「間接的に計測される金融仲介サービス」概念の検討*
2003年 7月
大森徹
日本銀行から
日本銀行調査統計局ワーキングペーパーシリーズは、調査統計局スタッフおよび外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行あるいは調査統計局の公式見解を示すものではありません。
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以下には、(概要)を掲載しています。全文は、こちら (cwp03j09.pdf 104KB) から入手できます。
概要
金融仲介機関の産出するサービスを国民経済計算に反映するために、93SNAにおいて「間接的に計測される金融仲介サービス(FISIM)」という概念が導入された。このFISIMの計測・配分手法については、1996年にEU統計局が提示した方針が国際的な基準となっている。このEU統計局が提示したFISIMの計測・配分手法をみると、93SNAにおけるFISIMと、EU統計局が提示した方針におけるFISIMでは、FISIMを産出する金融仲介機関の経済活動に対する認識が大きく変化していると考えられる。また、EU統計局方針におけるFISIMは、産出額の定義、FISIMデフレータの算出方法を考慮すると、貸出全体、預金全体という集計されたレベルで同質的なサービスと認識されていると考えられる。本稿での検討を踏まえると、FISIMは、金融論やマネーサプライの定義等に関する先行研究において想定されている金融仲介機関の供給するサービスとは異なっており、金融仲介機関の経済活動を「その経済実体に即して」認識・計測することに成功しているかという点に疑問が残る。このため、FISIMを国内総生産(GDP)に計上する場合、様々な角度から慎重な検討の積み重ねが必要であろう。また、FISIMのデフレータに使用される基礎データを、企業向けサービス価格指数(CSPI)における金融仲介機関の預金・貸出サービス価格として利用することには、理論的、実務的な問題があると考えられる。
- 本稿の作成にあたっては、作間逸雄教授(専修大学)、ならびに内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部の方々より有益なコメントを頂戴した。なお、本稿で示された意見、見解は、筆者個人に属し、日本銀行ならびに同調査統計局のものではない。また、本稿のあり得べき誤りは全て筆者個人に属する。