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マルチペイメントネットワークの利用促進に向けて

~ 新たなビジネスモデルの定着・発展のために ~

2005年 5月31日
日本銀行業務局

 本稿は、2005年 5月26日に開催されました日本マルチぺイメントネットワーク運営機構総会における日本銀行業務局長・水野創の説明要旨です。

はじめに

 ただいまご紹介いただきました日本銀行の水野です。本日は、日本マルチペイメントネットワーク運営機構の平成17年度通常総会にお招きいただき、お話をする機会を賜りまして、誠にありがとうございます。

 日本マルチペイメントネットワーク運営機構は、ITを活用した先進的なネットワークの運営主体として、わが国決済インフラの一翼を担われる存在であり、このように多数の金融機関のご列席の下で毎年着実に総会の回を重ねられていることを誠に喜ばしく思っております。私ども日本銀行も皆様方と電子納付の一層の発展に向けて、気合を揃えて取り組んで参りたいと思います。

 本日は、私ども日本銀行における国庫金事務電子化の取り組みを簡単にご紹介した後、マルチペイメントネットワークを利用した国庫金の電子納付の利用を促進し、新たなビジネスモデルとして定着・発展させ、その効果を最大限発揮させるために、今後どのように取り組んでいくべきかについて日ごろ考えていることをお話しさせていただきたいと思います。

国庫金事務電子化の取り組み

 さて、国庫金事務の電子化について、日本銀行では、国民の利便性向上と関係機関の事務効率化を目的として、平成12年から取り組んできております。私ども日本銀行は、ここにご列席の皆様をはじめ多くの金融機関の皆様に国庫金事務の取扱をお願いしておりますが、書面中心、手作業中心であったため、合理化、標準化の進む他の事務の中にあって、金融機関はもちろん、官庁や日本銀行自身にとっても大変に手間やコストのかかる異質な事務となってきておりました。こうした事務を、ITを活用することで、より便利に、より効率的な、いわば他の事務と同様に取り扱うことのできるものに変革していくことが国庫金事務の電子化の狙いです。

 日本銀行では、関係者の方々と連携して、平成15年4月に歳出金振込事務の電子化を、昨年1月に歳入金電子納付の導入を、また昨年3月には統合国庫記帳システムの導入を実現しました。そして、本年3月から6月にかけ、これら3つの電子化スキームを活用した歳入歳出外現金の受払電子化が順次実現しつつあります。一連の電子化に当たっては、金融機関の皆様方の多大なるご協力をいただいております。この場をお借りして、厚く御礼申し上げます。

マルチペイメントネットワークを活用した電子納付の意義

 このような国庫金事務の電子化の取り組みの中でも、皆様方とともに実現した歳入金の電子納付は、いろいろな意味で画期的なものです。ひとつは、官民の共同利用を前提として、ネットワークの仕様や利用規約等を検討したことです。歳出金の振込で全銀システムを利用するなど、国庫金事務に民間ネットワークを活用することは以前からありましたが、当初から官民の利用を前提とした共通仕様を構築したのは初めての経験でした。画期的なふたつめの点は、多くの官庁、多くの金融機関が当初から電子納付に対応されたことです。その背景には、電子政府の大きな流れがあったわけですが、多くの官庁が共通の仕様で電子化を実施し、金融機関も、約8割の方々が私どもの呼びかけに応じて、電子納付に対応していただきました。このような大きな動きとなりましたのは、その中核となるマルチペイメントネットワークが柔軟性に富み、かつ時宜を得た構想であったことの証左だと思います。また、納付者である国民、企業にとりましても、金融機関窓口の営業時間を気にすることなく、個々のライフスタイルや事務上の都合に応じて「いつでも、どこでも」国庫金を支払えるようになったのは、まことに画期的なことです。国庫金の電子納付の実現からまもなく1年半が経ちますが、この間、目立ったトラブルもなく、順調に運営されてきておりますことは、安全性、安定性が何にも増して求められる決済インフラのあるべき姿として、誠に心強く、運営しておられる皆様に対し、心から敬意を表したいと思っております。

