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電子納付(ペイジー)の更なる発展のために

2007年5月29日
日本銀行業務局

 本稿は、2007年5月24日に開催されました日本マルチペイメントネットワーク運営機構総会における日本銀行業務局審議役・大川昌利の説明要旨です。

はじめに

 ただいまご紹介頂きました日本銀行の大川でございます。本日は、日本マルチペイメントネットワーク運営機構の19年度通常総会にお招き頂き、誠にありがとうございます。また、ここにお集まりの皆様の多くには、日頃より、日本銀行の代理店や歳入代理店事務を担って頂いており、この場を借りて、厚く御礼申し上げます。

 申し上げるまでもなく、マルチペイメントネットワークは——以下、MPNと呼ばせて頂きますが——、国庫金、地方公金、各種料金等の電子納付を可能とした先進的なネットワークであり、わが国の決済インフラにおいて重要な地位を占めています。このネットワークを用いた電子納付は、「ペイジー(pay-easy)」という愛称で親しまれており、18年度の取扱量も、件数は2千2百万件で前年度の1.4倍、金額は1.6兆円で前年度の1.9倍とかなり大きく成長してきており、そのプレゼンスが年々着実に高まっていることを喜ばしく思います。また、その背景として、MPNの運営主体である運営機構や会員・関係先の皆様が日々安定運行、利用促進に向けてご努力を積み重ねてこられたことが大きく寄与しているものと拝察し、心より敬意を表したいと思います。

 さて、本日は、貴重な機会を頂戴しましたので、皆様にもご協力を賜っている国庫金事務に関する電子化、特に国庫金電子納付の現状を概観した後、MPNに関し、私ども日本銀行でも特に注目している最近の動きに言及したいと思います。そのうえで、電子納付・ペイジーの更なる利用促進に向けた展望につき、お話させていただきます。

国庫金事務電子化、電子納付の現状

(国庫金事務電子化の進捗)

 まず、国庫金事務の電子化についてお話します。国庫金の受払に関する事務には、国税、社会保険料、交通反則金等の受入れや、年金、公共事業費等の支払いがあります。こうした国庫金の受払事務には、「政府の銀行」である日本銀行のほか、政府機関や多くの金融機関も関わっており、その電子化は、こうした関係機関の連携・協力を得ながら、進めてきました。その際には、国民の利便性向上に加え、日本銀行や関係機関の事務合理化も目的として、従来の業務をそのまま電子化するのではなく、業務の見直しや標準化・共通化も併せて進めていくこととして参った次第です。

 日本銀行は5か年間にわたる中期経営戦略を策定、実施していますが、その中でも、国庫金事務の電子化は、「安全で効率的な決済システム・市場基盤の整備」という主たる戦略の一環として重要な位置付けを与えているところであり、これを年度毎にブレイク・ダウンして策定した具体的な施策としても、例えば、18年度には、(1)国庫金支払事務電子化の対象範囲の拡大、(2)電子納付の利用促進等を掲げ、組織として鋭意取り組んできたところです。

 こうした中、図表1に示していますように、国庫金事務の電子化状況を件数ベースの比率でみると、まず、国庫金の支払いにおいては、磁気テープを媒体とするMT処理が8割を占める中、18年9月に国税還付金払込事務のオンライン処理が開始されたことから、オンライン処理の比率が上昇する一方で、紙処理の比率は引き続き低下傾向を辿っています。また、国庫金の受入れにおいては、MT処理が主体となる口座振替の比率は18年度に年度末の休日要因で若干低下しましたが、電子納付の比率はまだまだ低い水準ながらも上昇傾向を辿っており、その一方で、紙処理の比率は年を追うごとに低下してきています。このように、国庫金事務の電子化は着実に進展してきている状況にあります。

(国庫金電子納付の現状)

