わが国企業の価格マークアップと賃金設定行動
2023年3月24日
青木浩介*1
高富康介*2
法眼吉彦*3
要旨
物価・賃金の変動メカニズムを理解するうえでは、企業がコスト上昇や生産性の変動等に応じて、販売価格や賃金をどのように設定するかを把握することが重要である。こうしたもと、本稿では、個別企業の財務ビッグデータ――売上高規模で経済センサスの約8割をカバー――を新たに構築したうえで、 Yeh et al. (2022)を参考に、わが国企業の「価格マークアップ(販売価格と限界費用の乖離)」と「賃金マークダウン(労働の限界生産物収入と賃金の乖離)」を同時推計した。2020年度までのデータを用いた分析の結果、わが国企業は、価格マークアップが縮小傾向を辿るもとで、賃金マークダウンによる賃金抑制傾向を強めることで収益を確保してきた――労働分配率を安定させてきた――ことが示された。また、こうした傾向は、非製造業の小企業で顕著であることが分かった。本稿の結果を米国の先行研究と比較すると、(1)賃金抑制傾向は、日米で程度の差こそあれ共通しているが、(2)わが国の価格マークアップ縮小という特徴は、価格交渉力の強い「スーパースター企業」の台頭などで企業の価格マークアップが拡大してきた米国とは対照的である。
- JEL 分類番号
- E24、E31、J30、J42、L12
- キーワード
- 価格マークアップ、賃金マークダウン、モノプソニー、労働分配率
本稿の作成に当たっては、長田充弘氏、川口大司氏、桜健一氏、代田豊一郎氏、陣内了氏、長野哲平氏、福永一郎氏、および多くの日本銀行スタッフから有益なコメントを頂いた。また、経済産業省から「企業活動基本調査」の調査票情報、CRD協会から「Credit Risk Database」の提供を受けた。ここに記して感謝したい。なお、本稿に示されている意見は、筆者達個人に属し、日本銀行の公式見解を示すものではない。また、ありうべき誤りはすべて筆者達個人に属する。
- *1東京大学大学院経済学研究科 E-mail : kaoki@e.u-tokyo.ac.jp
- *2日本銀行調査統計局 E-mail : kousuke.takatomi@boj.or.jp
- *3日本銀行調査統計局 E-mail : yoshihiko.hougen@boj.or.jp
日本銀行から
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