わが国企業による株主還元策の決定要因:配当・自社株消却のインセンティブを巡る実証分析*1
2005年 4月
上野陽一*2
馬場直彦*3
日本銀行から
日本銀行ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません。
なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、執筆者までお寄せ下さい。
商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行情報サービス局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。
以下には[要旨]を掲載しています。
- *1本稿の作成にあたり、日本銀行スタッフから数多くの有益な示唆を受けた。記して感謝したい。もちろん、有り得べき誤りは全て筆者達に帰するものである。また、本稿に記された意見・見解は筆者達個人のものであり、日本銀行および金融市場局の公式見解を示すものではない。
- *2金融市場局 E-mail:youichi.ueno@boj.or.jp
- *3金融市場局兼金融研究所 E-mail:naohiko.baba@boj.or.jp
要旨
近年、わが国企業の収益が好転し、有利子負債の圧縮に目処が立った後の資金使途として、配当や自社株消却による株主還元に注目が集まってきている。本稿では、1990年代以降の東証1部上場企業による株主還元策の決定要因を、各企業の財務データを基に分析している。分析に用いたモデルは、動学的部分調整モデル、2項ロジット・モデル、ネスティッド・ロジット・モデルである。実証分析の主な結果は以下のとおりである。
- (1)配当・総還元(配当と自社株消却の和)の最適性向は、フリー・キャッシュフロー仮説、ペッキング・オーダー仮説、成熟性仮説などの理論仮説とほぼ整合的に決定されている。
- (2)株主還元策、特に配当政策には強い硬直性がある。
- (3)収益力が向上する中で、有利子負債の返済を進めてきた規模の大きな企業ほど、自社株消却によって、機動的に株主還元を行っている。
- (4)自社株価の動向も、配当・自社株消却の実施に影響を与えている。
- (5)配当・総還元の減少と据置・増加の意思決定の間には階層構造が存在する。
- (6)近年、配当・総還元を減少させることに対する企業経営者の抵抗感が軟化しつつある。
- (7)1990年代以降、わが国企業の株主還元策は、徐々に、各企業の財務特性に基づいた水準に近づきつつある。
- キーワード:
- 株主還元、配当、自社株消却、動学的部分調整モデル、パネル・ロジット・モデル、ネスティッド・ロジット・モデル、フリー・キャッシュフロー、ペッキング・オーダー、シグナリング