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第6章 決済の準備2.クリアリング

決済の事前準備

すでに見たように銀行は、預金者が「私の預金○○円を、何々銀行に口座を持つ誰々さんに振替えよ」と指示してきた場合、その指示に従って○○円をよその銀行に届けなければなりません。このような、リテール決済のためのホールセール決済――つまり、個人や企業の間における預金振替のための銀行間決済――については、「1件1件の金額は小さいが毎日莫大な件数が処理されている」という特徴があります。

企業が様々な銀行に口座をもつ従業員に給料を振込むとか、人々が自動引落としで電気代や水道代などを支払うといったものを含め、預金という決済手段が振替という方法で利用されるケースは極めて多いのです。そして、そのうちのかなりの部分が銀行をまたがる形で行われているのです。

このように銀行には、「何々銀行の誰々口座に○○円振込め」という指示が毎日膨大な件数で押し寄せてきます。このとき銀行にとっては、それらの指示を一つひとつ、相手先の銀行におかねを届けながら処理していこうとすると、大変な手間となります(もちろん今日の情報処理技術をもってすれば、顧客の指示に従って1件ずつ次々と銀行間決済を片づけることは難しくないはずですが、少なくとも従来は手間ひまのかかる作業でした)。

そこで銀行は、互いに協力して銀行間決済のための事前準備を行う事が少なくありません。そのような事前準備のことを、清算あるいは「クリアリング」と呼ぶのです。クリアリングというのは、銀行間決済に先立って行われるあらゆる準備の総称ですが、その中心にあるのは次のような作業です。

事前準備の中身

各銀行は顧客から、書類やオンラインで振替の指示書(「私の口座から何々銀行の誰々口座に○○円を振替よ」)を日々たくさん受取ります。これらの指図を受け取った銀行は、まず振込を指示した当該顧客の口座から振込額を引落としておきます。その上で、これらの指示書を1ヶ所に持ち寄ります。このような場所のことを「クリアリング・ハウス(clearing house)」と呼んでいます(どこかで耳にされたことがあると思いますが、手形交換所というのはクリアリング・ハウスのひとつです)。

さて、クリアリング・ハウスに集められた指示書は整理され、おかねを受け取る側の銀行に渡されます。受取り側の銀行は、受け取った指示書に従って、受取人の預金口座に入金するわけです。

これと並行してクリアリング・ハウスは、個別の銀行ごとに、(1)(どの銀行への支払いかは問わず)「支払いの総額」と(2)(どの銀行からの受取りかは問わず)「受取りの総額」を計算し、さらに(3)((1)マイナス(2)を計算して)「差引き支払額」――銀行によっては「差引き受取額」――を算出し、各銀行に通知します。ここまでがクリアリングのプロセスです。

クリアリングのプロセス(クリアリング・ハウスにおける「事前準備」)とその後の決済(セトルメント)の仕組みを示した概念図。詳細は本文のとおり。

ところで、支払総額の方が受取総額よりも大きく、「差額の支払いが必要になった銀行」のことを「負け銀行」、反対に受取総額の方が大きく「差額を受け取るだけでよい銀行」のことを「勝ち銀行」と呼び、それぞれの支払額・受取額のことを「負け額」・「勝ち額」と呼んでいます。勝ち銀行たちの勝ち額の合計は、負け銀行たちの負け額の合計と同じになります。

さて、事前準備(クリアリング)が終われば、次は決済(セトルメント)のプロセスです。クリアリング・ハウスから負け額・勝ち額の通知を受けた銀行のうち、負け銀行は、負け額を自分の中央銀行当座預金からクリアリング・ハウスの中銀当預に振替えます。

本文中の用語(勝ち銀行、負け銀行、勝ち額、負け額)の定義を板書風に整理・記述した概念図。

クリアリング・ハウスは、全ての負け銀行から負け額を受け取ったことを確認し、今度は自分の中銀当預から勝ち銀行たちの中銀当預に、それぞれの勝ち額を振替えます。これで、「支払人の口座からの引落とし」「受取人の口座への入金」というリテール決済、および「支払人の口座がある銀行の中銀当預の引落とし」「受取人の口座がある銀行の中銀当預への入金」というホールセール決済がすべて完了するわけです。