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電子納付の拡大・発展に向けて

2004年 6月 3日
日本銀行業務局

 本稿は2004年 5月27日に開催されました日本マルチペイメントネットワーク運営機構総会における日本銀行業務局企画役・秋山修の説明要旨です。

 ただいまご紹介いただきました日本銀行の秋山です。本日は、日本マルチペイメントネットワーク運営機構の平成16年度通常総会にお招きいただき、お話をする機会をいただきまして、誠にありがとうございます。

1.はじめに

 まずはじめに、ITの先進的な成果を金融機関の収納業務に取り入れ、顧客の利便性向上と事務の合理化を同時に図ろうというマルチペイメントネットワークの意欲的な取り組みを高く評価いたしますとともに、ここにご列席の多くの金融機関が、この優れた仕組みを机上の空論に終わらせることなく、実際の実務の中で実現しておられることに対し、心から敬意を表したいと存じます。

 さて、本日は、本年1月に開始された国庫金電子納付の意義について一言述べさせていただいた後、今後、電子納付がわが国に定着し、拡大・発展していくために必要なことは何か、といった観点から、若干のお話しをさせていただこうと思っています。

2.国庫金電子納付の意義

 本年1月から、マルチペイメントネットワークを利用した国庫金の電子納付がスタートし、金融機関のインターネットバンキングやATMを通じて国庫金が支払えるようになりました。これまでのように金融機関の窓口の時間にとらわれず、「いつでもどこでも」国庫金が支払えることになったのは、納付者にとって大きな利便性の向上ですし、領収済通知がデータ伝送されるようになったことで、関係機関の事務合理化にも資することとなりました。

 このプロジェクトの意義は、そうした結果としての効果のみならず、実現までのプロセスにおいて、非常に多くの関係者が一つの目標に向かって一体となって取り組み、予定どおり実現に漕ぎ着けたということにあると思います。官庁側では、それぞれの官庁の固有事情を超えて国庫金の共通仕様ということに意を用いていただきましたし、金融機関の皆様におかれても、歳入事務取扱金融機関の約8割が電子納付に対応していただきました。

 こうしたことは、実現してみると何でもないことのように思えますが、その過程においては、各関係者がそれぞれの事情や悩みを抱えながらも、大きな方向に向かって、将来に向かって、重い決断をされてきたことの積み重ねであります。冒頭、ご列席の金融機関の皆様方に敬意を表しましたのは、そのような意味を込めたものです。

 さて、そのようにして立ち上がった電子納付ですが、今後、これをわが国に定着させ、拡大・発展させていくためには、これまでと同様、関係者が一体となった取り組みが必要であろうと考えております。そのための課題はいくつもあると思いますが、本日は、大きく二つの点についてお話ししたいと思います。

3.電子納付の利用促進

 一つめの課題は、電子納付の裾野の拡大であります。電子納付が実現し、稼働開始した以上、その利用の拡大は、関係者共通の願いであります。

 その一環として、私どもでは、引き続き、国庫金の対象範囲の拡大に注力しております。今年度中には、競売の入札保証金などの「保管金」、選挙や債務弁済に当たっての「供託金」、地方公共団体から政府への「財政融資資金」の返済、等を電子納付の対象とすべく、政府と連携しながら準備を進めています。これらは、件数はさほど多くありませんが、16年1月の歳入金等に続く、国庫金電子納付の新たな進展と言えます。このほか、以前から懸案となっている「自動車ワンストップサービス」が17年中に実現する予定となっておりますので、こちらについても、引き続き着実に検討が進むよう、協力して参りたいと考えております。

 裾野拡大という意味では、地方公金、民間の収納機関にも大きな期待がかかります。国庫金の電子納付を機に、取扱金融機関が大幅に拡大した訳ですから、今申し上げた自動車ワンストップサービス等を手掛かりに、より多くの地方公共団体に参加していただくことが、納付者の利便性向上、金融機関を含む関係機関の事務合理化、電子政府・電子自治体の推進といったいくつもの課題の解決につながっていくと思います。もとより、私ども日本銀行は、地方公金や民間の収納業務に口をはさむ立場ではありませんが、国庫金のみならず、地方公金、民間が相俟って電子納付が拡大していくという姿が望ましいことは言うまでもありません。金融機関の皆様方の積極的な働きかけ等により、先進的な自治体が一つでも増えることを強く期待する次第です。