電子納付の利用促進

 こうして立ち上がった歳入金の電子納付ですが、今後、取り組むべき大きな課題は、言うまでもなく、利用促進です。

 国庫金の電子納付の実現から現在までの約1年半の歩みを振り返ってみますと、スタート当初の利用件数は非常に少ないものでしたが、同年3月の国税・関税、4月の国民年金保険料といった納付対象の拡大や、対応金融機関数の増加、ATMや窓口電子収納への対応拡大を背景として、着実に増加してきました。また、民間・地方公金につきましても、国庫金と同様に、納付対象の拡大等につれて順調に増加していると伺っております。しかしながら、利用件数の水準は、当初期待していたレベルからは程遠いのが実情です。

 電子納付の仕組みは、皆様方金融機関、官庁、そして私ども日本銀行がシステム投資を行い、人的資源も投入して準備を進めてきたものであり、その仕組みが実際に広く利用されなければ、事務の効率化は進まず、コストに見合った成果は得られません。また、利用者の立場に立っても、この素晴らしい仕組みの存在を知らない、利用しにくいといった理由で利用しないとすれば、利便性向上は絵に描いた餅です。この点は、逆に言えば、利用促進に向けた取り組みは、利用者、金融機関、官庁、日本銀行といった全ての関係者のメリットにつながるということです。こうした観点に立って、全ての関係者が協力し、利用促進のために努めていく必要があります。

 利用促進のために取り組むべき課題を順不同で挙げますと、まず関係者共通の課題として、利用者に電子納付の便利さを大いに宣伝することが挙げられます。次に、金融機関においては、後程より詳しくお話しいたしますが、収納機関拡大のための働きかけや、金融機関チャネルの拡充が挙げられます。また、関係官庁においては、電子納付できる国庫金の範囲の拡大のほか、電子申請、電子申告、電子納付の使い勝手の向上や、インセンティブ措置を通じて国民の利用を促すことが検討課題となります。この点は、政府のIT戦略本部が本年2月に決定・公表した「IT政策パッケージ−2005」に検討課題として挙げられております。さらに、私ども日本銀行においても、関係者、特に金融機関が電子納付の推進によりメリットを得られるような施策の実現が課題であると認識しております。課題のうち比較的対応が容易なものは既に実施に移されているため、現在残っている課題は、コスト、制度の問題をはじめ様々な困難を伴い、実現が容易でないものが多いことは十分認識しています。しかし、これまでの経験から、それぞれの対策は実施すれば確実に利用件数増加に結びついていくはずです。今後、これらひとつひとつに各主体がそれぞれ着実に取り組んでいく必要があると考えております。

金融機関に期待すること

 こうした課題のうち、金融機関の皆様に関連するところを敷衍してお話ししたいと思います。

 本年4月のペイオフ全面解禁に象徴されますように、金融界は、これからは、不良債権問題などの桎梏から解放され、前向きの行動に比重を移していく段階にさしかかっており、決済・業務サービスの面でも、新たなビジネスチャンスに積極果敢に取り組むことができる環境が整いつつあるのではないかと思っております。そうした中で、電子納付についても、その画期的な仕組みを決して埋没させることなく、新たなビジネスモデルとして明確に位置付け、戦略的かつ積極的に活かしていく努力が必要なのではないかと思われます。

 その際のポイントのひとつは、地方公金や公共料金の拡大です。マルチペイメントネットワークはもともとこれらを跨る共通インフラとして構想されたものであり、国庫金でしか利用されないというのでは、効果は十分に発揮されません。また、電子納付の便利さを納付者に実感してもらい、さらにどんどん使ってもらうといった好循環を生み出していくためには、電子納付が可能な収納金のバリエーションが豊富に揃っていることが有効です。民間・地公体の収納事務は、市場規模から言えば、国庫金を大きく上回る巨大なマーケットであるはずです。本年12月、国庫金、地方公金の双方を対象とした自動車保有関係手続のワンストップサービスがいよいよ実現する予定ですが、こうした機会を手掛かりに、金融機関の皆様方が収納機関への働きかけをさらに積極化され、より多くの地方公金、公共料金が電子納付の対象となることを期待いたします。

