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グローバル・バリュー・チェーンの構造変化:
「長さ」と「立ち位置」を用いた60年間の分析

2024年8月6日
菅沼健司*

要旨

米中摩擦やロシアのウクライナ侵攻など、国際化したサプライ・チェーンを揺るがしかねない事象が続く中、日本経済や日本のグローバル企業を取り巻く環境は、一段と複雑化している。本稿ではこうした点を踏まえ、国際産業連関表を用いて、東アジアを中心に、過去60年間のグローバル・バリュー・チェーン(GVC)の変化を分析した。手法としては、GVCを定量的に表現する「上流度」と「下流度」を用いて、各国・各産業の「GVCの長さ」と「GVC上の立ち位置」指標を算出した。分析の結果、「GVCの長さ」は、東アジアのIT財産業を中心に、2000年代に伸長した後、2010年代以降は停滞がみられた。これは、この間の世界貿易の動向――2000年代の伸びと、2010年代の伸び悩み(スロー・トレード)――と軌を一にしており、GVCの深化と貿易量の密接な関連が窺われた。一方、「GVC上の立ち位置」は、2010年代においても変化がみられた。韓国・台湾のIT財産業は、上流へのシフトと、同時に付加価値比率の上昇(競争力の改善)がみられ、これは、従来日本が占めていた川上の製造工程への進出によると考えられる。一方で日本の同産業は、1980から90年代と異なり、この間立ち位置は変わらず、競争力にも変化はみられなかった。これら両指標を用いて、GVCの深化を定量的に確認したり、各国・各産業の競争力の分析を行い、複雑化する世界経済の分析を進めていくことが期待される。

キーワード
グローバル・バリュー・チェーン、スロー・トレード、国際産業連関表、上流度、下流度

JEL 分類番号
C67、F50、F52

本稿の作成に当たっては、法眼吉彦氏、玉生揚一郎氏、小林悟氏ほか日本銀行のスタッフ、亀田制作氏、濱野展幸氏ほかSOMPOインスティチュート・プラスの諸氏、石川良文氏、伊藤恵子氏、乾友彦氏、猪俣哲史氏、権赫旭氏、近藤恵介氏、戸堂康之氏、羽田翔氏、藤嶋翔太氏、古澤泰治氏、Heiwai Tang氏、並びに応用地域学会第37回研究発表大会(2023年12月)の参加者、The 8th International Conference on Economic Structures(2024年3月)の参加者、日本国際経済学会第13回春季大会(2024年6月)より、有益なコメントを頂いた。記して感謝の意を表したい。ただし、残された誤りは筆者に帰する。また、本稿の内容や意見は、筆者個人に属するものであり、日本銀行ならびにSOMPOインスティチュート・プラスの公式見解を示すものではない。

  1. *日本銀行総務人事局(SOMPOインスティチュート・プラスに出向中) E-mail : kenji.suganuma@boj.or.jp

日本銀行から

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