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1990年代以降の日本の失業:展望

2008年2月
太田聰一*1
玄田有史*2
照山博司*3

要約

 1990年代の日本の失業に関する実証研究を展望し、新たな実証分析結果を提示することを通じ、この期間に、失業率の変動の性質がどのように変貌し、その背後にはどのような労働需要面、労働供給面の変化があった可能性があるかを検討した。

 まず、マクロデータによる失業研究の展望と分析によって、1990年代以降の持続的な失業率上昇には、労働需給のミスマッチや労働力再配分が果たした役割は限定的であると考えられること、および、失業に対する景気の影響が長期間にわたるようになったことが失業率上昇にとって重要であると考えられることを示した。

 続いて、労働需要サイドの視点から、企業の雇用行動に関する研究の展望と分析を行い、1990年代以降に起こった企業を取り巻く諸環境の変化によって雇用の調整速度が高まったこと、希望退職や早期退職の実施経験を通じて正規雇用人員調整のノウハウが蓄積されたことが、企業の雇用決定に構造的な変化をもたらした可能性があると指摘した。また、2000年代半ば以降の急速な雇用回復の背景にあるのは、大規模な雇用削減が2001年ごろをピークに収束に向かったマイナス調整の完了によるものが大部分であり、新たな雇用機会の創出は、少なくとも2004年時点までは、ほとんどの産業でみられないことも示した。

 さらに、1990年代以降における日本の失業率の上昇に対して、労働供給サイドの果たした役割について研究展望と分析を行った。まず、少子高齢化による人口年齢構成の変化のため、失業率の高い若年層の比率が低下し、2000年代以降の失業率上昇が抑制されたこと、および、このような若年失業者数は、企業の若年に対する採用スタンスとリンクしていることを示した。また、非正規労働者の増大が失業率を減少させている可能性は小さいことを示唆する分析結果も提示した。加えて、卒業年の失業率が高かった世代ほど、実質賃金水準、就業確率、フルタイム就業の面で不利益を被ること、それらの傾向は高校卒および中学卒で顕著であることを確認した。

 以上に見るような、1990年代以降に起こった労働の需要、供給サイドの変化が、失業に対する景気、とくに不況の影響を長期化させることになったと考えられる。

本稿は、東京大学金融教育研究センター・日本銀行調査統計局第二回共催コンファレンス「90年代の長期低迷は我々に何をもたらしたか」(2007年11月)での報告論文を改訂・加筆したものである。コンファレンスの討論者の川口大司(一橋大学)、脇田成(首都大学東京)の両氏、新谷元嗣氏(Vanderbilt大学)、およびコンファレンス参加者の方々から、有益なコメントを多数頂いた。本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金・基盤研究(B)18330047の助成を受けている。また、本稿の図は、島木紀子さんに作成頂いた。ここに記して感謝する。

  1. *1慶應義塾大学
  2. *2東京大学社会科学研究所
  3. *3京都大学経済研究所

日本銀行から

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