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何が感染症拡大後の高インフレをもたらしたのか?
――バーナンキ・ブランシャールモデルの日本経済への適用――

English

2024年2月16日
中村康治*1
中野将吾*2
長田充弘*3
山本弘樹*4

全文掲載は、英語のみとなっております。

要旨

新型コロナウイルス感染症の拡大以来、多くの国が高インフレに見舞われている。わが国のインフレ率も、他国に比べるとその水準は低いものの、例外ではない。本稿では、Bernanke and Blanchard (2023)が提案した賃金・物価モデルを用いることで、わが国において、財市場や労働市場に起因するショックが直接的・間接的な経路を通じてインフレ率と名目賃金上昇率に及ぼす影響を分析する。同モデルを日本経済に適用するにあたっては、わが国労働市場の二重構造を勘案するために若干の修正を加えており、実際のデータをよく説明できることを確認している。本分析の主要な結果は、以下の3点にまとめられる。第一に、感染症拡大後に日本が経験した高インフレは、労働市場の引き締まりによるものではなく、その大部分が、エネルギーや食料品価格の高騰等の財市場特有のショックによって説明される。意外なことに、同様の傾向は、Bernanke-Blanchard論文における米国の結果でも――労働市場の構造や企業の価格・賃金設定行動は日米で大きく異なるにもかかわらず――確認されている。第二に、この間のわが国におけるインフレ率が米国に比べて低いことは、基調的な物価上昇率についての感染症拡大以前の初期条件の違いや、感染症拡大後の労働需給の引き締まり度合いの違いによって説明できる。最後に、モデルからは、わが国において、労働市場の引き締まりがインフレ率に与える影響が、米国と比べて相対的に弱いことも確認される。

JEL 分類番号
E31、E24、E52
キーワード
インフレーション、賃金、労働市場、インフレ予想、COVID-19

本稿は、ベン・バーナンキとオリヴィエ・ブランシャールがコーディネートした他中銀との共同プロジェクトにおいて、日本経済について分析した内容をもとに作成している。本稿の作成にあたっては、ベン・バーナンキ、オリヴィエ・ブランシャール、その他のプロジェクト参加者との間での有意義な議論を行ったほか、平田渉氏、開発壮平氏、中島上智氏、中澤崇氏、長野哲平氏、佐々木仁氏らから有益なコメントを頂いた。ここに記して感謝したい。ただし、残された誤りは筆者らに帰する。なお、本行の内容や意見は、筆者たち個人に属するものであり、日本銀行や他の中央銀行の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行金融機構局 E-mail : kouji.nakamura@boj.or.jp
  2. *2日本銀行企画局 E-mail : shougo.nakano@boj.or.jp
  3. *3日本銀行企画局 E-mail : mitsuhiro.osada@boj.or.jp
  4. *4日本銀行企画局 E-mail : hiroki.yamamoto@boj.or.jp

日本銀行から

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