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社債市場の機能度指標

2024年5月22日
落香織*1
長田充弘*2

要旨

本稿では、わが国社債市場における機能度を示す指標を作成した。具体的には、Boyarchenko et al. [2022b]の手法を参考にしつつ、わが国の社債発行市場と流通市場の双方について、取引価格・取引量・取引環境に関する様々な指標を集め、それらを集計することにより包括的な合成指数(「社債市場機能度指数」)を作成した。作成された指数をみると、第一に、2008から2009年の世界金融危機時や2022年から2023年にかけての世界的な金利上昇局面など、債券市場の機能度が悪化したと言われている局面で大きく低下している。この期間の社債市場の機能度悪化の背景を分析すると、国内要因だけでなく、海外の金融環境の引き締まりが、投資家のリスクセンチメント悪化などを通じて影響を及ぼしていたことが確認された。第二に、社債市場機能度指数の動きが比較的落ち着いていた2013年以降の局面では、発行市場と流通市場でやや異なる動きがみられた。こうした動きには、日本銀行による社債等買入れを含む大規模緩和が、発行市場を中心に機能度改善をもたらしたことも影響した可能性がある。第三に、社債市場の機能度改善は、設備投資の増加を通じて実体経済にプラスの影響をもたらしているとみられる。実証分析からは、とくに、企業の資金調達環境に直結する発行市場の機能度が、実体経済への波及経路として重要であることが示唆される。本稿で算出した「社債市場機能度指数」は、金融政策の波及経路の1つとしての社債市場の機能を、タイムリーかつ包括的に評価するうえで、有用な指標と考えられる。

JEL 分類番号
G12、E44、E58

キーワード
社債市場、市場機能度、企業金融、設備投資、資産買入れ

本稿の作成にあたっては、池田大輔氏、上野陽一氏、開発壮平氏、清水誠一氏、長江真一郎氏、中島上智氏、長野哲平氏、福永一郎氏、前橋昂平氏、丸尾優士氏、吉澤謙人氏らから有益なコメントを頂いた。ここに記して感謝したい。ただし、残された誤りは筆者らに帰する。なお、本稿の内容や意見は、筆者ら個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行企画局 E-mail : kaori.ochi@boj.or.jp
  2. *2日本銀行企画局 E-mail : mitsuhiro.osada@boj.or.jp

日本銀行から

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