 このうち国庫金電子納付を巡る施策について少し説明を加えさせて頂きます。日本銀行としても、電子納付の仕組みづくりに関与した立場として、これまで各方面に種々の利用促進のための働き掛けを行うとともに、電子納付に関する歳入代理店手数料を昨年4月より従来比5割増しとするなどの措置を講じてきました。こうした対応の中で、制度面では、官庁サイドの前向きな取組みもあり、交通反則金等ごく一部のものを除いて殆どの国庫金が電子納付可能となったほか、電子納付が取扱可能な金融機関の数も、歳入代理店委嘱金融機関の中で、現状、9割を超える水準に至りました。

 また、日本銀行では、ホームページ上で「国庫金事務の電子化」というコーナーを設けて電子納付の仕組みが一覧できる解説資料を掲載するとともに、電子納付の取扱金融機関が追加されるたびに関係資料と合わせてプレスリリースするなど、電子納付についてのPRに努めているところです。

 こうした中、図表2で示していますように、電子納付の取扱状況をみると、件数が着実に増加しており、口座振替を除く全納付件数に占める電子納付の比率についても、19年2月に初めて1%を上回った後、直近4月には1.4%と飛躍しています。また、年度ベースでみても、18年度は、前年度の1.7倍と大きく伸びています。

 ただ、水準自体はまだ満足し得るものではなく、日本銀行としても、関係先とも連携を図りながら、電子納付の仕組みがもっと使われるようにするにはどうしたら良いか知恵を絞っていきたいと考えております。

電子納付に関連した最近の動き

 電子納付の更なる利用促進に向けては、引き続き、納付者の認知度を高め、かつ利便性や信頼性を一段と向上させることが重要だと考えられますが、既に、関係先の間では、種々の取組みがなされており、これらの動きに対しては、私ども日本銀行としても、大変心強く感じている次第です。以下、そうした最近の動きにつき3点ばかり私どもなりの解釈も交えつつお話したいと思います。

(ネットワークの更なる活用)

 まず注目したいのは、MPNの活用範囲を随時の口座振替にも拡げようというもので、関税、特許料を対象に検討されています。

 若干敷衍しますと、税関の輸入許可や特許の手続では、官庁の審査終了後における関税や特許料の納付が要件となっており、即座に手続の効力を得るためには審査終了直後の納付が必要です。このため、納付者サイドでは、事前の資金提供、具体的には、関税は他に転用出来ない専用口座への事前預入れ、特許は印紙を予め官庁に預ける対応を行うのが一般的となっています。ただ、いずれも納付者にとって資金効率が悪く、以前より改善要望が出されていました。この点の対応として、関税局や特許庁は、出し入れの制限のない一般口座からの随時振替を展望しつつ、当初は、双方で別のオンライン処理スキームの採用が検討されていました。しかしながら、新スキームの構築は大きなコスト負担を伴うことから、日本銀行としては、関係先の意見を慎重に確認しつつ、官民双方のコスト負担が出来るだけ軽くなる方策を模索すべきではないかと、関係先に提言しました。その後、官庁、金融機関、そしてMPNの事務局での検討・調整が続けられた結果、この春先には、既存のMPNの活用をベースとすることで、コストを抑え、比較的多くの金融機関が参加し得る枠組みがほぼ描けたと伺い、当方としても喜んでおります。

 本件は、MPNの基本的な機能に官庁側のニーズを踏まえて多少のカスタマイズを行う予定であると聞いており、こうした検討事例をみると、MPNの活用余地はまだまだあると改めて心強く感じた次第です。

(決済リスク軽減への取組み)

 2つめに注目したいのは、MPNに内在する決済リスクへの対応策が強化された点です。

 関係者の方はご存知の通り、別途取決めのある国庫金以外の電子納付に関しては、現在、MPNセンタで受払の差引き計算・集計を行った後、その情報に基づき資金決済幹事行を通して各金融機関の間での資金決済および収納機関の幹事金融機関への収納金集約が行われます。その際、仮に資金決済額不払金融機関が発生した場合には、予め定められた流動性供給銀行が運営機構からの要請により資金決済幹事行に対し不足資金を供給する取決めとされています。