 もうひとつのポイントは、従来から繰り返し指摘させていただいていることではありますが、金融機関チャネルの拡大です。個人の利用者にとって最も身近で利用し易いチャネルはATMであり、企業にとっては法人インターネットバンキングの整備が重要です。これらのチャネルの整備状況をみますと、ここへ来て前向きな動きがかなり出てきていますが、納付者の認知度を高めるためには、さらにこうした動きが加速することが望まれます。国庫金のチャネル別動向をみますと、ATMや窓口は、対応金融機関数が少ない割に、大きなシェアを誇っています。是非こうした点に注目していただきたいと思います。最近、運営機構において、金融機関チャネルの充実に向けた取り組みのひとつとして、ATMと同等の操作性をもち、低コストでの導入が可能な両替機について議論が行われたと伺っております。もとより、どのようなチャネルを整えるかは、それぞれの金融機関のご判断ではありますが、電子納付の利用促進という観点からは、チャネルの拡大が有効であることには異論のないところかと思います。金融機関の皆様方におかれましては、最新の検討の成果を十分研究され、コスト、効果、セキュリティ等の面からそれぞれのビジネスモデルに適合したチャネルの拡大を是非前向きにご検討いただきたいと思います。

日本銀行の取り組み

 以上、金融機関の皆様の課題についてお話ししましたが、それでは、電子納付の利用促進のために日本銀行としては何をしていこうとしているのかを申し上げます。私ども日本銀行では、本年3月、平成17~21年度の「中期経営戦略」と平成17年度の「業務運営方針」を公表しました。「中期経営戦略」は、今後5年間に日本銀行が何に重点をおいて業務をしていくかを初めて取りまとめたものです。これらの抜粋を資料としてお配りしていますが、ご覧のとおり、「国庫金事務の電子化のための事務・システム対応の推進とその効果を拡大していくための官民の利用促進」という方針を掲げております。これは、日本銀行全体として国庫金事務の電子化やその利用促進に取り組んでいくという姿勢を示したものです。

 私どもの取り組みは、大きく分けて、(1)日本銀行自身の施策、(2)関係者との連携、の二つに分かれます。このうち、日本銀行自身の施策として、私どもは、皆様方金融機関にとって、コスト、制度面の実務的な制約を軽減し、マルチペイメントネットワークへの移行によりメリットを生む施策が実現できないかと考えてきました。そして、その第一弾として、昨年11月、代理店保証品の差入れ基準の引き下げを行いました。マルチペイメントネットワークによる電子化分は収納日の翌営業日に資金を払い込んでいただいていますので、その分決済リスクが減少することに対応し、代理店保証品の差入れ額を引き下げるというわけです。これは、現時点ではいかにもささやかな効果かもしれませんが、皆様方金融機関が電子納付を推進し、その比率が高まれば、それに応じたメリットとして感じていただけると思っております。このほかにも第二弾として何ができるか、また、ホームページ等を利用して納付者により効果的に訴えかけることができないか、といった問題意識で、取り組みを進めて参る所存です。

 次に、関係者との連携という観点ですが、日本銀行は官庁とも金融機関とも日常的な連絡を密にとっておりますため、各関係者に働きかけ、その間を取り持つ役割をこれまで以上に果たしていきたいと思っております。金融機関の皆様方との連携は先ほどお話ししたとおりですが、官庁との関係でも、先ほど指摘した各課題の具体的な事例や解決の道筋等について、金融機関の経験や考え方をも踏まえて各官庁に情報提供、意見具申できればと考えております。

おわりに

 縷々申し上げましたが、マルチペイメントネットワークによる電子納付は、種を撒き、芽が出たばかりの段階であり、これを金融機関の新たなビジネスモデルとしてしっかりと根付かせることにより、利用者、金融機関をはじめとする関係者全てが果実を得ることになるのだと思います。日本銀行としましても、そうした目標に向かって、関係者の方々とともに努力を続けて参りたいと思いますので、引き続きよろしくお願い申し上げます。

 本日はありがとうございました。

以上

本件に関する照会先

日本銀行業務局総務課

水川(TEL03-3277-3548<直通>、tatsuo.mizukawa@boj.or.jp)