たな枠組みの構造

当委員会は、改定合意の構造を明確化かつ簡素化するための作業を進展させている。特に、新たな枠組みのうち市場規律の部分(第三の柱)について注意が払われた。当委員会は、いかなる金融機関にも過度の負担を課すことなく、銀行のリスク特性を理解するための十分な情報が投資家に与えられることを目指している。それ故、開示にかかる要件については、この目的を達成するために必要な項目のみに絞って簡素化されてきている。

もう一つの強調すべき点としては、内部格付手法における最低基準を簡素化する取組みが挙げられる。これらの要件は、自己資本規制のために銀行の内部格付を使用することにおいて十分なレベルの信頼性及び整合性が確保されるように作成されてきた。当委員会は、最近、この最低基準について再検討した。イノベーションや、銀行組織の経営手法における適度の相違を許容しつつ、当該要件を整合的に適用できるようにするために、諸修正が行われている。またタイミングと範囲の両面で、銀行の様々なポートフォリオにまたがり内部格付手法を銀行が実施するに際して、さらなる柔軟性を認めるための修正が行われた。

当委員会は、適切な範囲で新たな自己資本の枠組みをより簡素化する手段を引き続き追求する。

当委員会は、これまでの進歩に満足しており、来年末までに新しい合意が成功裡に取りまとめられることを期待している。