過去25年間のわが国経済・物価情勢:先行研究と論点整理
2024年8月28日
福永一郎*1
法眼吉彦*2
上野陽一*3
要旨
本稿では、1990年代以降のわが国の経済・物価情勢について、当時からの学界等での議論や企業向けアンケートの結果などをもとに振り返ったうえで、近年の変化の兆しについて幾つかの論点を整理する。1990年代、需要・供給両面の様々な要因から経済低迷と緩やかなデフレに陥り、金融政策は名目金利の下限制約に直面した。2010年代には、量的・質的金融緩和の効果などによって景気は回復し、デフレの状況ではなくなったが、賃金・物価が上がりにくいことを前提とした慣行や考え方が根強く残るもとで、2%の「物価安定の目標」の実現には至らなかった。2020年のコロナ危機の後、輸入物価の急激な上昇に加え、景気の回復や労働需給の引き締まりによって、賃金と物価の好循環が強まり、「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現が見通せるようになったが、その背景では、国際経済環境、労働市場、企業の価格設定行動などに、変化の兆しがみられている。こうしたもとで、1990年代以降のデフレ期に定着したとみられる賃金・物価が上がりにくいことを前提とした慣行や考え方は、解消に向かっていると考えられる。
- JEL 分類番号
- E31、E32、E52、F62、J20、O53
- キーワード
- 日本経済、物価、労働市場、グローバル化、金融政策
本稿は、2024年5月21日に開催された「金融政策の多角的レビュー」に関するワークショップ第2回「過去25年間の経済・物価情勢と金融政策」の第1セッションにおける報告内容をベースに作成した。指定討論者の吉川洋氏、村田啓子氏をはじめ、同ワークショップの参加者や、日本銀行の役職員、調査統計局アドバイザーから、有益なコメントを頂いた。また、一部の分析や図表作成等では、伊藤洋二郎氏、大高一樹氏、金井健司氏、高橋悠輔氏、土田悟司氏、平田篤己氏、古川角歩氏に助力を頂いた。記して感謝の意を表したい。ただし、残された誤りは筆者らに帰する。本稿の内容や意見は、筆者ら個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。
- *1日本銀行調査統計局 E-mail : ichirou.fukunaga@boj.or.jp
- *2日本銀行調査統計局 E-mail : yoshihiko.hougen@boj.or.jp
- *3日本銀行調査統計局(現・名古屋支店) E-mail : youichi.ueno@boj.or.jp
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