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わが国投資家のクレジット・リスクテイク:社債リターンの歪度と債券ポートフォリオ選択問題*1

2004年 6月
西岡慎一*2
馬場直彦*3

日本銀行から

日本銀行ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません。

なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、執筆者までお寄せ下さい。

商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行情報サービス局広報課までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

以下には(要旨)を掲載しています。

  1. *1本稿を作成するにあたり、日本銀行スタッフから数多くの有益な示唆を受けた。また、わが国の債券データは、喜多洋一氏(日興フィナンシャル・インテリジェンス)から提供を受けた。記して感謝したい。もちろん、有り得べき誤りは全て筆者達に帰するものである。また、本稿に記された意見・見解は筆者達個人のものであり、日本銀行及び金融市場局の公式見解を示すものではない。
  2. *2金融市場局 e-mail: shinichi.nishioka@boj.or.jp
  3. *3金融市場局 e-mail: naohiko.baba@boj.or.jp

(要旨)

本稿では、社債投資を債券ポートフォリオ選択問題の一環として捉えたうえで、社債リスクプレミアムを分析している。その際、社債リターンの平均・分散に加えて、歪度に起因するリスクも考慮している。歪度を考慮した場合、社債リスクプレミアムは、通常のβ-CAPMにおけるシステマティック・リスクであるβリスクと、歪度に起因するγリスクの加重平均として表現できる(γ-CAPM)。また、このときの両リスクに対するウエイトは、主として相対的危険回避度により決定される。わが国の社債データを用いた実証分析の結果、(1)各種定式化テストでは、通常のβ-CAPMが棄却されγ-CAPMが採択される傾向がある。(2)相対的危険回避度の推計値は、全般に正で有意であるものの、ゼロ金利政策導入以降のサンプル期間では、資産クラスにBBB格社債を含めると負の値をとる。(3)また、米国のデータを用いて同様の推計を行った結果、相対的危険回避度は、わが国の場合と比較してかなり高い水準となっている。(4)推計結果を基に、βリスクとγリスクにかかるウエイトを試算すると、後者の平均ウエイトは、わが国の3.2%に対し、米国では10.7%であった。これは、わが国の社債リターンに織り込まれているγリスクは米国対比でかなり小さいことを示している。こうした結果は、(1)γリスクの織り込み方の相違がクレジット・リスク評価に対する内外市場格差を生んでいる可能性があること、(2)ゼロ金利政策以降では、わが国投資家は、BBB格社債のような低格付社債のリスクを十分勘案せずに投資を行っている可能性があること、を示唆している。

キーワード:
社債、リスクプレミアム、ポートフォリオ選択、歪度、共歪度、β-CAPM、γ-CAPM