 利用促進の手段としては、このほか、広報・宣伝活動や利用促進のためのインセンティブ措置等が課題となります。これらにつきましては、既に実現している部分もあるとうかがっていますが、関係者がさらに議論、検討して進めていく必要があると思っています。

 裾野拡大、利用促進という観点から、ご列席の金融機関の皆様方へのメッセージを申し上げます。一つは本年1月に対応されなかった金融機関の追加対応について、もうひとつはチャネルの拡大についてです。

 前者については、既に私ども日本銀行が歳入事務を委嘱している金融機関の8割が電子納付の取扱いを始めていただいており、残る2割の金融機関の方々にも早期にご対応いただく機会を設けるべく、運営機構事務局および関係官庁ともご相談しながら、準備を進めているところです。次の日程については、既に試験を終えている金融機関は本年7月、試験を終えていない金融機関は10月、というスケジュールを組んでおります。今回も、各金融機関の前向きな対応を期待したいと思います。

 次に、利用促進という観点からは、チャネルの拡大も非常に重要です。これは、もとより個々の金融機関の経営判断ではありますが、納付者の利便性からすると、契約が必要なインターネットバンキングと比べ、誰でも使えるATMには大きな利点があります。また、法人の電子取引ニーズをどのようにマルチペイメントに取り込んでいくか、法人インターネットバンキング取引の拡大という点も、大きな課題かと思います。これらにつきましては、費用対効果の点も含めて、是非ご検討いただきたいと思います。

4.安全性、安定性

 二つめの課題は、ネットワークの安全性、安定稼働の確保という問題です。やや地味ではありますが、非常に重要な課題です。せっかく便利な仕組みを作っても、システムトラブルが頻繁に起こったり、ネットワークへの不正侵入が発生したりして、納付者の方々が不安を覚えるようなことがあっては、その拡大・発展は望むべくもありません。1月の稼働開始からこれまで、皆様方のご尽力により、順調に運行されていると認識しておりますが、本番運行では、ちょっとしたトラブルが、他の参加者に大きな影響をもたらすことがあります。多くの関係者がネットワークで結びついている状況の下では、トラブルが瞬時に伝播するという非常に大きなリスクを常に抱えていることはご承知のとおりです。

 それに関して、金融機関の皆様方にお願いしたい点が3点あります。

 第1点は、ネットワークのセキュリティの問題を、各金融機関ご自身にかかわる重要な問題として捉え、運営機構のセキュリティ委員会等を通じて、各金融機関の事務を委託するに足るセキュリティを備えているかどうかを自らチェックしていただきたいということです。

 第2点は、マルチペイメントネットワークのセキュリティ・ルールが全ての参加者において遵守されているか、関心を持っていただきたいということです。先ほど申し上げたとおり、マルチペイメントでは全ての関係者がネットワークで結ばれていますので、どこかに問題が生じると、瞬時に伝播し、拡散するリスクがあります。これを防ぐことは、ひとつは皆様方が自分自身のシステムと業務を守るという観点、もうひとつは皆様方がネットワークの運営主体として利用者およびネットワーク参加者を守るという観点、この双方から極めて重要です。

 第3点は、当然のことですが、自分自身のシステムに問題が生じ、他の参加者に迷惑をかけるといったことがないようにすることです。この点は、皆様方にお願いするだけではなく、私ども日本銀行も、ネットワークの1参加者として最善の注意を払っており、日々これに努めているところです。

 こうした安全性、安定性は、電子納付の拡大・発展の礎となるものだと思います。

5.おわりに

 以上、いろいろと述べて参りましたが、私ども日本銀行といたしましては、引続き関係者の方々と連携・協力し、汗をかきながら、国庫金をはじめとする電子納付の拡大に積極的に取り組んで参りたいと考えております。

 冒頭にも申し上げましたとおり、関係各位のこれまでのご尽力に対し心から敬意を表しますとともに、マルチペイメントネットワークがわが国の主要な決済インフラとして一層の拡大・発展を遂げられますことを祈念いたしまして、私からのご挨拶とさせていただきます。どうもありがとうございました。

以上

本件に関する照会先

日本銀行業務局総務課

秋山 03-3277-2250(直)
osamu.akiyama@boj.or.jp