ゼロ金利制約の下でマネタリーベースの増加が日本経済にもたらした効果:実証分析
2002年12月26日
木村武・小林洋史・村永淳・鵜飼博史※1
日本銀行から
本資料は、下記論文の内容を平易に解説したものである※2。
Kimura, T., H. Kobayashi, J. Muranaga, and H. Ugai, "The Effect of the Increase in Monetary Base on Japan's Economy at Zero Interest Rates : An Empirical Analysis," in Monetary Policy in a Changing Environment, Bank for International Settlements Conference Series, forthcoming, 2003.
- ※1いずれも、日本銀行企画室政策調査課に所属。
なお、本稿中で示された内容や意見、およびあり得べき誤りは、筆者に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。 - ※2同論文の未定稿は、日本銀行金融研究所のディスカッション・ペーパー・シリーズ に収録されている(IMES Discussion Paper Series 2002-E-22)。
以下には、(問題意識)を掲載しています。全文は、こちら (ron0212b.pdf 73KB) から入手できます。
問題意識
日本銀行(以下、日銀)は、2001年3月にいわゆる「量的緩和」政策を採用した。この政策は、下記の4項目から構成されている。
- (1)金融市場調節の主たる対象を、無担保オーバーナイト・コールレートから日銀当座預金に変更する。
- (2)消費者物価(除く生鮮食品)が前年比でみて安定的にゼロ%以上になるまで、新しい金融緩和の枠組を続ける。
- (3)円滑な資金供給に必要な場合には、銀行券の発行残高を上限に、長期国債の買入れを増額する。
- (4)適格担保等一定の条件を満たせば、金融機関が自らのオプションによって日銀から公定歩合水準で借入れを行えるロンバード型貸出制度を導入する。
この量的緩和政策の枠組の下で、日銀は操作目標である当座預金残高を引上げてきた結果、コールレートは事実上ゼロにまで低下するとともに、マネタリーベース(日銀当座預金と流通現金の合計)も大幅に増加している。マネタリーベースは、既に1990年代後半以降の超低金利政策によって、高い伸びを持続してきたが、量的緩和政策の採用以降、一段と伸び率が高まった。もっとも、これまでのところ、こうしたマネタリーベースの増加が経済活動の活発化には必ずしもつながってはこなかったようにみられる。
本資料は、このような状況を念頭に置きながら、マネタリーベースの増加が、名目短期金利のゼロ制約に直面した経済に対してどのような効果をもたらしたかという点について、経済モデルの分析を通して定量的な検証を行ったものである。