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金利の期間構造と金融政策に関するマクロ−ファイナンス分析:

均衡実質金利・均衡インフレ率の可変性とゼロ金利制約を考慮した実証

2007年1月
小田信之*1
鈴木高志*2

要旨

 本稿は、マクロ構造モデルとファイナンス・モデルを結合させたマクロ−ファイナンス・モデルを日本経済に適用した実証研究である。本稿の問題意識は、近年の日本の長期金利が極めて低いことに端を発する。日本で認識されてきた均衡実質金利や均衡インフレ率の推移を実証的に分析しつつ、景気循環や金融政策の影響、リスクプレミアムの推移なども勘案したうえで、経済合理的な視点から長期金利の推移を説明することが、本稿の目的である。また、マクロ経済変数だけでなく、市場金利の情報も併用した場合に、日本のマクロ経済構造がどう推定されるかという点も、分析上の関心事項である。

 マクロ−ファイナンス分析は、金利の均衡水準の評価などに有効な市場情報も利用した推計であるという利点を持つ。ただし、日本では、推計に必要なデータの面で制約があるとみられて来た。本稿では、四半期ベースのGDP データを他の経済指標を利用しながら月次化することによって、月次データを利用した推計を採用し、データ制約を克服した。その上で、ニュー・ケインジアン型のマクロ構造モデルとアフィン拡散型の期間構造モデルを採用して、同時推計を実行した。推計では、1999 年以降のゼロ金利制約やゼロ金利コミットメントの非線形な効果も近似的に勘案した。

 分析の結果、均衡実質金利と均衡インフレ率は、経済主体の学習に基づき可変的に認識されて来たという仮説が支持された。また、本モデルは、低水準の長期金利を一応は説明可能であることが分かった。ただし、その解釈には留意が必要であることも示唆された。このほか、中長期金利の各種構成成分への分解や、モデル誤差に対する分析なども行った。

キーワード:
マクロ−ファイナンス・モデル、金融政策、金利の期間構造、長期金利、リスクプレミアム、均衡実質金利、ゼロ金利制約

JEL分類番号:
E43, E52, G12

本稿の作成過程では、タオ・ウー氏(ダラス連銀)、竹田陽介教授(上智大学)のほか、木村武氏、白塚重典氏、副島豊氏、藤木裕氏、森成城氏、吉羽要直氏をはじめとする日本銀行の同僚諸氏、日本銀行企画局セミナー参加者、日本経済学会2006年秋季大会参加者から貴重なコメントを頂いた。記して感謝する。ただし、本稿中に残された誤りは、すべて筆者たちに帰するものである。また、本稿の内容や意見は、筆者個人に帰属するものであり、日本銀行および同企画局の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行企画局 E-mail: nobuyuki.oda@boj.or.jp
  2. *2日本銀行企画局 E-mail: takashi.suzuki-1@boj.or.jp

日本銀行から

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