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第2章 決済の道具3.銀行預金

このように「おかね」という道具は、「実用品」(物品貨幣)から「非実用品」(鋳造貨幣)へ、さらには「共有された信念なしには無価値な品物」(信用貨幣)へと移り変わってきました。こんにち「おかね」と言った場合、基本となるのはおさつですが、細かい金額用にコインも使われています。ただ、これから先「おさつとコイン」と言うべきところを「おさつ」というふうに言う場合があると思います。これは、世の中に出回っているコインの総額がおさつに比べて小さいことが理由です。コインも、金属の固まりとしては額面に比べて少ない価値しか持っていないのが普通ですから、「別の人も受け取ってくれる」という共通の信念なしに流通しないのはおさつと同じです。

預金が決済に使われる理由

「誰もが『ああ、それが手に入るなら交換に応じてもよい』と思うもの」がおかねでした。その意味では、私たちが金融機関(簡単のため銀行と呼ぶことにしましょう)に預けている「預金」もおかねとして用いられています。実際、給料を銀行預金の形で受け取る人はたくさんおりますし、銀行振込で支払を済ませることも広く行われています。クレジットカードやデビットカードで買い物をすれば自分の預金が減って商店の預金が増えますから、やはり預金がおかねとして使われていることになります。そこで次に、銀行預金というおかねについて調べてみることにしましょう。

銀行預金――ここでは、いつでも払い出して使える預金、難しく言えば要求払い預金(当座預金や普通預金など)を指します――は、直ちにおさつという本来のおかねに換えることができます。銀行預金がおかねとして使われる理由のひとつは、このように「直ちにおさつに換えられる」性質を持つことだと考えられます(もちろん銀行には営業時間というものがありますから、夜中に銀行預金をおさつに換えようとしても、換えられないという事態は起こり得るのですが)。この点については、銀行が自動現金預け払い機(ATM)の稼働時間を延長していることから、銀行預金は一層おさつに近づいていると言えるように思います。

銀行預金とおさつは、いつでも、必ず、すぐに相互に「変形」できることを示すイメージ図。

銀行預金がおかねとして使われるもうひとつの理由は、おさつに「多額だと嵩張る」「遠方への支払に不便」という弱点がある一方、預金にはこうした点をカバーする特徴が備わっていることでしょう。銀行振込であれば、1億円の支払であっても、遠くの町の通信販売会社への支払であっても、おさつを運ぶよりずっと容易です。しかし銀行預金には、おさつと比べた場合、少なくとも1つの弱点があります。

預金の弱点

それは、預け入れ先の銀行が倒産し、自分が持っていたはずのおかね(預金)がなくなってしまう心配があることです。もちろん、預金が簡単に消えてしまうようでは世の中が混乱してしまいますから、銀行のように不特定多数の人々から預金を受け入れる会社は、それ以外の会社よりも厳しく政府の監督を受けています。しかし、政府の介入が過剰であると、銀行は創意工夫や競争を行わなくなって、預金などのサービスが高価で質の低いものになってしまう可能性があります。そこで――「預金保険」といって、銀行が倒産しても預金が一定額までは必ず返ってくる仕組みを用意した上で――政府による規制をできるだけなくして競争を促し、創意工夫を怠ったりして競争に負けた銀行、あるいは不適切な経営を行った銀行が倒産して消えていく道を確保しておこうということになります。

こうなった場合、重要となるのは「どの銀行におかねを預ければよいか」についての預金者自身の判断です。預金者は、その銀行への預金が返ってこなくなる心配が大きいと判断すれば、この預金を他の銀行への預金あるいはおさつに換える行動をとることになるのです。そうした判断をする際に預金者が必要とするのは、自分が預金をしている銀行の経営状態についての正確で十分な情報でしょう。銀行預金をおかねとして機能させるためには、銀行による経営情報の開示(ディスクロージャー)が不可欠なのです。