 こうした中、国庫金以外の電子納付が対象となりますが、ネットワークの安全性を一層高める観点から、運営機構において、今年度から2点の見直しがなされました。1つは、万一の場合に不足資金を供給する流動性供給銀行の数を増やすとともに、その流動性供給総額も、上位金融機関2先の負け合計額を目安に、大幅に増額した点です。もう1つは、資金決済事務が滞ることのないよう、その事務を集中処理する資金決済幹事行を補完するポジションとして、資金決済代行行を新たに設置し、複数の大手金融機関がその任に当たることとなった点です。このように、MPNの決済ボリュームの拡大等を踏まえ、自主的な決済リスク対策を取られたことは、「機動的かつ円滑な制度運営の確保」や「金融機関間の資金決済の安全性向上」といった観点から歓迎すべきものであり、関係者の高い見識に改めて敬意を表したいと思います。

 こうしたネットワークの安全性を高める措置は、ひいては利用者や関係機関の信頼向上に繋がり、MPNの発展に繋がる対応と考えております。

(地方公金、各種料金における拡充)

 3つめは、関係者のご努力もあって、電子納付可能な地方公金や民間の各種料金の種類が増えてきていることが挙げられます。件数ベースでは、電子納付全体のうち、18年度は、地方公金が25%、各種料金が72%を占めていますが、前年度対比では、地方公金が2.4倍、各種料金が1.2倍と大きく伸びています。国庫金の支払いにはあまり縁のない人でも、地方公金である自動車税や固定資産税、また、インターネットでの商品購入やオークション代金等の支払いであれば、関係があるという人は多い筈で、電子納付の普及に弾みがつくことに期待が掛かります。また、同時に、電子納付の利用層が拡充されることは、金融機関サイドにおいても、より利便性の高い装備対応や合理化に資するシステム投資を行う強いインセンティブになると考えられます。そういう展開となれば、元々、MPNは、国庫金も、国庫金以外も共通の基盤で処理されていますので、国庫金の納付者にとっても、利便性の高い環境が提供されるという好循環が期待されるところです。

 こうした中で、特に伸びの大きい地方公金につきやや仔細に申し上げたいと思います。言うまでもなく、地方公共団体にとって、電子納付の実現は相応のシステム投資を要することになり、その取組みも、各地方公共団体間で濃淡があるのが現状です。こうした中、地方公金の電子納付可能化のきっかけとなる動きの一つとして、自動車保有手続のワンストップサービスが挙げられます。このサービスは、自動車を保有する場合に、国と地方の行政機関にまたがる、各種手続や税・手数料の納付をオンラインで一括して行えるものであり、17年12月に一部の地域を皮切りとしてスタートし、20年度末までに全国展開される予定です。また、地方税に関しては、全国共同のインフラである‘eLTAX(エルタックス)’と呼ばれる電子申告システムをベースに、電子納税を可能とするシステムが現在開発途上にあり、20年度以降、順次各地方公共団体に導入されていく見通しです。こうした動きは、地方公金の電子納付拡大に一層拍車を掛けるものと期待されます。

 一方で、その他の料金・代金等支払いに関しては、多くの人々に関係のある電力・ガス・水道といった主要な公共料金の電子納付が待たれるところです。データボリュームの極めて大きい分野だけに、収納機関サイドのシステム対応もかなりハードルが高いものと思われますが、実現すれば、そのインパクトは計り知れず、実現に向けた関係者のご努力に望みを託したいと思います。

電子納付の更なる利用促進に向けた展望

 最後に、電子納付・ペイジーの更なる発展を目指すうえで、現時点での見通しや期待したい取組みなどを幾つか述べさせて頂きます。

 電子納付に関しては、先ほど申し上げた動きのほかに、幾つか利用促進に向けた取組みがなされています。18年度も、電子納付を含めた政府の電子手続全般に関する各地のイベント、電子納付の懸賞付きキャンペーンやポスター等による広告が展開されました。これらには、私ども日本銀行も参加・協力させて頂きましたが、これらのイベントに参加した利用者の反応を伺いますと、電子納付に関しては、納付書に記載されている3種類の番号をパソコンやATMに打ち込むだけで良いので、意外と簡単ではないか、という感想が多く聞かれ、強い手応えを感じたところです。

 こうした中、官庁への申請・申告といった手続が電子納付に先立って必要とされる場合があり、例えば、国税の確定申告では、まずオンラインで申告手続を行って官庁サイドにデータを送信した後に、それを前提に電子納税するといった対応が一つの手順となります。こうしたケースでは、電子申告等の電子手続がより簡便で身近なものになれば、電子納付も大きく飛躍するのではないか、と考えられます。この点、政府サイドでは、電子手続に関し22年度までに利用率50%を達成するという高い目標を掲げており、比較的利用者の多い、登記、国税、社会保険・労働保険といった分野を中心に、手続面での改善方針を相次いで打ち出していますので、できるだけ早い段階での実現を期待したいと思います。

 その一方で、一部の関係者からは「電子申告件数の拡大がそのまま電子納付に繋がっている訳ではない」との指摘があるなど、電子納付自体に内在する問題も幾つか残っており、その多くは金融機関サイドの取組みに関わる部分となっています。費用の問題など難しい面がありますが、2点ばかり期待も込めて申し上げたいと思います。

 1つめは、電子納付対応のATMを設置している金融機関は今のところ僅か8先に止まっている点です。私ども日本銀行にも納付者からの照会がしばしば寄せられますが、そのうち、電子納付が出来るATMはどこにあるのか、という問い合わせも散見されます。実際、先ほどの図表2をご覧いただいても分かるように、ATM経由の電子納付は大きく伸びており、大雑把にみて、直近月では、パソコン・インターネットが5割、ATMが4割という構成です。インターネットバンキングを利用していない人やその金融機関に口座を持たない人でもATMであれば電子納付が出来る仕組みとなっていますので、現時点では、電子納付対応ATMを設置している8先に納付者が集まっているものと思われます。私どもとしては、ATMの潜在的なニーズはもっと高いとみており、ATM対応先が増えれば、電子納付の件数も大きく伸びるのではないかと期待しているところです。先ほど申し上げましたように、電子納付の対象が地方公金や各種料金においても拡がりが出てきている状況ですので、金融機関における事務合理化という観点も踏まえ、可能な限り前向きな検討をお願いしたいと思います。

 2つめは、インターネットバンキングでの改善です。電子納付・ペイジーは「いつでも、どこでも」というのがセールストークで、MPN自体は24時間稼動していますが、残念ながら、金融機関のサイトでは、深夜は対応していないなど、必ずしも24時間対応とはなっていないケースが多いように見受けられます。また、法人に関しては、法人インターネットバンキングが費用やリスク管理面での問題で普及が遅れており、これが法人サイドの電子納付が進まない原因の一つであるといった指摘も聞かれます。こうしたインターネットバンキング面でも、ATM同様、費用対効果を勘案しつつ、積極的な改善を期待したいところです。

おわりに

 縷々申し上げてまいりましたが、日本銀行としましても、19年度も引き続き業務運営方針の中で国庫電子化に係る利用促進を掲げており、今後とも、納付者がもっと電子納付・ペイジーを使う環境を整えるにはどうしたらよいか、また、収納機関、金融機関のニーズを踏まえ、MPNの用途を拡大させる方策はないか、といったことを考えつつ、電子納付・ペイジーの認知度を引き上げるための広報活動に力を入れるとともに、関係者との情報の共有やアレンジ、提言といったかたちで、少しでも貢献してまいりたいと考えております。

 電子納付・ペイジーの更なる発展を祈念し、私の話を終わらせていただきます。

 ご清聴、ありがとうございました。

以上

本件についての照会先

日本銀行業務局国庫業務企画担当

福西 03-3277-1422、yasuhiro.fukunishi@boj.or.jp